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眼
西脇順三郎
白い波が頭へとびかかってくる七月に
南方の奇麗な町をすぎる。
静かな庭が旅人のために眠ってゐる。
薔薇に砂に水
薔薇に霞む心
石に刻まれた髪
石に刻まれた音
石に刻まれた眼は永遠に開く
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自薦 名詩
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渋沢孝輔 1969年作 「漆あるいは水晶狂い」より
1971年発行普及版より
水晶狂い
ついに水晶狂いだ
死と愛とをともにつらぬいて
どんな透明な狂気が
来たりつつある水晶を生きようとしているのか
痛いきらめき
ひとつの叫びがいま滑りおち無に入ってゆく
無はかれの怯懦が構えた檻
巌に花 しずかな狂い
ひとつの叫びがいま
誰にも発音されたことのない氷草の周辺を
誕生と出逢の肉に変えている
物狂いも思う筋目の
あれば 巌に花 しずかな狂い
そしてついにゼロもなく
群がりよせる水晶凝視だ 深みにひかる
この譬喩の渦状星雲は
かってもいまもおそるべき明晰なスピードで
発熱 混沌 金輪の際を旋回し
否定しているそれが出逢い
それが誕生か
痛烈な断崖よ とつぜんの傾きと取り除けられた空が
鏡の呪縛を打ち捨てられた岬で破り引き揚げられた幻影の
太陽が暴力的に岩を犯しているあちらこちらで
ようやく 結晶の形を変える数多くの水晶たち
わたしにはそう見える なぜなら 一人の夭折者と
わたしとの絆を奪いとることがだれにもできないように
いまここのこの暗い淵で慟哭している
未生の言葉の意味を否定することはだれにもできない
痛いきらめき 巌に花もあり そして
来たりつつある網目の世界の 臨界角の
死と愛とをともにつらぬいて
明晰でしずかな狂いだ 水晶狂いだ
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井伏鱒二(厄除け詩集より)
なだれ
峯の雪が裂け
雪がなだれる
そのなだれに
熊が乗つてゐる
あぐらをかき
安閑と
茛をすうような恰好で
そこに一ぴき熊がゐる
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