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現代ビジネス
従業員数を減らす事業者
 輸出規制問題で日韓関係が揺れているが、韓国国内に目を転じれば、文在寅大統領を悩ませている問題はほかにもある。

【現場はパニック!】日本人は知らない、いま韓国でほんとうに起きていること…

 その筆頭は、文大統領自身が肝いりで進めてきた政策「最低賃金引き上げ」が引き起こす「雇用減」の問題だ。今年1月には失業率が4.4%と9年ぶりの水準に悪化したが、その後も大きな改善はみられていない。

 注目すべきは、5月下旬に「最低賃金の影響に対する専門家討論会」が政府機関の主催で開かれたことだ。この場で政府が委託して大学の研究者が行った事業主などに対する面接調査の結果が公開された。

 これによると、卸・小売業では調査対象企業の大部分が、客が少ない時間帯の営業を止める、事業主やその家族の労働時間を増やすなどして、従業員数か従業員の労働時間かのいずれかを減らしており、両方とも減らした企業も相当数にのぼった。

 また飲食・宿泊業についても、卸・小売業と状況は同じであるが、飲食業では客の少ない時間を休憩時間にして勤務時間から外すことなども行っている。

 この調査は事業主などと直接会って聞き取りを行ったため対象が限定されており、結果は幅を持って解釈する必要がある。しかし、これまでは、「某氏のコンビニでは人件費削減のため家族総出で働くことをよぎなくされている」などといった事例が断片的に報道されるだけで、最低賃金引上げの影響が判断されていたが、体系的に明らかにしたこの調査の異議は大きい。
「肝いり政策」の失敗
 文大統領は、大統領候補であった時から、公約として最低賃金の大幅な引き上げ(2020年までに1万ウォン)を掲げ、当選後は公約の実行に向けて行動してきた。

 具体的な数値の変化を見てみよう。

 公約を掲げた2017年の最低賃金は6470ウォンである。これを2020年までに目標である1万ウォンに高めるためには、毎年15.7%引き上げなければならない。

 一年目はこのペースが実現し、2018年の最低賃金は7530ウォン、引上率は16.4%となった。二年目はこのペースが息切れした。2019年の最低賃金は8350ウォンとなり、引上率は10.9%であった。

 文在寅大統領はこの数値について、2020年に1万ウォンという公約の実現が難しくなったと国民に陳謝している。しかし、2年間で最低賃金は3割近く上がっており、驚くほどの最低賃金の引き上げが韓国では実際に行われている。
深夜営業をやめるコンビニ
 最低賃金の引き上げは、賃金の低い労働者にとって望ましい政策であるかの印象を受けるが、実際には雇用が奪われてしまう可能性がある。

 そもそも最低賃金の引き上げにより影響を受けるのは、ようやく利益が出ているような零細な事業主が多い。このような事業主は賃金上昇によるコスト増を価格に転嫁することは容易ではない。

 小規模の下請企業は、親会社との力関係からいって、納入価格の引き上げを要求することは難しい。小売店や飲食店は、同業者が増え競争が激しくなっており、値上げすれば客足が遠のいてしまうことから価格を据え置かざるをえない。

 事業主に省力化投資を行う体力があれば、雇用を削減することで長い目で見た利益の確保を試みるだろう。またコンビニの例とすれば、事業主の労働時間を増やし人件費を浮かせる、あるいは割の合わない夜間営業をやめるといった動きが出ている。実際に筆者も、昔は深夜営業をしていたコンビニが閉まっており、コンビニを探し歩いた。

 さらに、人件費負担に耐えられず廃業を余儀なくされる事業主も増えるだろう。いずれにしても雇用は減少することとなる。つまり労働者の賃金は短期的に上昇するかもしれないが、長期的には職を得ることが難しくなることが考えられる。

 最低賃金の引き上げは雇用者世帯間の所得格差を若干低下させるかもしれないが、失業者が増えることで全世帯の所得格差を高めてしまう危険性をはらんでいる。

 最低賃金が高まっても雇われなければ賃金はゼロになり、失業者世帯と就業者世帯の間の所得格差が拡大すれば全世帯の所得格差は拡大してしまう。

 付け加えておけば、冒頭で紹介した、専門家による最低賃金引き上げについての討論会では、政府傘下機関から2018年の最低賃金引上げ以降の賃金分布の変化についての報告もあった。

 この報告では、被雇用者の賃金データから、上位20%の人々の平均賃金を下位20%の人々の平均賃金で割った比率、すなわち、「5分位分配率」が2017年の5.06倍から2018年には4.67に下落した点が示されている。

 そしてこれは下位20%の人々の賃金上昇によるところが大きく、最低賃金の引上げは格差縮小に貢献したとしている。もっとも報告でも指摘されているように、使用されたデータは被雇用者の賃金であり、失業してしまった人は含まれない。よってこの数値だけを見て格差が縮小したと判断するのは早計である。
日本はこの失敗から学べるか
 韓国の歴史を遡れば文在寅政権並みに最低賃金を引上げていた時がある。1988年から1993年までの盧泰愚政権時には、年平均で最低賃金を16.3%引き上げており、年平均の引上率は現政権より高い。

 しかし、当時の物価指数上昇率は7.4%と高く、実質経済成長率も9.1%であった。よってこのような経済環境を勘案すれば16.3%の引上げは決しておかしくはない。

 一方、直近5年間の物価上昇率は1.3%と低水準であり、実質経済成長率も3.0%にまで下落している。朴槿恵政権時には7.4%、李明博政権時には5.2%最低賃金が引き上げられたが、物価上昇率と実質経済成長率を勘案すると妥当な数値ともいえる。

 韓国では、最低賃金の大幅な引上げを実現したことにより、雇用が失われるといった副作用が出てしまった。文在寅大統領が候補者時代に選挙公約として掲げた1万ウォンは、経済の実情にあったものではなく、公約としてインパクトの強い数字にしただけといった印象が拭えない。

 最低賃金の水準をインパクトの強さだけで約束してしまうと、雇用が減ってしまい、決して国民のためにならない。

 ここで日本の参院選に触れておこう。参院選に向け各党からは参院選の公約発表が相次いでいるが、最低賃金の大幅な引上げを公約に掲げた政党が少なくないことには驚いた。立憲民主党は、最低賃金を5年以内に1300円に高めるとしており、社民党や共産党は、ただちに全国一律1000円とし、1500円を目指すとした。

 一律1000円となれば、最も低い水準にある県では一気に31%の引上げになり、全国の加重平均額(都道府県ごとの労働者の数を勘案して算出した平均)からは14%の引上げとなる。また5年以内に全国加重平均額を1300円にするためには毎年8.2%ずつ引き上げなければならない。

 なお、最近3年間の引上率は年率で3%であることを考えれば、これら政党が公約で掲げた最低賃金の水準は途方もなく高いことがわかる。本当にこれだけの賃上げをして大丈夫なのだろうか。

 韓国の苦い経験から、日本も学ぶ必要がある。
高安 雄一


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転載元転載元: 現代日本の風2019

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