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子どもの健康を考える「子なび」
読売新聞 2018年3月7日
コラム 発達障害(18)本人の意志 任せ過ぎないで発達障害では、精神科医で信州大付属病院子どものこころ診療部長の本田秀夫さんに聞きます。(聞き手・松本航介)
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成長して二次障害が起きやすくなる育て方の最後に、本人の意志に任せ過ぎる育て方について説明しましょう。
よく、今の日本は学歴社会だと言われます。ところが、高学歴の人でも実際に社会人になってみると、「あの人は一流大学を出ているくせに仕事は全くできない」などと言われることもしばしばあります。
社会経験を積んだ人なら、学歴が必ずしも当てにならないと感じているのではないでしょうか。なのに、なぜか自分の子のことになると、「この子は少し変わっているけれど、勉強さえできれば、いい学校を卒業して、いい会社に就職できるのでは」と考えてしまいます。
実際、発達障害の子の中には成績がとてもいい子もいます。成績がいいと、親としてはもっと勉強させていい学校に行かせたい、と思うのが人情です。 そこで、「勉強さえすれば他の苦手なことは何もしなくていいよ」と、本人の意志に任せ過ぎてしまうわけです。
得意な勉強以外、苦手なことはやらなくてもいいという環境で育つので、大人になっても、好きなこと以外はやらなくなってしまいます。何か仕事を頼まれても、「やってやる」という 傲慢 ごうまん な態度になりがちです。そして、傲慢に振る舞う割には、実際にやってみるとそれほどうまくできない。
結局、「いい学校を出ている割には、仕事のできない人」という評価を受け、会社で行き詰まってしまうことがあるわけです。
これまでいくつかの育て方をお話ししました。発達障害の子どもの支援を考える上で、育て方はとても重要です。本人に対する教育が大切なだけでなく、 適切な環境をつくっていくために、周りの人たちの理解も不可欠なのです。
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メンタルヘルス・脳の生理病理
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読売新聞 2018年1月21日
あなたの健康百科 by メディカルトリビューン 小児の「自制心」、遺伝子の影響は?自分の欲求を我慢したり、頭を切り替えたりするなどの「自制心」の基盤となる能力は、実行機能と呼ばれる。
近年、幼児期の実行機能の個人差が、児童期の学力や友人関係、成人期の経済状態や健康状態を予測することが示唆されているという。
京都大学教育学研究科准教授の森口佑介氏、国立教育政策研究所主任研究官の篠原郁子氏らは、国内の3〜6歳の小児81人を対象に研究。
実行機能に深く関与する外側前頭前野の活動には、神経伝達物質ドパミンを分解する酵素であるCOMT (カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ)遺伝子が関与しており、その遺伝的影響が見え始めるのは5〜6歳以降であることを、Dev Sci. 2018年1月5日オンライン版で報告した。
COMT遺伝子多型による個人差を検討過去の発達科学や教育心理学、教育経済学の研究では、多くが知能のみに焦点を当てていたが、近年は「よりよい人生を送る上で、子供のいかなる能力が重要か」が大きな問いになっている。その中で現在、小児の実行機能の個人差が世界的に注目されているという。
実行機能の個人差をもたらす要因としては、家庭の経済状態や育て方が指摘されているものの、遺伝的な要因はほとんど検討されていない。そこで森口氏らは、遺伝子の個人差に注目し、遺伝子の働きがいつ、どのように小児の実行機能の発達に影響を及ぼすのかを検討した。
同氏らが注目したのは、神経伝達物質ドパミンの代謝酵素であるCOMT遺伝子である。その遺伝子多型(Val/Val型、Met/Met型、Met/Val型)により外側前頭前野の働きに違いが生じ、実行機能にも差が出ることが知られている。
今回、同氏らは、東京および大阪の保育園児(3〜6歳)81人の口腔細胞を採取し、COMT遺伝子多型を調べた。また実行機能の1つである認知的柔軟性を調べる「ルール切り替え課題」※を行ってもらい、そのときの外側前頭前野の活動を近赤外分光法によって計測した。
その結果、「ルール切り替え課題」の成績(認知的柔軟性スコア)は、3〜4歳では遺伝子多型による違いは認められなかった。一方、5〜6歳では、Val/Val型の認知的柔軟性スコアは、Met型(Met/Met型とMet/Val型)に比べて高い傾向を示した。
すなわち、Val/Val型を持つ小児では、Met型を持つ小児に比べて、変化への対応能力が高い傾向にあった。さらに、Val/Val型ではMet型に比べて、強く外側前頭前野を活動させていた。
同氏らは、今回の研究について「遺伝子の働きは、5〜6歳になると行動 (実行機能)に影響を及ぼすことを示した初の成果」としている。
また、同氏らは「Val/Val型の幼児は認知的柔軟性に優れることが示されたが、他の側面においても優れているというわけではない。
頭の切り替えが得意であるということは、裏返せば何かに集中することは苦手である可能性がある」と指摘。事実、成人における研究では、Val/Val型よりも、Met型の方が作業記憶を得意とすることが報告されている。
今後は、小児の遺伝的資質に応じて、異なった子育てや発達支援をすることの有効性の検討が必要になってくるという。
※ 色と形が異なる図柄のカードを用意し、小児が検査者の指示に従って色と形のルールを柔軟に切り替えられるかを調べるもの (あなたの健康百科編集部)
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僕、認知症です〜丹野智文43歳のノート
読売新聞 2018年1月23日
コラム 通勤中、助け求めてナンパと誤解され …「認知症です」カードを自作自作のカードを入れた定期入れです。通勤カバンにくくりつけてあるので、すぐ取り出せて、なくす心配もありません 認知症になると働けない? 私は大学を卒業してからずっと、自動車販売会社「ネッツトヨタ仙台」の店舗で営業マンとして働いてきたのですが、5年前に認知症の診断を受けた際に本社の総務・人事グループへ異動になりました。
よく「どうやって働いているのですか?」と聞かれます。「認知症になったら、仕事は続けられない」という感覚が、まだ一般的だということでしょう。
実際、厚生労働省が2014年に行った調査では、働いていた若年性認知症の人の79%が自ら退職したり、解雇されたりしたそうです。私がこれまでに見聞きした範囲では、勤め先を辞めずにすんでも、実際には仕事らしい仕事はほとんどしていないという場合も多いようです。
しかし、私自身の経験からいうと、周囲の理解と協力、本人の意欲があれば、働くことは可能です。そのことを知ってもらうためにも、私がどうやって勤務しているのかをお伝えしたいと思います。
毎日の通勤経路で迷う 仕事を続けるうえで、大きな課題となるのが通勤です。私の場合、毎日使っている経路でも突然、どう行けばいいのかを忘れてしまうことがあります。
道を間違えたり、乗り場を見つけられなかったりすることもありますが、 電車やバスに乗っていて、どこで降りればいいのか分からなくなる時が 一番焦ります。
近くの乗客に尋ねるのですが、大抵の人はけげんな顔をします。 見知らぬ男に突然、「私は若年性認知症で、会社に行くところなのですが、 どの駅で降りればいいでしょうか」なんて言われたら、 ふざけているのかと思ってしまっても仕方ありません。
20代前半くらいの女性に声をかけたら、「新手のナンパですか?」と言われてしまいました。それでいよいよ「これはまずい」と思ったのです。
対策を考えて、自宅から会社までのバスと地下鉄、JRの乗り継ぎ経路とともに、「若年性アルツハイマー本人です ご協力お願いいたします」 と印刷したカードを作り、定期入れに入れました。
困った時はそれを見せるようにしたら、それまでとは打って変わって、 すぐに助けてもらえるようになったのです。
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子どもの健康を考える「子なび」
読売新聞 2018年1月17日
発達障害(15)二次障害 育て方が関係
発達障害では、精神科医で信州大付属病院子どものこころ診療部長の
本田秀夫さんに聞きます。(聞き手・松本航介)
発達障害の子どもの支援を考える上で、「育て方」はとても大切です。
前回お話ししたように、発達障害そのものはおそらく
何らかの脳の異常によって起きますが、発達障害として生まれてきた後、
どんな大人に育つかということには、育て方が関係するのです。
私は、育て方を四つのタイプに分けて考えています。
一つ目は、その子の発達障害の特性をきちんと理解し、
特性に応じて必要なことを身につけさせるという育て方です。
特性に合わないことは、無理に教え込もうとはしません。
発達障害の子は、興味の対象が偏りやすいという特性があります。
そのため、目標を定める時は、本人が興味を持って取り組めるような
目標と方法を考える必要があります。
その際、少しの努力ですぐに達成できるような目標を作ることが大切です。
ほかの子には簡単にできることでも発達障害の子にはうまくできないことが
あります。「できるはずだ」と思ってほかの子と同じ目標を掲げ続けると、
その子はつらくなってしまいます。
コミュニケーションが苦手な子は小さい時はできるだけ叱らずに
褒めてください。叱られると人に相談する意欲が下がってしまいます。
なるべく気軽に人に相談し、協力してもらいながら
何かを進めていくということを習慣づけることが大切です。
こういう育て方を幼い頃から行っていくと、
うつなどの二次障害を防げるのです。
ところが、次の三つの育て方では、二次障害が起きやすくなります。
わが国の多くの親御さんが「普通」と思っている育て方、
苦手克服のために訓練を過剰に行う育て方、
本人の意志に任せ過ぎる育て方。
この三つです。
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子どもの健康を考える「子なび」
読売新聞 2017年12月20日
発達障害(13)二次障害早期支援で予防
発達障害では、精神科医で信州大付属病院子どものこころ診療部長の
本田秀夫さんに聞きます。(聞き手・松本航介)
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発達障害の人は、思春期以降にうつや不安などの二次障害が生じることが多いと言われています。でも、全員がそうなるわけではありません。
Cさんは、3歳から私たちが診てきた男性です。3歳の頃は典型的な発達障害の特徴がありました。共感性に乏しく、一人遊びばかりして他の子に興味を
向けない。そこで、幼児期から専門家の支援を受けて育ちました。
今、20代後半です。高校を出て電機メーカーに就職しました。
障害者としての就労ではなく、普通の就職です。
会社では、問題だと思ったことは上司でも臆せずにズバズバと指摘します。
いわゆる「 忖度そんたく 」は、得意ではありません。
こういうタイプは会社では嫌がられることがあります。
ところが、この会社は、「変に忖度するより前向きな提言をする社員の方がいい」と評価してくれ、入社5年目で同期で最初にチーフになりました。
社内のコンピューター端末の操作マニュアルを一人で作るなど、
仕事はとても優秀です。対人関係は今も得意ではありませんが、
チーフとして後輩を食事に連れて行くこともあります。
自分が企画して、自分の計画通りに連れて行くので大丈夫なのです。
趣味はアイドルのイベントに出かけることやテレビゲーム。
少しオタクですが、社会人として支障はありません。
Cさんは幼児期から支援を受けて、二次障害を防ぐことができました。
もし、育ち方が違っていれば、自己肯定感が下がったり、
うつになったりしていたかもしれません。
発達障害は早期発見、早期支援が大切です。
それによって、つらい二次障害を予防することが十分に可能です。
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