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★★☆☆☆ タイ・バンコクを舞台に、天下り役人が上司である公社で働く主人公・片桐が、 現地の日本人・武志、美しいタイ人娼婦・ミントと出会う。 一見タイでの観光を贅沢に楽しんでいるように振舞いつつ、実は片桐には誰にも打ち明けられない秘密があり、 ひとり危ない綱渡りを演じているのであった…
―――吉田修一7年ぶりの書き下ろし小説 娼婦、妻、友人、嘘、欲・・・すべてが重なり合い、すれ違う。ある秘密を抱えた男がバンコクの夜に見たものとは!? 吉田修一が到達した最高の「世界文学」。――― (内容紹介より) “吉田修一が到達した最高の「世界文学」。”って、それはちょっと大袈裟です。 タイは飽くまで観光で訪れた場所であり、主人公・片桐はどこまで行っても裕福な日本人旅行者。 現地に根ざして生きている武志やミントとの関わりも、 「深くないから楽しめる」ことを武志にズバリと指摘され、片桐は返す言葉もなく立ち止まってしまうのです。 それよりも、やはりこれは「吉田文学」。 初期の『パーク・ライフ』や『パレード』といった作品と同じようなテーマ、 つまり、人と人がすれ違いざまに出会い、刹那的に弾けるスパークのような人間関係を、 落としどころもなく、前と後を断ち切って描写する、 という小説だと思います。 いわば「起承転結」の「起」と「承」だけを小説にしたような感じです。 (私はそれ自体は結構好きです。) そこに、『悪人』で取り組んだ「犯罪」というテーマを持ってきて、 犯罪者の微妙な心理を描いた、というのがこの『元職員』ではないかと思うのです。 タイで遊ぶ片桐の不安定な心理から、片桐の抱える秘密がなんであるのか、 片桐の行動の不自然さに徐々に目が向き、その訳がなんであるのか、 読者に少しずつ少しずつ読み解かせていく手法は吉田さんの他の作品にも多く見られ、 見事でありとても楽しめました。 片桐の、公社の同僚との他愛もないやり取りや、妻との会話、妻の言葉などが印象的に心に残り、 それがつなぎ合わさって謎が解けていくといった感じです。 謎が明らかになると共に、片桐の“断崖絶壁の先端に後ろ向きで立たされたような感覚”を、 読者も味わうことになります。 やはり筆の力でしょう。 ちょっとした軽いミステリーと思えば、短時間で読めるし、面白かったと思います。 ただ、『悪人』で見られたような、「犯罪」の持つ重さとかダイナミックさは感じられなかった。 そして、タイという場所で、片桐はプロトタイプの金持ち日本人で、それがゆえにこの小説は成り立っている部分はあるのですが、 片桐以外の日本人、作中では駐在員の妻だったりするのですが、それもプロトタイプの駐在員の妻で、 タイという国と日本人との関わりがそこしか描かれていないと、さすがにちょっと不快であったかな、 というのが高評価でなかった理由です。 (2008年11月、講談社) |
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bookloverさんの筆運びに驚きです。
刹那的に弾けるスパークのような人間関係、それを何度も映像で見てきた気がします。
そう、bookloverさんの描写で刺激され、私の中で映像が映し出されることが多いんです。
それました。ごめんなさい。
2009/5/24(日) 午後 9:58
あおいさん!いやいや、お褒め頂いて恐縮です^^;。
吉田修一さんの作品については、ファン、ともちょっと違う心理が働いてしまって、何というか、ある種自分に近しいものを感じてしまうというか…ちょっと人間が似てるんじゃないかと思っているのです、正直言うと。
2009/5/24(日) 午後 10:30 [ booklover ]