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その折の雑言古詩が次のようなものである。

  楠公墓下作    楠公墓下の作

為道為義豈計名  道のため義のためにす 豈(あに)名を計らんや
誓与斯賊不共生  誓つて斯(こ)の賊と共に生きじ
嗚呼忠臣楠子墓  嗚呼(ああ) 忠臣 楠子の墓
吾且躇躊不忍行  吾れ且(しばら)く躇躊(ちょちゅう)して 行くに忍びず。
湊川一死魚失水  湊川の一死 魚 水を失ひ
長城已摧事去矣  長城 已に摧(くだ)け 事去りぬ
人間生死何足言  人間(じんかん)の生死 何ぞ言ふに足らん
廉頑立懦公不死  頑を廉にし 懦(だ)を立たしむ 公は死せず
如今朝野悦雷同  如(じょ)今(こん) 朝野 雷同を悦び
僅有圭角乃不容  僅かに圭角あれば 乃ち容(い)れず
讀書已無衛道志  書を読むも 已に道を衛るの志なければ
臨事寧有取義功  事に臨みて 寧(な)んぞ義を取るの功あらん
君不見満清全盛甲宇内  君見ずや満清の全盛 宇内に甲たりしも、
乃為幺麽所破砕  乃ち幺麽(ようま)の破砕する所と為る
江南十萬竟何為  江南 十萬 竟(つい)に何をか為せる、
陳公之外狗鼠輩  陳公の外は 狗(く)鼠(そ)の輩
安得如楠公其人  安(いずく)んぞ楠公其の人の如きを得て
洗尽弊習令一新  弊習(へいしゅう)を洗い尽して 一新せしめん
独跪碑前三嘆息  独り碑前に跪(ひざまず)いて 三たび嘆息し
満腔客気空輪囷  満腔(まんこう)の客気 空しく輪囷(りんきん)す

正道正義の為に行動するので、どうして名を売ることを考えようか。
誓って足利尊氏と天を共に戴くことはすまい。
ああ、忠臣楠子の墓だ。
私は暫し立ちもとおり、歩みが進められない。
湊川で楠公が亡くなったのは、南朝にとって魚が水を失ったというもの。
南朝を護る長城は砕け、事は終わった。
この世での生死など、どうして言挙げするほどの物だろうか。
頑なな者を清廉にし、臆病な者を起たしめたのだから、公の魂は滅びていない。
只今は朝廷も民間も付和雷同するばかりで、
ちょっとでも角だつ意見だと、もう受け入れられぬ。
読書士でも尊王の道を守る志は持たず、
事に臨めば、どうして義に従って功績を立てられようや。
君は見ないか、満州から起った清は全盛で、天下最強であったが、
なのに小さな英国に打ち負かされたのを。
江南の十万の軍は、結局何ができたのか、
江南提督、陳化成のほかは、犬や鼠のような輩だった。
どうにかして楠公のような人を得て、
陋習を洗い流して、がらっと変えたいものだ。
私は独り碑の前でたびたび拝し、
全身にみなぎる血気を為すすべも無く高ぶらせている。

〇陳公 江南提督、陳化成。一七七六年―一八四二年。アヘン戦争の時、呉淞の砲台で最後まで抵抗し、民族英雄として有名。
〇韻字 名・生・行(下平声八庚)、水・矣・死(上声四紙)、同・容・功(上平声一東)、内・砕・輩(去声十一隊)、人・新・囷(上平声十一真)の換韻格

 楠公に対する思い入れは言わずもがなだが、彼に託して洋夷の脅威から日本を守るべき気概のある者を求めていることが注目される。それは換言すれば、第九・十句に「如今朝野悦雷同、僅有圭角乃不容」というように、周囲と摩擦を起こしても信念を貫く士への待望である。さらに換言するならば、これは松陰自身の圭角があって多く事を起こしやすい性格を意識した言葉と考えられる。二十二歳で早くも彼は、周囲から孤立して自己主張しがちである自己の性格をみずから認識していたようである。また、押韻の面からいえば、四句一解ごとにきちんと韻を換えており、真剣に作った詩であることが窺えるのである。

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