ひねもすのたり、読書かな

またしてもご無沙汰しちゃいました。皆さんお元気ですか?

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★★★★★ 泣きました。大きなものに包まれていることを感じたときに流す、静かな涙です。
 私たちは決してひとりではない。ここにいるに至った歴史、世代、そういう大きな流れの中で今ここにいるのだということを、改めて見つめ直すきっかけを与えてくれる作品です。
 夏目漱石『坊ちゃん』で、“キヨ”に涙した人にも、おすすめします。きっと熱い思いが込みあげてくることでしょう。

 物語は、柿崎信郎が、祖母の葬儀に出席するため、三十年ぶりに故郷に帰るところから幕をあける。帰郷の道すがらや葬儀の合間に、信郎は、小学4年の息子智郎と同じ歳だった頃の自分を思い出す。

 1978年夏、鉱山の町に暮らすノブ(信郎)と友達――ウネリン、ガボちゃん、タカオミ、ダゼ夫・・・。
 大人社会の「格差」はそのまま子どもの「格差」であり、貧乏もいじめも、現代では考えられない程半端ないものだった。
 中でもガボちゃんは、母子家庭であり誰よりもお金に困っており、理不尽で悲惨な暴力から逃れられずにいる。ノブはガボちゃんのことを考えていた。何も知らないくせに分かった顔をしている教師、モッコリマンに反抗もした。しかしノブは当たり前ながら非力である。
 同時に父の職場である鉱山も変化に見舞われている。少しずつおかしな、町の様子、母の様子。最後には決定的な、ノブの転校をもたらした父の変化。ここでもノブは当たり前ながら非力である。
 非力なノブに、言葉にならない言葉で涙を流すノブに、線香のにおいの染み付いた仏壇の前の置物のような祖母は、しっかり抱き止め、背中を叩いてくれた。
 “泣いたらえぇ、泣いたらえぇ、生きとる証拠。”“なんぼ悲しぅても大丈夫じゃ。ばあちゃんは、ずっとノブについとるからの”。

 一方、息子智郎は不登校になっていた。その背景には、現代的な問題が横たわる。

 “生き物の残忍な殺し方、カッターナイフ、チェーンメール、ホームページの掲示板、集団シカト、不登校。どれもこれも、とんでもない事態を連想させるワードとツールだが、一つ一つの出来事は時代を問わずいつだって子供の世界にありがちなことだ。
 違ってしまったのは大人の側のリアクション。行為そのものではなく、その先にある可能性を恐れ、慌てふためき、怯えている。”

 柿崎信郎は、小学4年の不登校の息子に、何ができるのか。

 “柿崎は喋った。三十年前、自分が智郎と同じ歳だった頃のことについて、思い出せる限りのあらゆるエピソードを丁寧に喋った。友達のこと、…敵対していた山の手の子らのこと、鉱山のこと、喜一郎(父)が恐くてしょうがなかったこと、教師との対立や鼓膜のこと、・・・初恋と思い込みとハンカチーフとシルバー号のことも。
 血と汗と涙と糞尿と吐潟物の話だった。
 ・・・・・・
「あの時お父さんがお前を殴った理由、お母さんには言ってない」
 ゲーム機をパタンと閉じ、智郎はぎゅっと拳を固めた。
「頼むから、死にたいなんて二度と言わないでくれ」
 膝の上のうさぎまんぢうが、床に落ちて転がった。
「まだ碌に生きてもいない癖に、死ぬことなんか考えなくていいよ」
 智郎は深く項垂れた状態で、微かに頷いた。
 言葉はいらなかった。それだけ分かって貰えれば、いじめも転校も、悩むことが出来るだけマシな問題だと思えた。”

 そしてここで、祖母からの最後の贈り物が鮮やかな色彩を放つ。


 この作家さんは、時空を飛び越えるのがうまいのです。
 話は、信郎の現在とノブとしての過去を行ったり来たりしながら進むのですが、それが不自然でもうるさくもなく、むしろ作者の手の上で自由に操られている感が、とても心地いいのです。
 そして話の軸たる、ノブ少年の世界、心情。これがとても瑞々しい。
 本当に少年の心のまま、好奇心はおもむくままに、分からないことは分からないままに、描いているのです。
 こんなに少年の心象風景を描くのがうまい作家が、他に誰かいるのでしょうか。


 



 

閉じる コメント(11)

bookloverさんの書評を読むともう一度リセットして再読したくなりました^^
自分は過去作「イレギュラー」のイメージを持って本書を読んでしまったためあまりの想像とのギャップで物語に入り込めなかったのかもしれません、やはり本を読むときは先入観なしで読まねばなりませんね^^;TBさせてください。

2008/11/9(日) 午前 2:41 hayaton

ここ数年、精神的に病んでしまった方への対応に悩んでいます。
そういう心情を変えさせる説得というか、対応ですよね、そんなものを考えているので、三羽さんは未読ですが、もしかしたら結構入り込めるかもしれません。

2008/11/9(日) 午前 8:30 [ - ]

はやとんさん、コメント&TBありがとう!
本を読むときにはどうしてもその作家のイメージを持って読んでしまうので、その結果当たり外れが出来るのは仕方ないですよね!
私も好きな作家ほどそういうことが起こる気がします。
『イレギュラー』、読んでみたくなりました!

2008/11/9(日) 午後 2:16 [ booklover ]

ミニオさん!
精神的に病んだ方ですか・・・大変だと思います、ミニオさんも努力されているのですね。
三羽さんの作品、うまくはまってくれるといいのですが。
TBのはやとんさんのご意見もとても参考になると思うので、
是非ご覧になってみてください!

2008/11/9(日) 午後 2:25 [ booklover ]

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ご訪問とコメントありがとうございました。私は全体に流れる暗いトーンに何度か読む手を止めてしまったくらいしんどかった部分もあるのですが、ラストで柿崎と息子との言葉を越えた交流にはじーんとしました。三羽さんはやはり上手いですね。新作も期待したいです。こちらからもTBさせて頂きますね。

2008/11/9(日) 午後 7:10 べる

ほんと三羽さんはうまいな〜と思います。
全体の暗さというのも、ここまで書くか!的な描写によるところかも知れません。
新作は短編の連作だったかな?読んでみたいですね。
TBありがとうございました!!

2008/11/10(月) 午後 2:23 [ booklover ]

ぼくも「坊ちゃん」のキヨにはジーンときた方なんで、これはイケますね。

2008/11/10(月) 午後 9:55 beck

ベックさん!
坊ちゃんのキヨでピンときてくれる方があって嬉しいです!!
たぶん『タチコギ』、イケルと思います。
読んだら是非記事にしてくださいね、楽しみにしています。

2008/11/10(月) 午後 10:14 [ booklover ]

こんばんは。先日はご訪問いただきましてありがとうございました^^
なるほど、全く対照的ですね^^;;;私は過去の話のどんより感にあまりいい印象を受けませんでした。鉱山という設定も得意ではないようでして。ただ智郎のこれからには光が見えたようでホッとはしましたが。
新作も手元にあるのですが、どういう展開が待っているのか楽しみです^^元気になる話だと良いなぁ〜♪
こちらからもTBさせて下さいね。

2008/11/17(月) 午後 11:50 紅子

紅子さん、コメント&TBいただきありがとうございます!
確かに、内容より先にモチーフの好き嫌いで決まっちゃうみたいなところありますよね、分かります。私は少年期の暗さとか鉱山は平気なのです。他方、暴力シーンとか殺りくとか、そういうのがダメなんです。
人それぞれですよね。

2008/11/18(火) 午前 7:59 [ booklover ]

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良かったよ。うん。良かったよ。

2011/12/24(土) 午後 1:51 [ ぴよん ]

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