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これからもよろしくお願いします

今後も国際政治と軍事問題のほか、世界と日本の
経済問題も扱っていきます。


           平成2835

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         プーチンとセルゲイ・ショイグ国防相(ロイター)


   シリアはロシアにとってのベトナム戦争か

      ー中東でのロシアの主導体制は可能かー


【目次】
【1】 シリアはロシアにとってのベトナム戦争か

     −サウジ・イラン対立長期化がロシア財政を蝕む−

【2】 中東でのロシアの主導体制は可能か



    【1】 シリアはロシアにとってのベトナム戦争か

        −サウジ・イラン対立長期化がロシア財政を蝕む−


シリアの和平協議は頓挫し、現状のままでは交渉の進展は悲観的と見られています。

シリア和平協議 3週間中断 国連が発表 (2016/02/04 NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160204/k10010396681000.html

ロシアによるシリア内戦への介入が泥沼化してきたことは、2015年の終りぐらいから言われていたようですが、今年1月初めのサウジ・イラン間の国交断交によるその長期化は、ロシアのシリア介入をベトナム戦争化し、ロシアの財政をいっそう悪化させるでしょう。さらに1バレル20ドル台という原油価格の歴史的下落の長期化がそれに拍車をかけます。

サウジ・イラン対立の先鋭化は、今現在ジュネーブで開かれているシリア和平協議での合意を難しくしているのと同時に、シリアでのIS包囲網に支障が出てISを勢いづかせることにもなります。

ブッシュ政権で国務省の上級アドバイザーを務め、現在米国のシンクタンクの常任理事で「アル・モニター」ではロシアの中東問題などを扱うポール・サンダース氏は、1月12日の記事で次のように指摘していました。

「サウジとイランの対立がシリアでの政治的解決・和平を遅くし妨げる。いつまで続くかわからない泥沼戦がロシア経済をさらに悪化させる。米国にとってのベトナム戦争と同様に。」(要約)

Why Iran-Saudi fallout will be costly for Moscow (January 12, 2016 アル-モニター)
http://www.al-monitor.com/pulse/originals/2016/01/saudi-iran-dispute-russia-middle-east-foreign-policy.html

ベトナム戦争に加え、米国にとってのイラク戦争を並べてもいいでしょう。サンダース氏は旧ソ連にとってのアフガニスタン紛争(1979-1989)での疲弊もその例として挙げています。

「ソ連軍のアフガニスタン国内での戦闘は、1979年の出兵から1989年の完全撤収まで約10年に及んだ。(中略)ソビエト連邦軍はゲリラに対して決定的な勝利を得られないまま1989年に全面撤退したが、戦争の当事国双方に大きな影響が残された。」(ウィキペディア)


2015年の9月末にロシアはシリアでの空爆を開始したのでまだ4ヶ月余りしかたっていません。ベトナム戦争(1960-1975)は14年余り、旧ソ連のアフガニスタン紛争は9年余り続きましたから期間的には比較にならないかもしれません。

しかし、「シリアでのロシアの軍事的プレゼンスはベトナムでの米国のプレゼンスと比較しほど遠い(小さい)が、現在のロシア全体の軍事力レベルが米ソ冷戦期よりもかなり縮小されたものであり、しかもウクライナで紛争を抱えているのでロシアの負担は重い」とサンダース氏は言っています。

また、冒頭でも述べましたが、歴史的な原油の値下がりでロシアの財政はいま極端に悪くなっており、その安値は当面続きそうで、シリアへの軍事介入におけるロシアの財政負担はこの先もずっと重く圧迫され続けます。

さらに現在は、ベトナム戦争などの冷戦期とは全く違い、オンライン化された投機経済によって原油価格やルーブル安などが及ぼすロシア経済・財政への衝撃度は、非常に大きなものになっています。

そして、サンダース氏は、「米国によるイラクとアフガニスタンの戦争のあとで、<米国とロシアの中東での役割が皮肉なことに逆転をしたように見える>、ロシアは楽観的過ぎる初期の見通しの結果を成し遂げようと苦闘している」とも言っています。

ロシアはシリアへの軍事介入によって中東問題、ウクライナ問題、NATOの分裂などでの外交的主導権と国際的な影響力を強めようとしていたのですが、どうもプーチンには戦略的緻密さが欠けているようです。

またサンダース氏は、「サウジとイランの実際の戦争は、両国とって極端に犠牲が大きいのでまったく起こりそうもないと述べ、その理由として、戦争を行えば即座に石油主導の両国の経済が、復興に非常に時間がかかってしまう高価な石油インフラを破壊しあうリスクへ陥る」ことを挙げています。

そして同氏は、「ロシアにとっての最大の問題は、そのようにサウジとイランの関係が劇的に悪化することではなく、両国関係が現在の国交断絶のような悪化状態から速やかに回復することがありそうもないことだ」と指摘しています。


    【2】 中東でのロシアの主導体制は可能か


2015年の9月末から開始されたロシアのシリアでの空爆の猛烈さから、現在米国の中東政策の変更から生じた空白(vacuum)をロシアが主導する中東の体制に転換していくなどと、気の早い意見を述べる人たちが日本のネットでも田中宇さんなどをはじめとして多くいるようです。

中東情勢は卓上盤のオセロゲームとは違います。
2011年初頭から本格化した「アラブの春」という中東民主化運動の大変動のエネルギーのなかで、プーチンの空爆作戦は「破壊」はお得意かもしれませんが、そのあとの中東の民衆と過激派・テロリズムに対しての「統治」については何のプランもないようです。

「統治」ができなければ敵を破壊した後、「アラブの春」という大変動やテロリズムのエネルギーによって、その国に再び混乱と混沌(chaos)が起こります。

2015年の10月に米国のシンクタンク大西洋評議会(The Atlantic Council)の上級フェローのNussaibah Younis氏が、次のようなことを述べています。

「米国は敵を倒した後のスンニー・シーア派などの宗派対立などをふまえた「統治」のことまで考えてイラクで作戦を展開しているが、ロシアはそうではないようだ。」(要約文)

Iraq Should Fear Russia’s Help (イラクはロシアの支援を恐れるべきだ OCT. 12, 2015 ニューヨーク・タイムズ)
http://www.nytimes.com/2015/10/13/opinion/iraq-should-fear-russias-help.html?_r=0

ロシアは、少なくとも2015年の9月の段階では、シリアの次はイラクへとその「国盗り物語」を計画していましたが、米国が中東での長い「テロとの戦い」から学んだ「戦争終結後の社会統治」の重要性という視点がロシアには欠けています。

ロシアにとって重要なのは「統治」ではなくて、中東での外交的主導権とそれによって得られる国際的な影響力だという見方がありますが、中東での「統治」に関与できず、シリア空爆を通し現代の投機経済によって疲弊していくロシアには、「中東をロシアが主導する体制に転換していく」ことなどできないでしょう。

ロシア人民を統治するのと中東を統治するのとは全く違うでしょう。

シリア軍事介入のベトナム化の現状を前に、プーチンはどのような打開策をとるのでしょうか。


■ 関連記事:
ブレジンスキー: ロシアの「最大の目的」と経済危機 ( 拙稿 2015/03/26)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39369618.html

シェール革命の影響と米国の中東政策 ( 拙稿 2014/12/25)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39207813.html
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    サウジとイランの緊張激化はパキスタンがカギを握る


元CIAアナリストでサウジと南アジアを専門とするブルース・リーデル氏(現在、米ブルッキングス研究所)が、サウジとイランの間でのパキスタンの立場について書いています。

Why do Saudi Arabia and Iran compete for Pakistani support? ( 1/11-2016 ブルッキングス研究所) 
http://www.brookings.edu/blogs/markaz/posts/2016/01/11-saudi-arabia-iran-compete-for-pakistan-riedel

この記事の題名となっている「なぜサウジとイランはパキスタンの支援を得るために争うのか?」という問いの答えは、自明なことなので記事中では触れていませんが、これはサウジがイランの軍事力増強を非常に警戒し、パキスタンから核兵器を入手する準備を進めようとしている事を指します。

「パキスタンは何十年もの間、サウジとイランが競合する舞台であった」とリーデル氏は強調します。

パキスタンは人口の約8割がスンニ派で、約2割がシーア派ですが(正確には国全体の97%のイスラム人口のなかで)、リーデル氏によれば、パキスタンの責任のある政治家たちは、国内でこれ以上この2宗派間での対立を、さらに分裂させ、激しくさせることを避けたいと考えています。

そして、「パキスタンのシャリフ首相は、サウジへの(軍事)支援として穏やかな約束を申し出ており、イランとサウジ両方との強い対話をこれまで通り維持し、両国の間の仲裁への準備ができているというシグナルを送っている」という事です。

“Instead, Prime Minister Nawaz Sharif offers bland assurances of support for the Kingdom, maintains a robust dialogue with both Tehran and Riyadh, and signals readiness to mediate between the two.”

リーデル氏によると、パキスタンでの影響力を握るために、サウジとイランがそれぞれの宗派勢力を拡大しようと全国におよぶ宗教学校への資金援助に力を入れていることを一例として挙げていますが、このほかにも中国によってイランからパキスタンへ天然ガスを送るパイプラインを建設するプロジェクトなどもあります。

サウジはパキスタンに核の梯子をはずされるか ( 拙稿 2015/6/13)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39440118.html

リーデル氏は、「パキスタンは原則的には、サウジを中心とするスンニ派同盟の軍事協定を支援・支持する。しかし、具体的な軍事行動のどのようなものも、パキスタン自身の利益(merits)から判断されるだろう」と言っています。

      ◆      ◆ 

プーチン・ロシアの戦略については、ワシントン中東政策研究所のエフード・ヤアリ氏が、2015年10月にプーチンの中東戦略の中長期ビジョンとして的確かつまとまった記事を掲載していました。

Russia Pursues a New Baghdad Pact (2015/10/08 ワシントン中東政策研究所)
http://www.washingtoninstitute.org/policy-analysis/view/russia-pursues-a-new-baghdad-pact

ロシアは、シリアからもっと早くイラクへと勢力範囲を広げようとしていました。ヤアリ氏が指摘したプーチンの中東戦略の中長期ビジョンは、イランの保守派のそれとオーバーラップします。

その後、トルコによるロシア戦闘機の撃墜事件やサウジとイランの外交断絶などがあり、ロシアの中東戦略は変更を迫られています。


カール・マルクスは、国際政治などの上部構造は経済という下部構造に大きく影響を受けると言ったそうですが(逆方向の作用も)、米国FRBが進めようとしている金融政策の正常化(利上げ)、中国の金融・経済戦略の未知数の部分など、すでに不穏な動きが出ているように、今年は経済的にも多難な年になると思います。

今年は更新頻度を少し上げて、必要に応じて経済の方でも記事が増やせたらと思います。
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  集団的自衛権の戦略は中国・ロシアの連合軍には機能しない

    ―尖閣諸島を想定しロシア・中国軍が上陸訓練―


【目次】

【1】 尖閣諸島を想定しロシア・中国軍が上陸訓練

【2】 集団的自衛権の戦略は中国・ロシアの連合軍に機能するか



7月15日に安全保障関連法案が衆議院で可決され、すでにその成立の見通しがほぼたった頃、米国の戦略国際問題研究所のHPに、次のように書かれた記事が掲載されました。

「いま、日本の議会による安保法案が検討されていることは、東アジアの防衛問題での潜在的な大きい転換の始まりの前兆を示している」

The future of Russia-Japan relations (「ロシア-日本関係の先行き」 戦略国際問題研究所 SEP 2, 2015)
http://csis.org/publication/pacnet-55-future-russia-japan-relations

この記事のこの言葉は、単に、日本の集団的自衛権の行使容認によって、米国と日本の軍事力の一体化が強化されることを指しているのではありません。日本のマスコミは東アジアでの日米同盟の結束だけを報道し、その敵対勢力(複数)の動きをあまり伝えていませんが、「東アジアの防衛問題での潜在的な大きい転換の始まり」とは、2年ほど前から始動を始めた<東アジアでの中国とロシアの軍事協力の拡大>を指します。

北東アジアでの中国・ロシアの戦略的協力―日米同盟 VS 中露の戦略的協力―(5/28-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39461397.html

最近の中露間での軍事関係を扱ったものとして、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)のHPから9月に公開されたユー・ビン氏のレポートを調べてみました。

Comparative Connections v.17 n.2 - China-Russia: Tales of Two Parades, Two Drills, and Two Summits (戦略国際問題研究所 SEP 15, 2015 PDF)
http://csis.org/publication/comparative-connections-v17-n2-china-russia


  【1】 尖閣諸島を想定しロシア・中国軍が上陸訓練


中国とロシアの海軍が日本海で演習、上陸訓練も 日米牽制か
http://www.sankei.com/world/news/150820/wor1508200034-n1.html

「ロシアと中国の海軍は20日、極東ウラジオストク周辺の日本海で合同演習「海上連合−2015」を開始した。演習には対空、対艦、対潜水艦作戦などに加え、合同での上陸訓練が含まれており、中国が領有権を主張する沖縄県・尖閣諸島や南シナ海をめぐる米中対立などを念頭に、日米を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられる。
(以下省略)」(8月20日-2015 産経新聞)

上記の産経新聞、また時事通信などの記事もそうですが、この中露の8月の合同演習の「尖閣諸島を念頭に」したと思われる上陸訓練の位置づけを、産経は「上陸訓練が含まれている」程度にしか伝えていませんが、専門家のユー・ビン氏の報告では違います。

戦略国際問題研究所のHPで、年3回の中露関係のレポートを担当しているユー・ビン氏(ウィッテンバーグ大学 米国)は、この合同軍事演習の中心的な主題は、「『共同での海上航路の保証(確保)と共同での上陸活動』であった」と分析しています。

The theme of the second phase of the exercise was “joint assurance of sea traffic and joint landing activities.”

「共同での海上航路の保証(確保)」は、産経新聞でも触れているように南シナ海の有事を想定したもので、「共同での上陸活動」は尖閣諸島を想定したものと思われ、この共同上陸訓練は中国とロシア両軍にとって最初の訓練になりました。

「日米両政府が4月に改定した防衛協力指針(ガイドライン)では、新たな協力項目に離島防衛を明記し」、「陸上自衛隊は2017年度末までに、離島への上陸・奪還作戦を展開する『水陸機動団』を発足」させます。

離島防衛 切れ目なく 陸自、専門部隊を育成 (9/28-2015 日経 )
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS27H1L_X20C15A9PE8000/

ユー・ビン氏の報告によれば、日米のこの動きに呼応したとも言えるこの中露の共同上陸訓練では、侵攻のための組織化された陸、海、空軍の組織的な軍事行動(“amphibious landing”)を含む武力を、さらに両軍で統合(一体化)して行われたとのことです。

今回の極東ウラジオストク周辺の日本海での合同演習「海上連合-2015」(“Joint Sea-2015”)に使われた全体での兵器の内訳を見てみますと(PDF6ページ)、

水上艦が合計23隻、潜水艦2隻、固定翼機15機、無人機2機、艦載ヘリコプター8機、水陸両用「装備(車両)30台、そして総勢400名の海軍兵士。

水上艦については、「ロシアメディアによると、中国側から駆逐艦など7隻が参加。ロシア側からは太平洋艦隊旗艦のミサイル巡洋艦「ワリャク」などが加わった」そうです(前出産経記事)。

これらをロシア、中国に分けて見てみますと、

ロシア海軍からは、水上艦16隻、潜水艦2隻、固定翼機10機、艦載ヘリコプター2機、水陸両用装備(車両)9台、そして200名の海軍兵士。

中国からは水上艦7隻、艦載ヘリコプター6機(海軍)、固定翼機5機(空軍)、水陸両用装備(車両)21台、そして200名の海軍兵士。

(無人機2機は、どちらから参加したのか記載がありません)

政府は、「離島占拠が本格的な武力攻撃に発展する事態に備え、日米で共同対処する体制も整えて」いますが(前出日経記事)、中国とロシアも尖閣問題が本格的な武力攻撃に発展する事態に備え、共同対処する体制を整えているようです。

現在、ロシアと中国の間では、24機のスホイ-35長距離多用途戦闘機(Su-35)、S-400対空ミサイル・システム、そして何隻かの第五世代カリーナ級の通常動力潜水艦などの大型の商談がまとまっていると見られています(ユー・ビン氏レポート)。

ユー・ビン氏の今年5月の報告によれば、中国がS400を受け取るのは2017年と見られているそうですが、同氏のこの9月の報告では中国人消息筋の話として、スホイ-35戦闘機(Su-35)も2017年に中国へ譲渡される予定になっているそうで、これにより2017年は、中露の軍事協力によって中国軍の戦力が飛躍的に向上します。

(※ 前出拙稿『北東アジアでの中国・ロシアの戦略的協力』の第2節「中露のS400と尖閣諸島 +S500」を参照)
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39461397.html


  【2】 集団的自衛権の戦略は中国・ロシアの連合軍に機能するか


日米両政府は今年4月、ニューヨークで「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を18年ぶりに改定しましたが、国立国会図書館の調査及び立法考査局の報告書を見ると、今回の2015年のガイドラインの「脅威の対象」は「中国、北朝鮮、国際テロ」であると明確に新ガイドラインを分析しており、プーチンが指導するロシアの存在、ましてや中国とロシアの連合軍という現出しつつある想定が「脅威の対象」に含まれていません。

新たな日米防衛協力のための指針―その経緯と概要、論点―(国立国会図書館 調査及び立法考査局 8/25-2015 PDF)
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9484419_po_0874.pdf?contentNo=1

ワシントンのハドソン研究所の首席研究員で日米同盟を長年研究してきた日高義樹氏は、2015年の今回のガイドラインの想定を、私のこの意見とは違った意味で、「すでに過去のものになっている」想定といって批評しています(※注-1)。
ガイドラインとは、日米安全保障条約に基づく防衛協力の具体的なあり方を取り決めた文書です。

2015年8月の日高氏の著作レポートでは(※注-2)、中国のA2AD戦略が米国の軍事技術力に全くかなわないことが明らかになってきたため、中国が核兵器の先制使用を軍事戦略に組み込んでいる可能性が述べられています。また、プーチン率いるロシアは、いつ軍事ドクトリンを修正し、核兵器の先制使用を容認するかもわかりません(下記記事第2節「予防的核攻撃」参照)。

ロシアの核兵器戦力の準備とウクライナ (2014/09/11 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39024587.html

中国は自国の通常戦力(核兵器以外の戦力)が米国のその軍事技術力に全くかなわないことが明らかになったため、ロシアの軍事技術を導入し、ロシア製の最新兵器を多く購入するため、ロシアとの軍事協力の拡大へとすでに大きく転換し始め、動き出しています。

前出のユー・ビン氏の9月のレポートによれば、「中国とロシアの間の『軍事技術協力』の問題は、5月のプーチンと習近平の会談のなかで『特別な配慮』がされた領域であった」といいます。
この二人の会談の後、セルゲイ・ショイグ国防相は次のように言ったと伝えられています。

「我々(ロシアと中国)は、今後も一貫して『軍事技術協力』を拡大するつもりである。『軍事技術協力』というこの領域は、ロシア-中国関係という複合体のなかで重要な場所に位置する」

“We intend to expand it [military- technical cooperation] consistently. This area of collaboration has an important place in the complex of Russian-Chinese relations,” Defense Minister Shoygu was quoted as saying.

また副国防相のアナトリー・アントノフはマスコミに対し、中露両国が「挑戦者と脅威」への立場を「共有する」ことを付け加えたうえで、次のように発言しています。

「中国との協力は、『新しい挑戦者と脅威に反撃するために共同の潜在力を増大させる』ことを目標にしている」

冒頭のCSISの記事では、中国訪問の後の2014年11月にショイグ国防相は、「中露両国の軍事行動(“military operations”)と軍事技術での協力の必要性」をとりわけ強調しながら、「ロシアと中国の戦略的パートナーシップは、ユーラシア地域全体の平和と安定に貢献する」と言明したと述べています。

日本の自衛隊を米国が便利に利用できるようになった新しい安全保障法は、今の段階では米国の軍事専門家やワシントンの政治家たちから良い評価を得ています。

しかし、核兵器と弾道ミサイルの膨大な破壊力を有する超軍事大国、「中国とロシアの連合軍」の前には、このような数年遅れの日米ガイドラインでは対応が不可能・困難であり、米国世論はやがて日米同盟の危険性に拒否反応をおこすことが考えられます。

その事により、日本政府が現在掲げている集団的自衛権の拡大に基づいた国家の防衛戦略もやがては空疎化し、集団的自衛権の行使は自衛隊を米国に便利に利用されるだけに終わることになりかねません。

冒頭のCSISの記事の執筆者であるアンドレイ・カザク氏は、「東アジアでの防衛と安全保障のなかでの中国とロシアの重大な協力は、日本がその一員である米国主導のシステムに最大の挑戦をほぼ間違いなく引き起こす」と述べています。

このことは2014年から2015年にかけて次第に鮮明になってきていることで、近年のロシアのアジア戦略の重要な拠点の一つとして千島列島を考えているプーチンは、北方領土返還や大統領訪日を強く求めてくる安倍政権をトンチンカンだと考えているはずです。

ロシアのプーチンには中国が世界で一番重要で必要な存在であり、安全保障法を成立させ米国との同盟を強化し、中国との対立を一層強めながら「日本とロシアは仲良くしましょう」というのだから、プーチンから言わせれば大ボケです。

ハドソン研究所で日米同盟を長年研究してきた日高義樹氏は、最新刊の著作レポート(2015年8月刊)で、現在の日本政府の集団的自衛権の拡大に基づいた防衛戦略の限界を指摘しています。
日高氏は、核兵器の先制使用を組み込んだ中国の新しい核戦略に対しては、「現在、日本が進めている集団的自衛権の拡大といった、その場しのぎの対応策では、危機を回避できない」と言っています(※注-3)。


       ◆      ◆

アベノミクスは輪転機ばかり回してもその効果は剥落し、景気は消沈していきます。国の借金を膨大に膨れ上がらせ、「中国とロシアの連合軍」という敵から国を守り、米国の今後の軍事的要請を受け入れ続けるには、輪転機をもっと増やして、すべての輪転機をガンガン回さなければなりません。

日本が壊れるまで(金利が急騰するまで)輪転機をガンガン回し、膨大な借金をなお膨れ上がらせ続けている日本が、「中国とロシアの連合軍」から国家を防衛し続けることなど果たしてできるでしょうか。

金利が急上昇し始めれば、日本は戦さのまえに「素寒貧」(スカンピン)です。「素寒貧」の日本が日米同盟で集団的自衛権の拡大などできるでしょうか。そうなれば米国にしたって日米同盟など迷惑な話でしょう。

国家の防衛を支えるのは財政です。

アベノミクスの本質は輪転機を回すことです。

いまの海外経済が悪くなることを想定しなかったのは、明日の野外イベントに雨天を想定しなかったのと同じです。輪転機さえ回していれば政権を維持していけると思ったのでしょう。

非常な難題となりますが、日米安保条約や経済財政の在り方を含め、日本は根本的に国家戦略を練り直し、早急に新しい戦略をつくりだす必要があります。


■ 関連記事
IMFは中国の構造改革にポジティブな評価をしている (2015/09/09 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39592486.html

北海道を狙うプーチンと中ロの秘密同盟(2014/07/28 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38890251.html

米国は核兵器でロシアに対抗するか(2015/02/26 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39313605.html

■ 資料
日米防衛協力のための指針(ガイドライン) (防衛省)
http://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/shishin/

■ 注:
注-1:『日本人が知らない「アジア核戦争」の危機』 17ページ 日高義樹著 2015.8.4刊 PHP研究所)
注-2:同上書
注-3:同上書25ページ




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【目次】
【1】 今後5年間は苦難の調整期
    ―IMFとローチ氏はポジティブな評価−
【2】 IMF報告書の紹介とローチ氏の解説



「中国は、ペースは遅いが、より安全に、より持続可能な成長とともに「新常態」へ移行しつつある」 ( IMF 2015年8月14日)



    【1】 今後5年間は苦難の調整期

        ―IMFとローチ氏はポジティブな評価−


日本のマスコミ、そしてブログなどネットでは中国経済の実態の根本的な動きが知られていないようで、一様に中国経済は単に相当悪化しているという記事が多いようです。これは海外でも同じようで、中国経済の構造改革の進展に焦点を当ててポジティブな評価をしているのは少数派のようです。

トルコの首都アンカラで9月5日まで開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、「中国の楼継偉(ろうけいい)財政相が、中国経済の先行きについて『今後5年間は構造転換の陣痛期になる。苦難の調整過程になるだろう』との見通しを示した」そうです(9月6日 毎日新聞)。

東京新聞などはこのことを会議筋の話として、「今後五年間は厳しい状態が続く。もしかしたら十年間かもしれない」と楼継偉財政相が説明したと伝えています。

9月6日の毎日新聞を抜粋すると、


楼財政相は「構造転換の陣痛期」について「過剰生産や過剰在庫の解消には数年間が必要」と説明した。

 習近平指導部は、中国経済を投資依存の高成長から消費主導の安定成長に構造転換させることを目指しており、楼財政相は「構造転換に伴う主要な改革は20年までに完成させる必要がある」と表明。だが、非効率な国有企業が温存されるなど投資依存からの脱却は難航が必至で、「消費主導への転換は苦難の調整過程になるだろう」と認めた。

 一方、楼財政相は今後4〜5年の国内総生産(GDP)の実質成長率について「改革推進で(今年の政府目標の)7%前後を維持する」とも述べた。消費関連のサービス業が発展していることを訴えたが、改革の具体策は示していない。

G20:中国「5年は苦難の調整」 生産・在庫が過剰 (毎日新聞 2015年09月06日)
http://mainichi.jp/select/news/20150907k0000m020100000c.html



今後5年間が中国の構造転換の陣痛期で、それが苦難の調整過程になるならば、いつか来る事態であったとはいえ、これから世界経済は相当な影響を受けるでしょう。

2014年の春にも「中国経済の崩壊はいよいよ今年か」などの見出しがネットやマスコミを賑わせましたが、この時はある株式評論家が連日のように「中国経済崩壊、中国経済崩壊!」と連呼していました。

この時期、元モルガンスタンレー・アジア会長で中国経済の専門家であるスティーブン・ローチ氏(現エール大学ジャクソン研究所シニア・フェロー)は、中国の構造改革を高く評価していましたが、今回も<ポジティブな評価>をしています。

中国経済は危機突破の方向へ進んでいる (2014/04/10 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/38632023.html?type=folderlist

中国経済の専門家であるローチ氏のコメントは、「影響力のあるエコノミスト」(米CNBC)として、今回も英フィナンシャル・タイムズ紙ほかいくつものサイトで取り上げられています。

そして、国際通貨基金(IMF)ですが、IMFは中国の構造改革の進展について、8月25日のプロジェクト・シンディケイトに掲載されたローチ氏の見解と同じポジティブな評価をしています(ローチ氏自身がIMFの見解を紹介しています)。

IMF Executive Board Concludes 2015 Article IV Consultation with the People’s Republic of China(概要版)August 14, 2015 IMF
http://www.imf.org/external/np/sec/pr/2015/pr15380.htm

China’s Complexity Problem(中国の複雑性の問題) スティーブン・ローチ August 25, 2015
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-complexity-problem-by-stephen-s--roach-2015-08


     【2】 IMF報告書の紹介とローチ氏の解説




中国の景気減速と株価急落、危機の予兆ではない=IMF高官 (8月22日 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/2015/08/23/china-imf-idJPKCN0QS0XK20150823

国際通貨基金(IMF)高官のカルロ・コッタレリ氏は22日、中国の景気減速と同国株式市場の急落について、危機の予兆ではなく、あくまでも「必要な」調整の前触れ、との認識を示した。記者会見で述べた。
(中略)
カルロ・コッタレリ氏はIMF理事会でイタリアやギリシャなどを代表しているエグゼクティブディレクター。同氏は記者会見で「金融政策は近年、非常に緩和的だった。調整が必要」と指摘した上で「中国の危機をうんぬんするのは、まったく時期尚早というものだ」と述べた。

同氏は、6.8%としているIMFの今年の中国成長率見通しを確認。「中国の実体経済は減速しているが、これは自然だ」と指摘した。

中国が今月、人民元切り下げに踏み切ったことについては、同氏は、IMFは向こう数カ月以内にも中国当局と協議するとしている。



前出のIMFの調査報告書の冒頭は、次のように始まります。

「中国は、ペースは遅いが、より安全に、より持続可能な成長とともに「新常態」へ移行しつつある」
China is transitioning to a new normal, with slower yet safer and more sustainable growth.

ローチ氏はこれに関連して(前出記事)、「西側の解説者は中国経済の議論を単純化し過ぎている、そしてそれを続けている」と言います(訳者注:中国経済の<問題を>単純化しているのではなく、それから派生した<議論を>単純化しているところから誤謬が生まれるということでしょう)。

その単純化し過ぎた議論は、「過去20年間、見当はずれであり続けてきたよく言われる中国のハードランディングのシナリオの観点から、この問題を組み立てている」と指摘しています。この夏の株価急落と人民元切り下げのサプライズの後も、同じことが再び起きていると言います。

そして、「中国に大変な不況が来るという恐れは、非常に誇張されている」と感想を述べています(“I suspect, however, that …”)。

IMFの調査報告書の前半から中身を少し抜粋してみますと、

「労働市場は低迷しながらも弾力性を維持したままである、これは、中国経済がより労働集約的なサービス業部門へと方向転換しているためである。」

ローチ氏はこれを解説した形で次のように述べています。

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中国の短期的な経済見通しについての議論は、つまらないものではないはずだ。中国経済において、はるかにより大きい構想は、リバランシング(rebalancing)への進路への<堅実な前進>である。すなわち、<製造業活動や建設業活動からサービス業への構造転換>である。

2014年の中国のGDP全体に占めるサービス業の比率は48.2%に達した。これは、製造と建設を合わせた42.6%をよく上回っている。そしてその差は広がり続けており、2015年の上半期ではサービス業は前年比8.4%増加した。これは製造業と建設業を合わせた6.1%の伸びを大きく上回っている。

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中国政府がGDP成長よりも優先させている政策目標の一つが、この<製造業活動や建設業活動からサービス業への構造転換>であり、ローチ氏はこれを、「よりはるかに大きい構想」(“the far bigger story”)と呼んでいます。

マスコミは中国経済の報道で頻繁にといえるほど、GDP成長率の数字を取り上げこだわりますが(公式の数字からかなり低い推測値まで)、いま進んでいる中国の構造転換のうち、<製造業や建設業からサービス業への構造転換>という“the far bigger story” から見ると、ローチ氏の記事に見られる数字のように、大きな成果をあげているわけです。


中国経済の専門家であるローチ氏によれば、今の中国経済を考える際に、欧米の大部分の観測筋は(日本も含め)、GDP成長率という数字にこだわり過ぎていると言います。

2014年3月に開催された中国発展フォーラムでは、ローチ氏に楼継偉財務相は次のように述べたそうです。

「中国は成長目標で、かつての1つの目標だけ(GDP)を重要視することから事実上脱皮している。中国政府は今、3つのマクロ経済目標を重要視しており、それは雇用創出、物価の安定、そしてGDP成長である」

人民銀の周小川総裁も金融政策において楼財務相と同様なことを述べています。

周総裁はこう述べたそうです─『中国人民銀行は、ただ一つだけの目標(GDP)を達成しようとしているわけではない。人民銀は、物価安定、雇用、GDP成長、国際収支という目的から成る多目的機能と呼ぶものと合致した金融政策の骨組みを作っている』

(前出拙稿「中国経済は危機突破の方向へ進んでいる」第2、3節から抜粋)



マスコミなどの見方に反するように、IMFのこの報告書では、GDP成長率を今年の6.5%〜7%から、来年は6%〜6.5%へ最大で1%さらに減速させることを中国に勧めています。IMFの担当責任者たちは、「経済を<上手に減速させていくこと>が中国の大事な課題である」と強調しています。

Directors highlighted the challenge of managing the slowdown, and recommended that macroeconomic policies should be calibrated to achieve an orderly adjustment by aiming for GDP growth of 6½ to 7 percent this year and 6 to 6½ percent next year.

また、シャドーバンキングの問題については、

「シャドーバンキングへの厳しい規制の結果として、信用の伸びはかなりの程度で減速しており、標準的な銀行の融資業務へ、以前より変化し改善されてきている」

そして「2008年の世界金融危機以来、信用融資による投資への依存が、中国経済に大きな脆弱性をつくっている」のですが、IMFは、より<持続可能な成長モデル>へ移行しようという中国当局の強い関与を歓迎し評価しています。

この<持続可能な成長モデル>へ移行するために、中国経済のもつ大きな脆弱性に中国当局がどのように対応してきているかが、このIMF報告書には記述され、IMFは中国当局のこれまでの構造改革全般の取り組みを肯定的に評価しています。

IMFの報告書のこの概要版は、中国政府が取り組んでいる構造改革と財政強化など中国経済全般の改革の進展について、非常に整理されて述べられているので一読されることをお勧めします。

ドイツのショイブレ財務相は9月5日のG20財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、「中国の経済成長鈍化について神経質になる必要はないとの見解でG20が一致したことを明らかに」しました。

「ショイブレ財務相は『中国は野心的な改革を決定し、さらなる改革を恒久的に追求していく方針を明確に示した』とも述べ、中国が金融市場改革の続行を約束したことも明らかにした」そうです。

G20、中国経済への懸念は不要との見解で一致=独財務相 (9/05-2015 ロイター)
http://jp.reuters.com/article/2015/09/06/g20german-idJPKCN0R603Q20150906

     ◆     ◆

今年5月に公開された日本に対する経済審査の報告書と比べると、中国経済のこの報告書の概要版に限って言えば、ネガティブな表現は見当たりません。この事は、日本に対するそれと対照的です。

IMFが日本のスタグフレーションに言及 (5/28-2015 拙稿 )
http://blogs.yahoo.co.jp/bluesea735/39461365.html

日本経済について5月の報告書は(5月の報告書ばかりではありませんが)、相も変わらない輪転機依存の金融政策と借金依存の<持続不可能な経済>を改めるように、再三にわたる警告をしています。

中国経済のもつ大きな脆弱性、これがために中国経済崩壊を大いに心配する人達が多いのですが、この大きな脆弱性に中国当局がどのように対応してきているかについては、また稿を改めて書ければと思います。

また、米国の米中経済安保調査委員会のHPが9月3日に公開した月例レポートの中の、人民元の動きについての考察についても稿を改めて書ければと思います。

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