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★★★☆☆ 息詰まるような重たい作品でした。 この作品が、10年程前に東京の文教地区で起きたいわゆる“お受験殺人”という幼児の殺害事件を下敷きにしていることは明らかです。 覚えている方も多いのではないでしょうか、幼稚園の中で小学校受験を目指す母親達に歪んだ人間関係が生じ、それが幼児殺しへと発展した事件です。 この作品自体では殺人は起きませんが、一箇所挿入として、それを思わせるくだりは出てきます。 一言でまとめると、子どもを小学校受験させようとする母親達の葛藤ともつれる感情と人間関係、そのひずみで心が悲鳴を上げる子どももいる、という人間劇です。 親が子どもの将来を考えて教育について真剣に考える、それは決して悪いことではないはずなのに、 なぜ“お受験”となると、こうも気が重くなるものなのでしょうか。 それと同時に感じた疑問は、これは“お受験”かそれに近いものを体験したことのある人にとってはものすごく身に迫る迫力を持った物語だけれど、 まるで無関係の人、例えば独身の人とか子どものいない人とか、そういう人がこれを読んだら何をどう思うのだろうか。 恋愛や人の生き死にと違って、“お受験”は誰もが何らかの形で関係する事柄とは思えないからです。 かく言う私は、小学校受験ではないものの、子どもの将来を考えての受験に奔走した経験の持ち主ですので、 この『森に眠る魚』の重たさは自分の経験をなぞるような思いで身に迫ってきました。 初めは気楽に理想を思い描いていた子どもの教育、 しかし社会の枠組みの中で「受験」というふるいにかかることが避けられないとなると、どうしても自分だけの理想の教育を貫き通すことはできなくなっていきます。 それと同時に、「受験」に付き物の、競争、勝ち負け。 それが大人達自身、本人のことならばまだここまでの歪みや軋轢は生まれないのかも知れません。 どうしても負のエネルギーを生んでしまうのは、そのレースを走っているのが、「我が子」だから。 大人達、母親達の“お受験”狂想曲を、否定したり笑ったりすることは簡単かも知れません。 けれど自分にそのつもりがなくても、例えば周りの子達がどんどん受験をすべく考え始める環境にいたら、自分だけ我が道をゆく自信のある母親は、果たしてどれ位いるでしょうか? それがこの“お受験”の持つプレッシャーの正体です。 これが例えば高校受験や大学受験なら、そもそも“お受験”なんていう言い方もしませんし、 主体はどこまで行っても本人ですから、親がかりの二人羽織的な受験ではありません。 極端に言えば、子どもを道具として親同士が戦っているという側面を否定できないのが“お受験”です。 そりゃぁ母親も精神的バランス崩しても不思議はないでしょう。 子どもがバランス崩すとなお悲惨です。 そのような物語でしたので、私が最近読んだ石田衣良さんの『シューカツ!』のように、ある意味、情報本のような読み方も出来るでしょう。 出来ることならこの情報としての鮮度はあっという間に色褪せ、「昔は“お受験”なんてこともあったなぁ」ということに、子どもを取り巻く社会が変わってくれればいいと思う一方、 世の中、公立離れの動きがあり、幼・小・中への受験熱は高まっているという現実もあり、 なぜ子どもの幸せを実現しようとすることがこうも重苦しいものであるのか、と思わないではいられません。 (2008年12月、双葉社) |
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いつの間にか読むリストに入ってたこの作品、こんな重苦しい話だったんですね。「お受験」とはほど遠い環境にいる私でさえ、その言葉に無関心ではいられません。だから読んでみたいけどちょっと怖い気もしてます。
2009/5/13(水) 午前 9:18 [ - ]
私の友人たちも東大生もママも医学部生のママもみ〜〜んないたって普通です。
もちろん目の当たりにした「えぇ!」の現実はありました。
お受験と特別態勢をとった時点で、マイナス環境なのに、マスコミいかんぜよと本当によく思います。
2009/5/14(木) 午後 6:31
たこさん!「お受験」とは関係ないけれど、母の気持ちは分かる、という人がこの作品を読んでどう思うのかしら、ということに興味があるので、読んだら是非感想聞かせてくださいね。私は図書館で、100人以上の順番待ちをしてやっと回ってきました。人気のある作家だからか、作品が関心を集めているのか、その両方なのか…。でも100人以上待ちなんてザラなんですけどね。
2009/5/14(木) 午後 10:22 [ booklover ]
あおいさん!確かにこの手の問題でマスコミが果たす役割は大きいですね。自戒せねばと感じます。
私は一度、すさまじい幼稚園ママのグループ化に巻き込まれ、弾き飛ばされ、嫌な思いをした経験があり、ママ集団の恐ろしさは嫌という程見せ付けられました。あの頃は辛かったなぁ…。
2009/5/14(木) 午後 10:25 [ booklover ]
子をもつ親にとっては、なかなか息詰まる作品でしたね。
2009/5/27(水) 午後 6:10
ベックさん!息詰まる作品、でしたよね〜。『八日目の蝉』もそうでしたが、子どもを巡る犯罪を題材にした作品ですからね。どっちかって言うと『八日目の蝉』の方が好きだったかな、私は。
2009/6/5(金) 午後 4:36 [ booklover ]