恋も友情もノープロブレム[小説 心に吹く風]

少しだけ、穏やかな気持ちの自分を取り戻しました(・///・)

ショ−トショ−ト

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雨が連れてきた

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              〜〜〜濡れているのは雨のせい?〜〜〜






今日は、久しぶりの雨が降っています。

あんまり泣き続けていたから、空まで涙で一杯になっちゃったのかな・・・。





               雨の朝の出来事

 「ダメだよ」
確かに幼い男の子の声でそう聞こえた。
洋子はちょっとだけ差していた傘を上げると、キョロキョロと辺りを見回してみる。
しとしとと小雨のぱらつく河川敷に人影はなかった。
一瞬、気のせいか、と思った時再びその声は聞こえた。
「ダメなんだよ。連れて行けないんだ。」
河川敷を見下ろす土手の道を歩いていた洋子からは、死角になっている
橋の下の橋脚の陰から聞こえてきたようだ。
いぶかしげに眉をひそめると、洋子は自分の腕時計をちらりと横目で見る。
時計の針は午前9時を大きく回っていた。
子供が学校に行く時間はとっくに過ぎている。
アパレル業界で働く洋子だから、通勤のラッシュを外れたこんな時間に歩いていたのだ。
いつもの洋子ならこのあと、肩をすくめて歩き出し、数秒のうちに
今聞いた子供の声など気にも留めずに忘れ去っていただろう。
でもその日、複雑な思いを胸に考え事などしながら職場に向かっていた洋子には、
ふと好奇心のようなものが働いて、駅へ向かう足は土手の下の橋脚の陰へと進んでいた。
雨で滑りそうになりながら、土手を下りていく。
橋の下の橋脚は何本かに分かれていて、その橋脚と橋脚の間に子供がいるようだ。
黒いランドセルの一部が見えている。
近づいていくと、かすかな甲高い鳴き声が耳に入ってきた。
に〜に〜と、どうやら小さな子猫のようである。
橋の下に入ると、洋子は傘をたたみながら声をかけた。
「ねぇ、学校に行く時間とっくに過ぎてるよ。遅刻なんじゃない?」
懐に抱きこんだ子猫に気をとられていたその子は、ビクリと大きく全身をびくつかせた。
「ごめん、脅かしちゃった?」
洋子は慌てて愛想笑いを浮かべる。
びっくりして振り向いた男の子の大きな瞳が、突然声をかけてきた洋子を警戒していた。
「やぁねぇ、上の道を歩いてたらあんたの声が聞こえたから、どうかしたんじゃないかと思って
わざわざ下りてきたのよ。そんな、敵対心むき出しにしないでよ。」
その子は、ジリ・・・と半歩下がった。
胸に黄色いキジの、生後2ヶ月にも満たないような子猫がしっかりと抱かれている。
「わぁ、可愛い子猫!!・・・それどうしたの?」
洋子は、か細い声で鳴いている子猫の頭を撫でた。
一瞬体を固くした男の子は、それでもゴロゴロと喉を鳴らし始めた子猫を見て
全身で息を吐き出した。
「学校に行く途中で、どこからかこいつが鳴きながら付いてきてるのに気が付いたんだ。
はじめは知らん振りしたり追っ払ったりしたんだけど、雨降ってるのにずっとついて来るから
びしょ濡れになってるしさぁ・・・。置いていけなくなって濡れないここに連れてきたんだよ。」
雨の粒がついた名札に、5年3組と書いてある。
5年生って10歳だっけ?もっといってた?
洋子はそんなことを考えながら子猫を撫でていた。
「おばさんコイツ飼ってくれない?」
唐突に男の子はそう言った。
「え?私?私がこの子を?・・・・無理無理無理!!とてもじゃないけど飼えないって。」
洋子はしどろもどろで両手を振る。
「このままここに置いて学校なんか行けないじゃんかよ。」
男の子はさも不満げに口を尖らせた。
あぁ、関わらなきゃよかった。
一瞬洋子の脳裏を後悔の念がよぎる。
何とかこの場を退散しなくては・・・。
「おばさん、コイツ小さいから雨に濡れたら体温が下がって死んじゃうこともわかんないんだよ。
誰かが守ってやらないと死んじゃうよ。一人ぼっちでなんか生きていけないよ。」
男の子の言葉が、洋子の胸の奥のまだ生々しい傷をかき回した。




「一人で生きていけよ。俺はいなくても平気だろ。」
最後に口にしたその言葉が、自分自身を深くえぐっているんだと分かるような
そんな傷ついて疲れ果てた眼差しだった。
そして、ちらりと洋子を一瞥すると、雨に濡れるのも構わず暗闇の中にその背中は消えていった。
洋子には、掛け値なしで愛しい存在だった。
彼がいるから、業界の激しい競合の中で連日続く深夜までの会議や残業にも耐えられたし、
会社に要求される無茶な売り上げを、不満たらたらの従業員をなだめすかして達成しても来れたのだ。
だが彼にしてみれば、いつもいつも残業や研修でそばにいない恋人に
寂しい思いを重ね続けていたのだろう。
洋子には突然と思われたその別れ話も、彼にしてみればもう限界だと考えた末だったに違いない。
返す言葉も見つからないまま呆然としている姿を、諦めたような眼差しで見つめていた彼は
最後の言葉を口にすると雨の中を去って行った。
一人残されてみると、そこは全く知らない場所のようだった。
仕方なく歩き始めたが、どこに行っていいのか分からない。
まるで帰るところを失くしてしまった迷い猫のようだ。
いつの間にか、彼と二人で入っていた傘がなくなっている。
降りそぼる雨に紛れて声をあげて泣いてみた。
惨めで孤独で、どんなに雑踏の中にいても一人ぼっちだと強く感じた。
明日私は生きていけるのだろうか。
そんなことを考えながら、冷たい雨を全身に受けていた。




「おばちゃん、頼むよ。こいつを飼ってあげて!」
昨夜の生々しいシーンの数々をフラッシュバックのように思い出していた洋子は
その声にハッ!とする。
「だからね、無理なのよ。・・・・って言うか、あんたさっきから人のことおばさん、おばさんって
失礼じゃない?」
男の子がニカッと笑う。
「じゃぁさ、お姉さん。お願いします。こいつを飼って!!!お願い!!!」
自分の頭より高く子猫を掲げると、洋子の胸の前に差し出した。
「ちょっ・・・現金だなぁ・・・。あんた調子いいね。」
洋子は苦笑しながらそう言った。
「俺ね、かけるっていうんだ。翔ぶっていう漢字だよ。」
名札に書いてあるから知ってるよ、と思いつつ頷いた。
「私の名前も聞く?」
からかうように言うと、一瞬顔を見上げて、どうでもいいよと答える。
ちょっと慌てて、洋子というのよ、と言った。
「俺さぁ、いつもこんな捨て猫とか捨て犬とか拾って帰ってお母さんに怒られるんだよ。
団地で飼えないの分かってて・・・って」
あぁ、そうか川上にある大型団地の子なのね。
「だってさ、せっかくこの世に生まれてきたのに、一人ぼっちで死んだりしたら最悪じゃん。
死ななくても、誰にも助けて貰えずに一人ぼっちで生きていくのも可哀相だと思うんだよ。
でも、俺じゃぁ、何にもしてやれないんだよね。だけど、置いて学校に行けなかったよ。」
『一人は嫌いなのに、一人で生きていけると思われた私は、一人ぼっちの子猫とよく似てる。』
洋子は何故だかその濡れて鳴き続けている子猫が、自分自身のように思えた。
思わず、翔という子の手から子猫を受け取って胸に抱き上げる。
「お前・・・私の家に来る?」
洋子の指より狭い鼻先を撫で付けると、気持ちよさそうに目を閉じた。
「やった!!本当に飼ってくれる?おばさん!!」
翔の目がキラキラ輝いている。
不思議なくらい迷いもなく洋子は答えていた。
「あんた・・・翔!!ちゃんと様子は見に来てよ。翔のとこの団地の手前の
自転車屋さんの前が家だからね。」
子猫を捨てずにすんで安心したらしい翔は、もう学校に向かって走り出しそうだ。
「なんだ。おばさん家あそこだったのか!わかったよ。絶対に見に行くから頼んだよ!
ありがとう、おばさん!!」
大きな瞳を一杯に見開いて笑いながら手を振る翔の背中に洋子は精一杯毒づいた。
「こらっ!!翔!!!あんたと子猫を救った天使みたいなお姉さんにおばさんって言うんじゃない!!
お姉さんと呼べぇっ!!!」
一瞬振り返った翔の顔は、青い傘に隠れて見えなかったが、
大きな笑い声だけが洋子の耳に届いてきた。
そして、土手を駆け上がって橋を渡る駆け足の音が響き、頭の上を通り過ぎる時
翔の声が大きく響いた。
「ありがとう!!!おばさん!!!!」
洋子は降り止まぬ雨を見上げると、小さくつぶやいた。
「こちらこそ、ありがとう。翔・・・」


                                       終







初めてのショートショートに挑戦してみました。
久しぶりの雨と、我が家にちょこちょこ訪問滞在する野良の子猫を見て書きました。
それと、孤独な人の心と・・・・。
感想・ご批判何でもコメント下さい。

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