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この本は元「将棋世界」編集長である大崎善生が、その職を投げ打って書いたノンフィクションである。 この本も恐らく本好きの叔父が持っていったらしく手元に無いのだが、心の残る一冊だ。 この本を読むまで、そして今も将棋の事は殆ど知らない。 将棋のルールも知らないので、将棋をした事が無い。 そんな私でも、この本を通して将棋の世界の過酷さ・厳しさが嫌という程、伝わってきた。 この本は、奨励会という全国の将棋の天才少年が集まる場を中心に、プロ棋士を目指しながらも年齢制限とリーグ戦で勝ち抜いた数名の枠に入らないといけない競争社会での様子・そして夢に破れた退会者 達のその後を筆者が見守りながら、描いている。 まずその奨励会に入る事も並大抵の天才じゃない。 数名に焦点を合わせて綴られているが、ある人は、3,4歳頃にトランプを覚え直ぐに大人が真剣に相手にしても負けてしまう程の実力を発揮する。 小一のとき、母親と出かけた際に偶然通りかかった地元の将棋会館に立ち寄るが、将棋のルールが書かれている冊子を渡され「これを覚えてからまたおいで」と言われてしまう。 が、そこが天才たるところ。その日の内に覚えてしまい、翌日には大人相手に勝ってしまうのだ。 「のだめ・カンタービレ」の将棋版だ!しかも、実際にあった事だ。 そんな才能があっても、プロ棋士にはなれないのだ。 それだけ、そんな逸話を持った天才少年達が奨励会に集まっているのだろう。 その奨励会は19歳までに師匠の推薦なくしては入る事が許され無いのだ・・。 義務教育を終えた後の人生を将棋に託し、それでも年齢制限(21歳で初段、26歳で4段、他にも3段リーグ等熾烈なリーグ戦がある)などの壁にぶち当たり、実社会に戻らなければならない。 しかし、社会は厳しい。 天才少年と呼ばれた栄光などは、社会には通用しないのだ。 学歴も無く、将棋以外の世界を殆ど知らずして生きてきたまだ26歳の若者達。 実社会に適合出来無い者、違う道に進む者、それでも将棋を忘れる事の出来無い者・・の姿を筆者の暖かく見守る様な目線で描いている。 また、天才少年を持った母親や家族の支え等も描いている。 天才であったが故に、苦労の人生を辿る事となる皮肉な人生を痛感する事になるのだが、それでも「将棋が大好きだ」との言葉にホッとすると共に涙が出た・・。 そして将棋会の名人である、羽生がいかに凄い棋士であるのかも知らされる。 この本を読むまでは、羽生といえば寝癖でしかなかった私だが、中学生棋士だった事、そしてそれがどんなに凄い事なのかはこの本を通して知った。 しかしこの本は何度も読み直したかった本だけに今、手元に無いのが悲しい。 また、買いなおすしかないか・・。
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