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お堂まで無事に(?)いや、なんとか明智軍に信長の命の灯を消させぬようにしながらお堂までかついで来た坊丸は信長をゆっくりおろした。信長はまだ意識はあるらしく、小さな声で
「御苦労・・・これより先は一人で進む…もう隠し通路のある部屋は占拠されてしまったようだ・・・・・・最早これまでか・・・・」と言い、おもむろに脇差を抜いた。
坊丸も必死に涙をこらえながら介錯しようと刀を抜いた。だが信長は、
「一人で逝くと申したに・・・介錯など無用。それよりわしが息絶えるまでお堂の前に立ち、わしが息絶えるまで日向(光秀)の軍を防げ・・・・わしが息絶えたらわしの顔を砕け・・それから死ぬにせよ何をするにせよ自由にするがよい…最後の命だ。頼む。」
そういうと信長は懐から扇子を取り出し、お気に入りの敦盛を舞いだした。
〝人間五十年___ 下天のふちをくらぶれば___ 夢、幻のごとくなり___〟
そういえば上様(信長)は今年五十歳(当時の正式な数え方の数え年でいえば)であったと思うと、なんとも信長の生涯が劇的で美しく思えて仕方がなく、必死に堪えていた涙があふれ出てしまった。坊丸は空を悟られぬように下を向いて早口で、
「かっ・・・かしこまりました。」といい、速やかにお堂から退出し、前を見据えた。
すると、衝撃的なものが眼に入ってきた。
なんと、自分の眉間から棒が生えているのだ。
それを矢だと認識したころにはもう坊丸は主君からの最後に与えられた使命を果たせなかったことを心の中で詫びる間もなく息絶えていた。
続く
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