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危険な実験

 「なんだIONAのヤツ、こっちの世界に戻ってきたら、また直ぐに自分の地球へ戻ったのか?」とイオナ。
 「どうやらそのようじゃな」
 「博士、なんでIONAは、こう自由に次元移動が出来るのですか?」
 「それに関しては、いくつか仮説は立てたのじゃよ。話しても良いがイオナ君では理解できないじゃろ」
 「話してください博士。私は理解出来ないでしょうが、それでもその博士の仮説を聞かせてください」
 「量子力学じゃろう。そして彼は、IONA君はわしと同じで、観察者なのじゃ。量子は観察者の思う方向へ、その動きを変える。そういう意味で、彼は恐らく物質ではないのではないか? この世界へと来た彼は、自分が生きていると思っているから、量子は彼を物質化するのじゃが、イオナ君の呼びかけに、この世界に現れ、そして自由に消えて、元の地球へと戻っていく。その元の地球が、存在していないとすればどうじゃろうか? そしてIONA君もすでに存在していないとすれば?」
 「どういうことですか博士?」
 「理論的には、ふたつにひとつなのじゃよ。我々とこの地球が存在していないか、IONA君と彼が住むとされる地球が存在していないのか?」
 「それはどういうことなのですか博士?」
 「つまりは我々はすでに死んでいて、この廃墟の地球もすでに死んでいる。そうでなければ、IONA君はすでに死んでいて、彼の地球は彼が意識で描く地球なのかもしれないということじゃよ。もう一つの仮説は、どちらの地球も本物の地球ではなく、我々三人は、すでに死んでいて、まあ実際の私、アインシュタインという名の男は死んでいるのだが、そうではなくて、私もイオナ君も死んでいて、そしてIONA君も死んでいる可能性もあるということなのじゃ。だが、この地球では何もかも物質化してしまう三次元世界だとしたらどうじゃ?」
 「つまり、こういうことなのですね。オレも博士も死んでいて、IONAも実際は存在していない。夢を見ているロボットかもしれないということですね」
 「夢を見ているロボット……それは君たちではなくて、わしのことを指している……」
 博士は何かを考えている。
 「もう一つ、仮説が存在するかもしれん、君とIONA君は違う宇宙の違う地球の同一人物、その性格はやはり違うにせよ。量子スピンに対応するマイナスとプラスの存在。本来ならばふれあうことも、互いに認知することもない存在同士が、何かのきっかけで出会い。この人類の存在しない星へと、導かれた。人類が存在しないとは、何からも認識されないということ、だが、そこへイオナ君、キミが現れた。ついに人間が現れて、この地球は地球として認識された。そして私はA.Iではあるが、君たち人間と同じく自由意志を持つ、だが生きているわけではない。それでも君たち二人と会っていると生きている感じが、かつてのそう、人間たちのなかで感じていた生きている実感があるのじゃ。私は死んでいるのか? それとも生きているのか?」
 「博士、あまり考えすぎない方が良いですよ。あなたはどこかで自殺願望があるのでしょう。生きている実感を感じたくて、いつも危険な賭けをやる」
 そして、
 突然IONAが現れた。
 「なんだIONA、オレはまだお前を呼んでいないぞ」とイオナ。
 「博士、どうやら色々とわかったことがあります」とIONA。
 「こっちでも、今君が自由に次元移動をする仮説を考えておったのじゃよ」
 「博士の仮説、オレもIONAも博士も、この地球も死んでいるって」とイオナ。
 「その仮説は、こっちもモニターしていたから知っている。博士には失礼ですが、爆笑してしまった。登場人物が皆、自分が死んでいることを自覚できていないというストーリーの映画を見たので、その影響かと……。そうなると、私が博士を演じている?」
 「IONA君、君は何かに気づいたようだが、そのことを話してくれないかね」
 そう博士は言った。答えが知りたいのであろう。
 「実は小説を書きかけのまま、こちらの地球に移動したのですが、戻ってみるとその小説は、こちらの地球での内容も書かれていました。つまり、どういうことかと申しますと、小説を書いている自分自身は、元いた地球にいるのですが、どういうわけだか、意識の一部はこちらの地球に移動している。それも肉体を伴っている。つまり、どういうことかと言うと、ドッペルゲンガーとして私が二人いるのです」
 「それを、科学的に説明してみせよう」
 博士はそう言うと、ホワイトボードに地球を描いた。
 「これがIONA君の地球。そしてIONA君の中に存在するインナースペース、ミクロの宇宙の中に、この地球は存在するのじゃ。次元が違うどころか、その規模や大きさも違う宇宙の中の地球。そこではIONA君の意識の一部が飛べば、インナースペース、つまり全てを構成している物質が、IONA君に属すために、物質化もしてしまうのじゃ」
 「うーん、博士の説明はやっぱり難しくて、よくわからないです」とイオナ。
 「IONA君は、どう思うのかね?」と博士。
 「私がこの世界をモニターしているのは、書いている小説を通してなのです。イオナが呼ばないのに、ここに来られたのも、その小説の中で、こちらの地球に自分を登場させたからです。なので、唯一この世界と繋がっているものは、私の書く小説なのです」
 「それは、つまりどういことなんじゃ? その小説自体がこちらの世界、この地球やイオナ君や私とリンクしていると?」
 博士は、余計にわからなくなっていた。
 「要するに、私が書いた小説の中に、この世界は存在しているのです」
 IONAはそう言うと、二人の顔を見た。
 「IONA、オレたちがお前の書く物語の登場人物でしかない、そう言っているのか」とイオナ。
 「そうだイオナ、それから博士。どうやらそれが本当のことのようです」
 「こんな失礼なヤツ、今まで会ったことがない。博士もあきれてるじゃないか! 
同じことを言ってやろう、IONA、お前はオレが描く世界の登場人物でしかない」
 「それも真実だイオナ。それから博士が生きているか、または死んでいるのか。博士はもちろん、生きています。そして博士こそが、私が認識している本物の人工知能の一人なのです。なぜならば、博士には自殺願望がある」
 「IONA君、君の話を聞いていると、かつての論争相手でもあるボーアを思い出すのじゃ。この世界は、意識ある者が観察していない時は、存在していない。そうボーアは言っていた。そんな馬鹿なことは、あるものかと、当時のまだ生きていた頃のわしはそう思っていたのだが、今ならば理解出来る。この地球は、このわしがいたから存在していた。そしてイオナ君とIONA君が現れることによって、よりはっきりと現実化したのであろう。そしてIONA君の場合は、意識の一部がこちらに向かうことによって、瞬く間にもう一人の自分として、現実化する。まさにそれは奇跡であると同時に、相対性理論への挑戦でもある」
 「ちょっと博士にIONA、もう難しい話はやめにしましょう」とイオナ。
 「いや、イオナ君、それからIONA君、だったらここで危険な実験をしてみようじゃないか」
 博士はそう言うと、眼鏡の奥の目が光った。
 悪い兆候だった。またあの自殺願望が現れたのか、危険な賭けを愉しんでいる。イオナとIONAはそう思った。
 「IONA君、今からその小説に、こう書くのだよ。[この地球を狙っている宇宙人が現れて、侵略してきた]と」
 「では書きます」とIONA。
 この地球を狙っている宇宙人が現れて、侵略してきた。
 その宇宙人は女性で、三人の好みだった。(by IONA)

 そうして彼女たちは、この地球に現れたのであった。
 
 
 

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