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正岡子規の俳句と漢詩

 寝る前にぱらぱらと正岡子規の『仰臥漫録』を見ていたら、九月十三日(明治三十四年)の条に次のような句があるのが眼に止まった。

  枝豆ヤ 俳句ノ才子 曹子建

 子建は、魏の有名な詩人曹植(ち)の字。「俳句」と言えば、普通は日本の物だ、という認識があるから、どうして中国古代の詩人が俳句の才子なんだ、と思うでしょう。
 そもそも、どうして「枝豆」から「曹子建」が出て来るのか。
 これは、曹植の、人口に膾炙した「七歩(しっぽ)の詩」(『古文真宝』前集。『世説新語』文学)が豆を題材としている事に基づくのでしょう。
 
  煮豆持作羹   豆を煮て 持って羹(あつもの)を作る
  漉菽以為汁   菽(しゅく。まめ)を漉(こ)して 以て汁と為す
  ?愿在釜下然   ?愿(き。まめがら)は 釜の下に在りて然(も)え
  豆在釜中泣   豆は 釜の中に在りて泣く
  本自同根生   本 同根より生ぜしに
  相煎何太急   相煎ること 何ぞ太だ急なる
 
  豆を煮て、そうしてスープを作る。 
  豆を漉して、そうして汁とする。
  豆がらは釜の下で燃料として燃えているのに、
  豆の方は釜の内できゅうきゅうと音を立てて煮られている。
  元来は同じ根から生えた物なのに、
  どうしてそんなに急いで煮ようとするのか。

 これは、兄の曹丕(文帝)が弟の曹植をいじめて、「七歩歩くうちに詩を作れ、できなければ死刑だ」と命じたところ、曹植は、すぐさま上の詩を作ったので、曹丕は深く恥じた、という伝説とともに伝わる詩です。豆は、自分を、?愿は兄の曹丕を譬えて、兄が弟をいじめている事を諷した、という訳です。
 とすると、子規は、枝豆から曹植の「七歩の詩」を連想して、その才人ぶりに感嘆している、ということになります。
 では、なぜ「俳句」なのか。「俳句」は、元来は滑稽機知による句、という意味です。曹植の上の詩こそ、その典型、と言えましょう。そこで、曹植は滑稽機知の俳句作りの名人だ、と言ったのです。それは、曹植に託して作者自身のことを密かに誇っている、とも言えるでしょう。
 枝豆を見ると、かの滑稽機知の「七歩の詩」を作った才人曹植が思い出される、俺も曹植のような俳句の才人だろうが、というのが句意です。

 私は、俳句の研究では素人で、子規の研究史上、上の句を上のように解釈した人がいるのか否か知りません。ただ思いつくままに、以上の解釈を、夜中、目覚めたので、書き付けました。
 これから、また寝ます。

『古文真宝』前集では、第一句から第三句までを、「豆を煮て豆の?愿を燃(た)く」と、ただ一句にまとめています。
  

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先生の御教示にしたがって新釈漢文大系の『古文真宝』を調べてみたのですが、「本自同根生」は「本是同根生」となっています。久富哲雄氏の影印『錦繍段・三体詩・古文真宝』にも同じ「是」でありました。中華書局の余嘉錫氏『世説新語箋疏』では先生と同じ「自」となっています。どちらが正しいの問題ではないと存じますが、こういうことに対してなんと考えればよろしいのでしょうか。御教示いただければ幸いでございます。

2009/10/5(月) 午後 10:32 [ 谷田 ]


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