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 近著『大田南畝・島田翰と清朝文人』(中日文化交流史文庫。大樟樹出版)の後書きです。

 後書き

 本書の第二部に述べられている島田翰と兪樾の事に就いては少なからざる思い出がある。

 その一つは、一九九〇年、四十六歳の夏、特別研究の休暇を利用して杭州市に二週間ほど滞在した時、当時は杭州大学(現、浙江工商大学)と称していたが、その三人の先生たち、陸游の専門家陸謙氏、文献学を専攻する顧志興氏、それにこの中日文化交流史文庫の企画者である王勇氏とともに、まず西湖の三台山下の法相寺付近に在る兪樾の墓に参拝したことだ。緑の木立の中に円形に土を盛った墓があり、個人ではなかなか気づかないような所に在った。顧志興氏が二〇一七年の三月十四日になってネットに掲げられた文章(杭州文史網、禹杭履迹、「俞樾与日本学人的交誼」)に拠ると、そこで私が一同に兪樾の日中文化交流に対する貢献や日本の学者たちから尊敬されている状況、彼が編んだ『東瀛詩選』に就いて語った、とあるが、そんな不遜なことを言ったかな、とも思う。もしこれが事実だとすれば、冷や汗三斗ものだ。

 それから車を三時間ほど駆って、兪樾の出身地であり、曾孫である兪平伯の生家が在るという湖州市徳清県にまで行ったが、驚いたのは、その三時間ほどの間、ずっと顧氏がしゃべりまくっていた事だ。すごいバイタリティーだ。早口の中国語で話していたから、あまり聞き取れなかったが、一つだけ覚えているのは、つまり王勇氏が通訳してくれたから分かったのだが、日本の静嘉堂文庫に所蔵されている陸心源旧蔵の二百点ほどの宋版が中国に戻って来ないか、という話だった。中国の人は、そんな事を考えているのか。しかし、これは、異常な漢籍鑑定の目利きであった島田翰が仲介して、合法的に日本の大財閥岩崎弥之助に購入させたものだから、そんな事は不可能である。それに、その後、十年間の大動乱である文化大革命が生じた中国に置いていたならば、この貴重な文化遺産もどうなっていたか分からない。そのように大きな眼で見れば、翰がやった事は大袈裟に言えば、人類の貴重な文化遺産を守った、という事になるのである。本書に紹介した翰と兪樾の筆談の中で、翰は、日本が貴重な漢籍の保存地であり、それ故に校勘学が発達すると述べているが、それはこのように現在にも尾を引いている問題なのである。

 車はなおも走り続けて、莫干山を左手に見る所を通ったが、私が
「干将・莫耶の故事の基づく所か」
と質問すると、
「そうだ」
という答えを貰った。徳清県のどこかの鎮で昼食を取った際に、そこの中国共産党の書記で、まだ若い人が出て来て御一緒したが、その席でも顧氏の熱弁は続いて、徳清辺の出身の文化人には北宋の沈括(しんかつ)、元の趙孟頫(ちょうもうふ)などがいる事を説くのである。この二人の姓名は私も聞き取れたから、何とか恥を掻かずに御相手する事ができた。

 かくて兪平伯の生家であるという、その当時は農家になっている家に到着し、そこのお婆さんと孫に面会したが、私の恩師である目加田誠先生が兪平伯と交わしたような学談(『洛神の賦』)をする訳にもゆかず、握手しただけで、すぐに別れたのであった。

 本書では、大田南畝にしろ、島田翰にしろ、漢詩文の引用が多くなり、日本の読者には読み辛くなる事を恐れるが、中国の読者の事を想定し、敢て省略する事をしなかった。去年の三月、杭州西湖の側らのホテルで久闊を叙し、執筆の機会を与えて戴いた、長年の畏友王勇氏、及び連絡をまめにして下さり、締め切りにも配慮して戴いた浙江工商大学准教授陳小法氏に感謝の辞を捧げる。

二〇一七年七月十二日 東京中野の自宅にて  徳田 武



 

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