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★ brillat savarin の 麦酒天国 ★
ビール王国2016年11月号(ワイン王国 別冊)より、「ベルギービール解体新書」というコーナーを書かせて頂くことになりました。

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志賀高原ビール(玉村本店:長野県)」のように、日本産ホップ(信州早生:自家栽培)を用いるクラフトブルワリーが現れていますが、このような“日本のホップ”に関する情報は、ウェブ上では極端に少ないのが現状です。
そこで、大雑把に日本産ホップの概略を何となく(笑)紹介したいと思います。

日本におけるホップ栽培
日本産ホップの原点は、「サッポロビール」のホームページに紹介されているように、北海道開拓使のお雇い外国人トーマス・アンチセル(Thomas Antisell)が1872年(明治5年)に「道内の地質など調査時に、現在の岩内町で野生ホップを発見。アンチセルは日本でも将来ビール産業が盛んになるという予見のもと、開拓使にホップ栽培を建言した」ところにあります。

1876年(明治9年)に開業した「開拓使麦酒醸造所(現:サッポロビール)」で使用するホップの自給を目指し、ドイツより苗を輸入して、栽培を本格的にスタートしました。

1877年には札幌にホップ園を設け、1881年、開拓使麦酒醸造所で使用するホップを全て道内産で賄うことに成功したそうです。その後、1910年には、大日本麦酒(現:サッポロビール)札幌工場において篠原武雄がザーツ種の雌株とイギリス系の品種であるホワイトヴァイン(White Vine/ホワイトバイン ※)の雄株を交配して、現在、日本で最も栽培されている信州早生(しんしゅうわせ)を開発しました。

ホップは気温に影響され易い植物であり、ヨーロッパの早生ホップの適地の条件として、萌芽から開花期まで徐々に温度が上昇し、急激な温度変化がない地域で、平均気温8度程度(ハラタウ種7.2度、ザーツ8.6度という古い報告もある)、夏の最高気温の月平均が最高でも20度程度が望ましいとされており、栽培適地は非常に狭いことが知られています。

そのため、北海道以外、日本では6月以降の気温が高すぎるため、温度に敏感な早・中生種の栽培に向かず、“晩生種”である信州早生が栽培に適しています(信州早生は「早生」とありますが、これは育成当初に収穫期をヨーロッパと比較して、萌芽〜成熟まで100〜120日程度と「早生」だったことから命名されたものの、この品種をヨーロッパで栽培すると、かなりの晩生種といわれる)。

1920年には麒麟麦酒も山梨県で栽培を試作しはじめ、1928年には契約栽培を開始したといいます。

それでもなお、ホップの大半はドイツやチェコ(当時オーストリア)からの輸入に大半を頼っていましたが、満州事変(1931年)以降、輸入が困難となり、長野県、北海道など既植地域では急速な作付面積の拡大がなされ、1939年には山形県、山梨県、福島県でも栽培が始まりました。

戦後の混乱により一時的にホップの栽培が減ったものの、その後、1948年頃から増加に転じ、1950〜1960年から青森県、新潟県、岩手県、群馬県、秋田県、宮城県などでも栽培が行われました(ただし、群馬県、秋田県、宮城県などは、1960年代後半にほぼ栽培されなくなった)。

現在は、全体の栽培面積は減少傾向にあるといわれます。一戸当たりの栽培面積が少なく、単一品種のため、機械の稼動率が劣り、高単価とならざるを得ないなどの問題点もあります。

日本におけるホップの主な品種
【信州早生種】
べと病(露菌病)、灰色かび病(毬果の発達期の降雨が関連)などに弱く、矮化病にかかると収量は激減。収量は180〜190kg/10a、α酸5〜7%。成分は苦味質α酸6.2%、β酸5.8%、α酸中コフムロン47%、アロマ成分:フムレン19.0%、カリオフィレン9.2%、ファルネセン0.3%。α酸の低いビターホップ。

【ゴールデンスター種】
主として北海道で、一部岩手県で栽培されている。信州早生種の芽条変異株でべと病に強い。α酸6〜7%、β酸6〜7%。

【かいこがね】
麒麟麦酒株式会社が開発(1980年登録)。信州早生種の芽条変種で、ゴールデンスターに似る。

【とよみどり】
麒麟麦酒株式会社が開発(1981年登録)。ノーザンブルワーとWye Male OB79の交配種。α酸11〜14%の高α酸ホップ。イースタン・グリーン (1995年登録)は「とよみどり」の自然交雑によって得られた種子に基づき、べと病や矮化病耐性は中程度。「とよみどり」よりもルプリンの量が少なく、フムロンが多い。

【ソラチエース】
サッポロビールが開発(1984年登録)。雌株70K-SH6、雄株Beikei2を交配。収量は190〜200kg/10a、α酸16%、β酸8%、α酸中コフムロン23%。北海道、東北での栽培に適する。
フラノ18号(1995年登録)は、ソラチエースにザーツを交配して育成された固定品種。べと病抵抗性を有し、フムロンが多く、コフムロンの少ない品種。
フラノスペシャル(2007年登録)は、ソラチエースにUSDA19058Mを交配させたもの。

【フラノエース】
サッポロビールが開発(1984年登録)。雌株K-691166、雄株ザーツを交配。収量は160〜180kg/10a、α酸4.8%、β酸8.4%。高フムレンのアロマホップ。北海道、東北での栽培に適する。

【ふくゆたか】
麒麟麦酒株式会社が開発(1985年登録)。C-46-15-05の実生より選抜。α酸8〜10%。べと病にやや耐性がある。

【きたみどり】
麒麟麦酒株式会社が開発(1989年登録)。信州早生種由来C79-27-01にC76-64-110を交配。α酸15%と高い。べと病に耐性あり。

【南部早生】
アサヒビール株式会社が開発(1990年登録)。ビュリオン(イギリス)とネオメキシカナス(アメリカ)の交配種。信州早生種より成熟期が約1週間早く、収量が多い。α酸8〜10%。

フラノ6号
サッポロビールが開発(1995年登録)。Beikeiを交配して育成された固定品種。べと病耐性を有し、フムロンが多く、コフムロンの少ない品種。この品種に、Beikeiを交配したものが、フラノベータ(2001年10月登録)。

フラノローラ
サッポロビールが開発(2005年登録)。ザーツ-YGにザーツを交配して育成された固定品種。α酸含量の保存安定性に優れる。

【注】
※この品種は、良くわからない。手元にある、Margaret Lawrence著「The Encirclind Hop: A History of Hops and Brewing」(1990年)にも記載はない。
※※1905年に北海道で宮部金吾、高橋良直の両博士が発見。1907年にアメリカ、1920年にイギリス、1924年にドイツでも発見された。

【参考文献】
宮地秀夫. ビール醸造技術. 食品産業新聞社(1999), p.33.
松山茂助. 麦酒醸造学. 東洋経済新報社(1970), p.76-80.
北島親. ビールとホップ. 徳間書店(1968), p.241-245.

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    三重県のもくもくビールもホップを作っていたと思います。かなり南ですね。

    mug*sis*

    2008/11/29(土) 午後 10:04

    返信する
  • なかなか読みごたえがありました。
    ホップはかなり限られた環境でないと生産が難しいんですね〜。
    それにしても、北海道で自生していたというのには驚きました。

    かれん

    2008/11/29(土) 午後 11:20

    返信する
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    日本でもホップを作っていたとは知りませんでした!
    チェコ産が多いように思います!

    [ bam*e6*0729 ]

    2008/11/29(土) 午後 11:58

    返信する
  • mugiさん、モクモクが大麦を栽培・製麦するのは知っていましたが、ホップまで栽培していましたか。これは知りませんでした!

    [ brillat savarin ]

    2008/11/30(日) 午前 1:11

    返信する
  • かれんさん、そういえば、青森県の人もだいぶ前のことですが、裏山にホップが生えてたと言ってました!

    [ brillat savarin ]

    2008/11/30(日) 午前 1:15

    返信する
  • bamseさん、日本でもホップが作られているのですよ。
    それにしても、ホップ作りが盛んになった一番の理由が戦争というのは、少々複雑です(^^;

    [ brillat savarin ]

    2008/11/30(日) 午前 1:17

    返信する
  • うちの近く(室蘭)にも野生のホップ、見かけますよ〜w
    洞爺湖にもありますねー。

    [ 糸ぐるま ]

    2008/11/30(日) 午後 6:44

    返信する
  • 糸ぐるまさん、こんばんは。そうそう、北海道の野生のホップといえば、札幌のクラフトブルワリーの方が、野生のホップだけで実験的にビールを造ったなんて話題もあるんですよ〜。

    http://tedubaku.blog51.fc2.com/blog-entry-127.html#no127

    [ brillat savarin ]

    2008/12/1(月) 午前 0:53

    返信する
  • 札幌にこんなすてきなお店があったんですね!知りませんでした。
    そのうち行ってみたいですw
    わたしの一番好きなヴァイツェンが作れないのが残念ですが。
    (お店にヴァイツェン樽生がある日をチェックして行きます〜〜♪)

    [ 糸ぐるま ]

    2008/12/1(月) 午後 6:56

    返信する
  • 内緒さん、こちらこそ、ありがとうございます〜。

    [ brillat savarin ]

    2008/12/1(月) 午後 9:41

    返信する
  • 糸ぐるまさん、11/30の記事では、ヴァイツェンもあるそうですよ!

    http://tedubaku.blog51.fc2.com/?q=%A5%F4%A5%A1%A5%A4%A5%C4%A5%A7%A5%F3

    [ brillat savarin ]

    2008/12/1(月) 午後 9:43

    返信する
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    勉強になります。信州でも野生のホップを見かけた記憶が。 削除

    [ Hira ]

    2008/12/3(水) 午後 9:07

    返信する
  • Hiraさん、長野県は多分、北海道に次ぐホップの産地でしょうね。最近は私はホップが自生しているような場所に行くことがめっきり減ってしまいました。。。(^^;

    [ brillat savarin ]

    2008/12/4(木) 午前 1:31

    返信する
  • こちらは福岡ですが1000m程度の九州山系で早生種ホップの栽培が可能です。実際に私も脊振山系にお住まいの方からホップの苗を頂き見事栽培に成功しました。私の家は海抜700mの地点の台地にあります。

    [ - ]

    2008/12/4(木) 午後 11:04

    返信する
  • yutaka1chome さん、ホップを栽培されているのですね! 摘んで何かに使われているのでしょうか?(ベルギーやチェコのように、ホップ料理にしましたか ^^)

    [ brillat savarin ]

    2008/12/5(金) 午前 1:09

    返信する
  • ホップの天ぷら(蕗の薹みたいなほろ苦さ)や知り合いのブルワリーにお願いして50リットル仕込んでもらいました。

    いずれかは自家栽培や契約栽培して収穫して完全九州産地の地産地消ビールをやってみたいです。

    [ - ]

    2008/12/10(水) 午後 1:50

    返信する
  • yutaka1chomeさん、「蕗の薹」とは言い得てますね! ビールを地産地消できたなら、これこそ真の意味で「地ビール」と言えますね!

    [ brillat savarin ]

    2008/12/11(木) 午前 3:20

    返信する
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    何となく(笑)、いや、かなり勉強になりました。
    一言にホップといっても品種が多様なんですね。近頃は、ホップの香りを謳った国産ビール(或いはその類似品)が多く見受けられますが、その特徴を見極める楽しみが増えた感じです。

    和 醸 良 酒

    2008/12/13(土) 午後 1:29

    返信する
  • 和醸さん、非常に品種は多様ですね。その中に、日本産ホップが色々あるわけですが、土壌や気候の違いもあって、ヨーロッパの名立たるホップに匹敵する質のものを栽培するのは、現実的に極めて難しいと思います。にもかかわらず、国産のホップを用いることで、どんなベネフィットがあるかを売る側も買う側もよく考えるべきでしょう。

    真にポジティブな味わいの個性なのか、値段への反映なのか、ホップの質的安定性の確保なのか・・・etc.

    自家栽培ホップを使っているということだけが「付加価値」になっているようでは、大手ビールのブランド戦略とそれに踊らされる飲み手という構図そのものになってしまいます。

    [ brillat savarin ]

    2008/12/14(日) 午後 4:15

    返信する

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