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         プーチンとセルゲイ・ショイグ国防相(ロイター)


   シリアはロシアにとってのベトナム戦争か

      ー中東でのロシアの主導体制は可能かー


【目次】
【1】 シリアはロシアにとってのベトナム戦争か

     −サウジ・イラン対立長期化がロシア財政を蝕む−

【2】 中東でのロシアの主導体制は可能か



    【1】 シリアはロシアにとってのベトナム戦争か

        −サウジ・イラン対立長期化がロシア財政を蝕む−


シリアの和平協議は頓挫し、現状のままでは交渉の進展は悲観的と見られています。

シリア和平協議 3週間中断 国連が発表 (2016/02/04 NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160204/k10010396681000.html

ロシアによるシリア内戦への介入が泥沼化してきたことは、2015年の終りぐらいから言われていたようですが、今年1月初めのサウジ・イラン間の国交断交によるその長期化は、ロシアのシリア介入をベトナム戦争化し、ロシアの財政をいっそう悪化させるでしょう。さらに1バレル20ドル台という原油価格の歴史的下落の長期化がそれに拍車をかけます。

サウジ・イラン対立の先鋭化は、今現在ジュネーブで開かれているシリア和平協議での合意を難しくしているのと同時に、シリアでのIS包囲網に支障が出てISを勢いづかせることにもなります。

ブッシュ政権で国務省の上級アドバイザーを務め、現在米国のシンクタンクの常任理事で「アル・モニター」ではロシアの中東問題などを扱うポール・サンダース氏は、1月12日の記事で次のように指摘していました。

「サウジとイランの対立がシリアでの政治的解決・和平を遅くし妨げる。いつまで続くかわからない泥沼戦がロシア経済をさらに悪化させる。米国にとってのベトナム戦争と同様に。」(要約)

Why Iran-Saudi fallout will be costly for Moscow (January 12, 2016 アル-モニター)
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2016/01/saudi-iran-dispute-russia-middle-east-foreign-policy.html

ベトナム戦争に加え、米国にとってのイラク戦争を並べてもいいでしょう。サンダース氏は旧ソ連にとってのアフガニスタン紛争(1979-1989)での疲弊もその例として挙げています。

「ソ連軍のアフガニスタン国内での戦闘は、1979年の出兵から1989年の完全撤収まで約10年に及んだ。(中略)ソビエト連邦軍はゲリラに対して決定的な勝利を得られないまま1989年に全面撤退したが、戦争の当事国双方に大きな影響が残された。」(ウィキペディア)


2015年の9月末にロシアはシリアでの空爆を開始したのでまだ4ヶ月余りしかたっていません。ベトナム戦争(1960-1975)は14年余り、旧ソ連のアフガニスタン紛争は9年余り続きましたから期間的には比較にならないかもしれません。

しかし、「シリアでのロシアの軍事的プレゼンスはベトナムでの米国のプレゼンスと比較しほど遠い(小さい)が、現在のロシア全体の軍事力レベルが米ソ冷戦期よりもかなり縮小されたものであり、しかもウクライナで紛争を抱えているのでロシアの負担は重い」とサンダース氏は言っています。

また、冒頭でも述べましたが、歴史的な原油の値下がりでロシアの財政はいま極端に悪くなっており、その安値は当面続きそうで、シリアへの軍事介入におけるロシアの財政負担はこの先もずっと重く圧迫され続けます。

さらに現在は、ベトナム戦争などの冷戦期とは全く違い、オンライン化された投機経済によって原油価格やルーブル安などが及ぼすロシア経済・財政への衝撃度は、非常に大きなものになっています。

そして、サンダース氏は、「米国によるイラクとアフガニスタンの戦争のあとで、<米国とロシアの中東での役割が皮肉なことに逆転をしたように見える>、ロシアは楽観的過ぎる初期の見通しの結果を成し遂げようと苦闘している」とも言っています。

ロシアはシリアへの軍事介入によって中東問題、ウクライナ問題、NATOの分裂などでの外交的主導権と国際的な影響力を強めようとしていたのですが、どうもプーチンには戦略的緻密さが欠けているようです。

またサンダース氏は、「サウジとイランの実際の戦争は、両国とって極端に犠牲が大きいのでまったく起こりそうもないと述べ、その理由として、戦争を行えば即座に石油主導の両国の経済が、復興に非常に時間がかかってしまう高価な石油インフラを破壊しあうリスクへ陥る」ことを挙げています。

そして同氏は、「ロシアにとっての最大の問題は、そのようにサウジとイランの関係が劇的に悪化することではなく、両国関係が現在の国交断絶のような悪化状態から速やかに回復することがありそうもないことだ」と指摘しています。


    【2】 中東でのロシアの主導体制は可能か


2015年の9月末から開始されたロシアのシリアでの空爆の猛烈さから、現在米国の中東政策の変更から生じた空白(vacuum)をロシアが主導する中東の体制に転換していくなどと、気の早い意見を述べる人たちが日本のネットでも田中宇さんなどをはじめとして多くいるようです。

中東情勢は卓上盤のオセロゲームとは違います。
2011年初頭から本格化した「アラブの春」という中東民主化運動の大変動のエネルギーのなかで、プーチンの空爆作戦は「破壊」はお得意かもしれませんが、そのあとの中東の民衆と過激派・テロリズムに対しての「統治」については何のプランもないようです。

「統治」ができなければ敵を破壊した後、「アラブの春」という大変動やテロリズムのエネルギーによって、その国に再び混乱と混沌(chaos)が起こります。

2015年の10月に米国のシンクタンク大西洋評議会(The Atlantic Council)の上級フェローのNussaibah Younis氏が、次のようなことを述べています。

「米国は敵を倒した後のスンニー・シーア派などの宗派対立などをふまえた「統治」のことまで考えてイラクで作戦を展開しているが、ロシアはそうではないようだ。」(要約文)

Iraq Should Fear Russia’s Help (イラクはロシアの支援を恐れるべきだ OCT. 12, 2015 ニューヨーク・タイムズ)
http://www.nytimes.com/2015/10/13/opinion/iraq-should-fear-russias-help.html?_r=0

ロシアは、少なくとも2015年の9月の段階では、シリアの次はイラクへとその「国盗り物語」を計画していましたが、米国が中東での長い「テロとの戦い」から学んだ「戦争終結後の社会統治」の重要性という視点がロシアには欠けています。

ロシアにとって重要なのは「統治」ではなくて、中東での外交的主導権とそれによって得られる国際的な影響力だという見方がありますが、中東での「統治」に関与できず、シリア空爆を通し現代の投機経済によって疲弊していくロシアには、「中東をロシアが主導する体制に転換していく」ことなどできないでしょう。

ロシア人民を統治するのと中東を統治するのとは全く違うでしょう。

シリア軍事介入のベトナム化の現状を前に、プーチンはどのような打開策をとるのでしょうか。


■ 関連記事:
ブレジンスキー: ロシアの「最大の目的」と経済危機 ( 拙稿 2015/03/26)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39369618.html

シェール革命の影響と米国の中東政策 ( 拙稿 2014/12/25)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39207813.html
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