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  だが、第四首には、再び東京専門学校の学生たちに憤りが沸き上がったかのよ
うな語句が見られる。

  駑才恰好臥山隈  駑(ど)才(さい) 恰(あた)かも好し 山(さん)隈(わい)に臥すに
  夙把功名投火灰  夙(つと)に功名を把(と)りて 火灰に投ず
  心似鉄牛鞭不動  心は鉄牛に似て 鞭うつも動かず
  憂如梅雨去還来  憂いは梅雨の如く 去りて還(ま)た来たる
  青天独解詩人憤  青天 独り解す 詩人の憤(いきどお)り
  白眼空招俗子咍  白眼 空しく招く 俗子の咍(わら)い
  日暮蚊群将満室  日暮 蚊群 将に室に満たんとす
  起揮紈扇対崔嵬  起ちて紈(がん)扇(せん)を揮(ふる)いて 崔嵬(さいかい)に対す

  駄馬のような才能しかない身は山の隅に隠棲するのが宜しく、
  いち早く功績や名誉をば灰のなかに投じた。
  こうした心は鉄の牛のように鞭で打っても動かないが、
  異郷に在る憂いは梅雨のように払い去ってもまた生じる。
  ただ青い天のみが詩を作る私の憤りを理解してくれ、
  くだらない連中を白眼視していたために嘲笑われることとなった
  日が暮れると蚊の大軍が部屋一杯になろうとし、
  立って山のような群れを団扇であおぐ。

 首聯では、松山に隠棲して功名を放棄する、と達観したようなことを言うのであるが、頸聯に至ると、前述した通り、死灰が燃え立つように、東京専門学校の学生たちへの憤りがまた湧き上がって来ることを言うのである。それは、漱石の心底に潜んでいて、事あるごとに頭を擡げるのだ。

 そして尾聯は、翌二十九年七月八日付け子規宛書簡に、
  独居(ひとりい)の帰ればむつと鳴く蚊かな
とあるように、実景なのであろうが、第六句に言う「俗子」たちの群れを追い払いたい、という願望の暗喩かとも取れるのである。

   六 結語

 こうして、松山に赴任したばかりの漱石の漢詩からは、松山で安心立命の境地を得たいという心と、東京専門学校時代の苦い記憶の沸騰という相対立する心境が交互に顕現するのであり、それが一首の内に混在している。そうした二項対立の詩境は、漱石の一生の詩の中でも特異なもののようである。言い換えれば、これら五首の詩からは、彼の一生に於いて、この時に限って見られる特異な心境が汲み取れるのだが、そうした作品群として注目すべきものなのである。


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