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茨城県水戸市の書道研究書粹會、藤岡志龍のブログです。漢字、かな、実用書道、ペン習字、篆刻、学生書写などを教えています(^_^)

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こんばんは!
 
昨日に引き続き今日もよい天気の水戸、昨日よりも温かく感じるくらいです。
 
 
 
 
 
 
 
 
さて、昨日の記事の続きになりますが、
 
今日は、王羲之の特に草書における旋回が、拓本ではどのように処理されているのかを見ていきます。
 
 
 
昨日の記事で採り上げた、『遠宦帖(省別帖)』の中の5箇所の6つの文字を中心に視てみます。
 
というのも、墨跡本の『遠宦帖』(以下、墨跡本)は、『十七帖』の中に『省別帖』として収録されていて、
 
比較するには格好の法帖です。
 
拓本は『十七帖』ですから、もちろん、上野本と、三井本がありますので、
 
墨跡本と合わせて3種を比較して視ていきます。
 
 
 
 
まずは昨日挙げた、王羲之の特に草書における旋回4種。
 
イメージ 1
 
以下それぞれ、旋回A、旋回B、旋回C、旋回Dとします。
 
 
 
まず、1行目の上から2文字目の「別」を視てみると、
 
イメージ 2
 
墨跡本では筆圧の強いアクセントのある旋回Dのようになっています。
 
しかし、上野本では筆の方向が変化している程度の旋回Bになって(修正されてしまって?)います。
 
三井本に至っては抵抗もなくスムースに回っている旋回Aになって(修正されてしまって?)います。
 
 
次に、2行目の上から6文字目の「懸」を視てみると、
 
イメージ 3
左下の旋回では、墨跡本では筆圧の深くかかったアクセントの強い旋回Dのようになっています。
 
しかし、上野本では抵抗もなくスムースに回っている旋回Aになって(修正されてしまって?)います。
 
そして、三井本では筆の方向が変化している旋回Bになって(修正されてしまって?)います。
 
中央の旋回になると、墨跡本ではリズムとアクセントをつけた旋回Cのようなものですが、
 
上野本では、極細の軽々として弱々しいスムースな旋回Aのようなものになって(修正されてしまって?)いて、
 
墨跡本とはまるで違って見えます。
 
そして三井本では、筆の方向が変化している程度の旋回Bになって(修正されてしまって?)います。
 
 
 
次に、同じく2行目の下から3文字目の「武」を視てみると、
 
イメージ 4
 
墨跡本では筆を突きなおしてアクセントをつけた旋回Cのようになっています。
 
しかし、上野本では「懸」の中央の旋回と同様に、
 
極細の軽々とした旋回Aのようなものになって(修正されてしまって?)います。
 
そして、三井本では筆の方向が変化している旋回Bになって(修正されてしまって?)います。
 
 
 
次に5行目の最下の2文字「平安」を視てみると、
 
イメージ 5
「平」の旋回では、
 
墨跡本では筆圧を強くかけてアクセントをつけた旋回Dのようになっています。
 
しかし、上野本では何の抵抗も与えていないスムースな旋回Aのようになって(修正されてしまって?)いて、
 
三井本では、上野本ほど軽くはありませんが、
 
筆の方向が変わった程度の旋回Bのようになって(修正されてしまって?)います。
 
また「安」の旋回では、
 
墨跡本では筆を突きなおしてリズムをつけた旋回Cのようになっています。
 
しかし、上野本では「平」と同じく軽々と何の抵抗も与えない旋回Aのようになって(修正されてしまって?)いて、
 
三井本では「平」と同じく筆の方向を変えている程度の旋回Bのようになって(修正されてしまって?)います。
 
 
 
最も顕著なものでは、3行目の下から2文字目の「兼」を視てみると、
 
イメージ 6
墨跡本では筆を逆筆であるかのように左に打ち直し、深く重厚に筆を突いてから旋回していて、
 
旋回Cの発展したもののような旋回になっていますが、上野本では何の抵抗も与えない旋回Aのように、
 
そして三井本では筆の方向を変えている程度の旋回Bのように、
 
それぞれなって(修正されてしまって?)います。
 
 
 
 
ここまで視てきて、墨跡本と、上野本や三井本といった拓本と、どちらが信頼できるでしょうか。
 
もし王羲之の書の旋回がスムースなものだけであるとすると、
 
『妹至帖』のコブを含め、旋回Cや旋回Dのある墨跡本の方がおかしい、
 
真を伝えているのは拓本ということになり、墨跡本そのものに疑問を持たねばならなくなりそうです。
 
 
そしてさらに、拓本が真を伝えているとするならば、
 
墨跡本は双鉤塡墨の技術が低いのか、あるいは臨本程度の類になってしまいます。
 
あるいはもし墨跡本が双鉤塡墨で疑いないものと認めるとすると、
 
双鉤塡墨の技術に問題があり、墨跡本は頼れるものではない、ということになってしまいそうです。
 
 
 
逆に、拓本が嘘をついているとするならば、

拓本の(修正されてしまった?)スムースな旋回が嘘で、
 
墨跡本の旋回が真を伝えているということになることでしょう。
 
とすると、『妹至帖』のコブも真を伝えている、という考え方もできるかもしれません。
 
 
 
また、拓本が嘘をついているとすると、字典に載っている字例もそのほとんどが嘘である、
 
頼れるものではない、ということになってしまうのかもしれません。
 
その字例のほとんどが拓本からのものなのですから。
 
 
 
またあるいは、このように見てくると、

墨跡本も嘘、拓本も嘘、どちらも真を伝えてはいない、という見方もできそうです。

よって墨跡本とて拓本と同様、信頼できるものではないのかもしれず、
 
(重)翻刻のものは論外として、墨跡本の方が拓本よりも頼りになるとはいいきれないのではないかと。
 
なぜなら、墨跡本の旋回やコブが嘘だとするならば、双鉤ミスということになり、
 
そのようにはっきりとした双鉤ミスがあるとするならば、
 
他の箇所にも双鉤ミスがたくさんあるのではないかと考える方が自然で、
 
そのようなミスだらけの墨跡本は頼れるものではないだろうからです。

 
 
 
 
ではなぜ墨跡本の旋回と拓本の旋回とではこのように違って(修正されてしまって?)いるのでしょうか。
 
長くなりましたのであともう一回だけ・・・
 
 
 
 
追記
 
折罫の影響もないようなところに、コブといえそうな旋回を発見!
 
これです。
 
イメージ 7
 
王羲之哀禍帖の2行目の最下の3字「奈何奈」です。
 
上の「奈」の旋回は直線的で力強いアクセントをつけて旋回しているし、
 
下の「奈」の旋回はいったん筆を下に落として筆を突きなおしてから旋回しているように見えます。
 
これはコブ付きの旋回といってもいいかもしれません。
 
このように、よくよく探していくとさまざまな旋回の仕方を見つけることができます。
 
 
 
さらに追記です。
 
らっくさんがコメントにてご指摘の、澄清堂帖本『省別帖』の「兼」は、
 
イメージ 8
 
このようになっています。
 
墨跡本などで旋回しているところではあえて連綿させていないように見えます。

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    十七帖は習字テキストとして、全体を文字の大きさバランスも含めて
    統一されたらしい、と解釈された研究者もおられるようです。

    手元にある澄清堂帖では、ほぼ墨跡本と似ています。
    3行目の「兼」は連綿せず、2筆になっています。
    どの書き方が王羲之らしいか、と判断するのもよし、
    それぞれの法帖の書き方で同じ帖でも違うものとして
    習うも良し、かなとも思います。
    自分なりの王羲之書を考えるのも楽しい、と思うのは
    マニアックとかオタクの世界(^O^)でしょうか?
    連載記事楽しませていただきました。

    らっく

    2013/4/30(火) 午前 0:37

    返信する
  • >十七帖は習字テキストとして
    実は次の記事でそのことに触れようと思っていました。先に言われちゃいましたね^^;

    確かに澄清堂帖は墨跡本に一番近いかもしれませんが、
    しっかりあるはずの線が細くなったり消えていたり、
    「兼」の連綿もなくなっていて、あるいはあえて2筆にしたのか、
    というところだと思います。

    今回の一連の記事では、
    コブや旋回の筆画が実はなんなのだろう、ということを探ることで、
    真を伝えているものはどれか、という流れになったんですが、
    以前にもコメントしたように、
    私自身は何が真を伝えているかとかそんな細かいことはどうでもいいと思っていて、
    目の前にある王羲之の法帖をそのまま王羲之の書として楽しめばいい、
    スムースな旋回だろうがアクセントのある旋回だろうが、
    そんなことにこだわらなくてもいいと思っているわけです。

    何事も偏った見方はよくないと思うんですね。
    もっと客観的に多角的に見るほうがいいと思うんです。

    ぼくあん

    2013/4/30(火) 午前 9:14

    返信する

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