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受贈詩誌の感想
「舟 第25号」
2014.12/01
現代短歌船の会
〒302-0124
茨城県守谷市美園3-9-5
結晶化への欲求
美の氷点
加部洋祐
色・にほひ・高さ・時間を漂白し命ならざる<美>が氷りけり
真実の貌に氷るまでの<美>を死より静けく楕円がめぐる
人類がまだ生まれざる日をこめて葬儀はつづく円の内側
時間から剥離されにし主観とふ影自らが自らを向く
天変を本質として十全なものこそ遂に氷の刃
普段、短歌はあまり嗜まないのですが、思わず目に留まりました。
幾何学的な、鋭く冷たい美しさ。通底する死の香り。
――シャーレの金属樹、液体窒素に浸した薔薇、精巧なビスクドール、機械仕掛けの内臓、チェンバロの音色、無機的な電子音、近未来都市――全てが計算され尽くした世界。
そんな、神の叡智に似た、非人間的なものへの憧れを誘います。
「感情 第8号」
2014.11/01
風都社
〒170-0013
東京都豊島区東池袋1-36-3
池袋要綱ハイツ505号室
ひんやりとした優しさ
心は
おさない主人公にだけゆるされた
深く青い森の
ちいさな硝子の塔
手をさしのべれば逃げる
青い月を辿って 棲みついた
少女が好むものは、りぼん
傷ついた、ことり
または、さびしいおとこのひと
おとこのひとの傷を突く
平気
物語の渦中にあって
何もしない 何もいわない
けだかい冷淡
(小野弘美「ちいさな硝子の塔」)
少女性というのは、どこか冷たいもののように思います。それは彼女が、大人になることを、外の世界の一切を拒絶するような、ナィーブな強さを抱いているからでしょう。
拒絶してしまえば、失うことも悲しいこともありません。代わりに、ぬくもりを得ることもありませんが。《塔》という高みから世界を見下ろしながら閉じ込められていること、その居心地のよさは、私も嘗て感じたことのあるものでした。
「αρχη No.8」
2014.12/01
アルケーポエム本舗
〒455-0882
名古屋市港区小賀須3丁目1510
仮想恋愛のススメ(?)
「初雪が降りました」と
メールが届いた
南ドイツの黒い森の青年から
(中略)
わたしが初めて恋をしたのは
ヘッセが書いた小説
『車輪の下』のハンス少年だった
神経症の多感なハンス・ギーベンラードは
ひねくれた少女時代のわたしには
ピッタリの友人でもあったから
そのヘッセと少年が重なって
とても愛おしく思われたのだ と思う
(硲 杏子「小鳥になって」)
小説中の架空の人物に恋をすることは、私もあります。芸能人に憧れるのと似たような現象だと思いますが、芸能人には恋したことがない不思議。個人差があるのでしょうけれど、他の方々は一体どうなのか、気になっていたところです。
この作者のように、恋した架空の人物に似た人を好きになることもあって、順番が逆じゃないだろうかと悩んだこともありましたが、同じような人がいると分かって一安心。
よーし、じゃんじゃん恋しよう。
「GANYMEDE 62」
2014.12/01
銅林社
〒179-0073
東京都練馬区柄3丁目7番21号
違和感なしの違和感から
空から水が落ちてきた、
神の涙は混ざっているのかいないのか、
目の前にサルスベリの赤い花々咲いていて、
傘をさす、
そのままの形で垂直に上昇し、雲また雲をくぐりぬけていったとしたら、
涙にぬれた神の眼球、見ることができるだろうか、
サルスベリの赤い花々見ながら、
狂いそこねているかのように、
傘をくるくるくるくるまわしているぼくがいて。
*
(恩寵としての試練、
あるいは、
試練としての恩寵、
引力が斥力とはげしくせめぎあって、
そこに「詩の光」があらあらしく渦巻いて)
すうっと、水のように喉を流れていった言葉たち。感覚が近いのでしょうか、心地よく感じました。「空」、「水」、「傘」、「花」、「神」、「くるくる」――この辺りは私もよく使う言葉です。といったところから興味が湧いて、他の詩も読んでみたいなぁ、と思いました。
「COAL SACK(石炭袋) 80号」
2014.12/01
コールサック社
〒173-0004
東京都板橋区板橋2-63-4-209
詩の来訪
異国 黄昏をまとう公園にて
小山 健
その時、男はカスターニェンの木陰に、ただ独りだった。
男の耳が風の内に捉えるもの、それは、
大気の小川に溶けこんだ、さえずりのかけら。
男のこめかみが、
現れたり失われたり、かくれんぼする木漏れ日の、
微かな重みに予感するもの、それは、
陽の内に記された無数の言葉。
男は目を閉じる。
子供たちの戯れ。
梢の葉擦れ。
噴水の水面の、滴のかけっこ。
男は感じる、
世界にひそむ小曲は、こんなにも近い、と。
男は目を閉じたまま。
時間の幅が曖昧になり、
現実の手触りが遠退いた頃、
知らぬ間に訪れた夢幻の舟に、
さらわれ、揺られながら、
やがて、男は観る、
世界の知恵の至らぬ陸が、
ゆっくりと、黄金色に染まりだすのを。
詩が現れるときの、典型的な感覚ですね。現実とは異なる質感を持ったリアリティ。非現実というにはあまりに鮮やかなイメージが目の前にあって、渇き故に、手を伸ばさずにはいられない。詩を書く者にとっての、幸福なひとときです。
■藤川みちる (ふじかわ・みちる)=劇作家・俳優・詩人
1991年生。 仙台市在住。
劇団みちるcafé 主宰
●●● 「季刊ココア共和国第16号」 のおしらせ ●●●
●●● 秋亜綺羅詩集 『ひよこの空想力飛行ゲーム』 ●●●
●●● 秋亜綺羅自身による詩の朗読 ●●●
●●● 第22回丸山豊記念現代詩賞 ●●●
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受贈詩誌の感想※藤川みちる
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詩誌の感想(2)
「蘭 80」
A5版
2014年11月1日
編集/高垣憲正
発行/編集工房ぱぴるす
〒722-0022
尾道市栗原町11600-11
へび紙様に見つめられ
婆の私は 先生面をして孫娘の顔色を見る
夏休みの宿題 切羽詰まった決意か
への字の口
三人の女は 画用紙色いろいろ ハサミ
のりをつかみ 切り 貼る
無言で作業は始まった
孫娘は水色のへび 紅の色は娘 婆は茶色
色画用紙から へびが ぬらり ぬらりと
抜け出してきた
(加茂照子「折本」)
私事ですが、保育を勉強している近頃、このような風景を身近なものに感じます。 思わず目に留まった一編ですが、他にも目が留まった詩が何編か。 まとまりのよい詩の集会所でした。
「エウメニデス 第46号」
A5版
2014年10月30日
編集発行/小島きみ子
〒385-0022
長野県佐久市岩村田3246-4
かるいみずのおもみ
みずのおと、しみこむよ。わたしをどこかで、かたるので、きっと、きほう、ねがえる、かしら。ゆるんだ、こうかいが、さきだちます。ねぐらをかかえて、いりぐちです。とうとつに、はねるので、うきますか、とうめいになり、どろ、そのぶんだけ、そまるといい。
(海埜今日子「水ノート」)
ずっしりとしたもののなかで、いちばんかるかったもの。
けれど、かるいからといって、中身がないわけではないのです。
ぎっしりつまった思念がわたしを圧迫して、溺死しそうでした。
喉を潤そうと思ったら、海が口を開けたかのようでした。
引きずり込まれて、息を継ぐこともできずに、流されていきました。
「かねこと 第7号」
A5版
2014年11月15日
編集発行/新井啓子
〒371-0804
前橋市六供町779-2
つきよあそび
つんつん つきよ つばくろ ねむる
つらつきあわせ つれそいねむる
つつみかくさず おしえましょう
つつみのなかの おおばんこばん
つかいはたして なれのはて
ついえたさきの とりものちょう
(新井啓子「つきよのつばくろ」)
真夜中の現在、瞼が痙攣し始めたところに、突き刺さった詩片。
言葉をころころ転がして笑っている様子に和まされ、つい、つられてしまいました。
一行以外、行頭がすべて 「つ」 で揃っています。
一文字だけの 「し」 が、夜空に浮かぶ三日月に見えたのは、錯覚でしょうか。
「し」 は、裏返され回転された 「つ」 なのでしょうか。
夜は深まるばかりです。
■藤川みちる (ふじかわ・みちる)=劇作家・俳優・詩人
1991年生。 仙台市在住。
劇団みちるcafé 主宰
●●● 「季刊ココア共和国第16号」 のおしらせ ●●●
●●● 秋亜綺羅詩集 『ひよこの空想力飛行ゲーム』 ●●●
●●● 秋亜綺羅自身による詩の朗読 ●●●
●●● 第22回丸山豊記念現代詩賞 ●●●
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こんにちは。 秋亜綺羅です。
いつも、たくさんの詩集、詩誌などをお贈りいただくのですが、
なかなかお礼状を書けずにいます。
わたしは来年1年間、 「現代詩手帖」 で 「詩書月評」 を担当することになりました。
で、詩集に関しては懸命に読むことで、お礼に代えさせていただけるとおもうのですが、
逆に詩誌については、じゅうぶんに目を通す自信がありません。
そこで、いつもいっしょに詩を書いている藤川みちるに、 「受贈詩誌の感想」 を
このブログに書いてもらうことにしました。
わたしがいいよと思う詩誌を、藤川に手渡して読んでもらいます。
藤川みちるの年齢はわたしの3分の1。 わたしにない、ひらめきいっぱいの感想が読めるかもしれません。
では。 その第1回です。
詩誌の感想(1)
「山形詩人 Vol.87」
A5版
2014年11月20日
発行/木村迪夫
編集/高橋英司
〒999-3503
西村山郡河北町岩木259
あなたにひとめぼれ
あ、ぐねってうねってる。
なんか気になる!
お、これはイイ。好き!
どこが好きって? う〜ん、どこだろう。 ぜんぶ?
どうして好きって? う〜ん、どうしてだろう。 わかんない。
そもそも理由が必要ですか?
好きって、ビビッと来た一瞬が全てなんじゃないですか?
理由なんて全部後付けじゃないですか?
自分や他人を納得させるための、なにか尤もらしい言い訳!
え、でもそれじゃ、全然分かんないって?
そうですよねぇ……どうしましょう。
どうやったらこの、イイ、を伝えることができるんでしょう。
どこか一文を切り取りますか?
でも、詩のイイって、一部分じゃないじゃないですか。
全体から感じられるモノがイイ、なんじゃないですか。
解説でもすればイイんでしょうか?
でもそれって、やっぱり、その詩そのものには敵わないと思うんです。
私のフィルターを通しているので、その詩そのもののイイ、を伝えることはできないんです。
どうしましょう?
こうしましょう!
私の好きな浮き舟ⅡⅩⅣ
佐野カオリ
雨の舗道に落ちていたひらがなばかりのじかんわり
木曜三時間めの 「わたしのじかん」 あれなあに
歩く かなしい 誰に会うということもなく コスモスの
花の影 ススキを渡る風のうしろ するともうどこにも
いないのです こうして椅子に座って互いを
呼びかわして 「あなたの名は□」、 「君の名は□□」 フィルムの尽きる
向こう側まで 決めたのです 決めるのは好きじゃなかった
けれど 決めたのです ふしぎね
首飾りをたくさん 集めていました
外せないときがあって 近付いて鎖を ほどいて
差し上げましたが ひとつばかりでなく いくつも重ねて着けていたのです
あのきらめきは もしかしたら ことばだったのかもしれません
歩く 誰を待つということもなく
ひかる時間のたてぐみ 碁盤です
ああ、これでも辿り着けません!
だって、文字がぐねってうねってるんですもの。
紙面で読まないと伝わらない。ああ!
もどかしい、恋。
なぞるばかりの、肌。
「詩遊 No.44」
B5版
2014年10月31日
発行/詩遊社
編集/冨上芳秀
〒534-0012
大阪市都島区御幸町2-11-1-506
美味しく戴きました
すすめられたショートケーキの突端を見下ろした瞬間、私はどこかの岬の突端にたたずむ女で、のぞきこんだ断崖の下からは、打ちつける波の音が聞こえていました。
(中略)
奥様お手製のショートケーキへの感銘を、帰り際に私があらためて述べると、あの断崖は落下する人が絶えないのよ、と奥さまは私の耳元でおっしゃるのでした。
(林美佐子「ショートケーキの断崖」)
サクッとフワッとしたケーキを食べたような、そんな味がする一編。
美味しかったので、また、機会があれば戴きたいと思います。御馳走様でした。
「ひょうたん 54」
A5版
2014年11月7日
発行/ひょうたん倶楽部
〒238-0051
神奈川県横須賀市不入斗町3-53
あなたの庭に遊ぶ
読んでいると 庭の風景が 豊かな彩りをもって 目の前にあって
あなたの視線に重なったわたしの視線は 繋がれた脳は
あなたが見たものを あなたの心の動きを 追体験します
あなたの庭は わたしの庭と違っていて それが新鮮で
わたしは あなたの庭に あなたの存在に 触れることができて
楽しかったので 記念に 一輪だけ
レースの雲 動き わたしは春に満ちた庭にいる
黄色い花びらを満開に散らす もっこうばら
流れる時に耐え白い無数の うつぎ の小花が震えている
るぴなす らっぱずいせん きんせんか
うつつに燃える花々をかきわけ 雲の巣が光をつなぎとめる
網目状の幾何学模様はゆれ うつぎ の花はゆれ
花々ときぬずれの音は 続き
わたしの庭に白い服を着たエミリー・ディキンソンが現れる
(水嶋きょうこ「あふれる庭」)
「PO 155号」
A5版
2014年11月20日
発行/左子真由美
編集/佐古祐司
〒530-0044
大阪市北区東天満2丁目9-4
千代田ビル東館7階FG
今と出会う
「インターネット」を皮切りに しだいに今というものは仮の姿となり まもなく今という定義はなくなろうとしている つまり時間なるものが 禁欲をやめ じっとしていなくなって ひねり ねじり ひずみなだれ うらがえって もんどりうつようになった 戦場ヶ原で繰りひろげられているハリウッド映画の合戦ロケが ほんとうの歴史上の合戦だった といった現象は もっと日常になるだろう
(ハラキン「時間なるものが」)
インターネットによって露になった、直線的な時間の幻想性。過去というのは、今、思い出すものであり、未来というのは、今、思い描くものだということ。ナポレオンは今、勝利の旗を揚げ、織田信長は今、明智光秀に裏切られ、キリストは今、十字架上で息絶えるのです。
「tab No.43」
A5版
2014年10月15日
編集発行/倉田良成
〒230-0078
横浜市鶴見区岸谷4-25-25
鶴見岸谷ハイツ201 ウラシマ効果、或いは、引き裂かれた二者の時間旅行
ジャックとベティは互いに見つめ合った
もう何も言うことはなかった
ジャックは周回軌道に残り、ベティはブラックホールに飛び込んだ
ベティはジャックに顔を向けたまま、背中からブラックホールに吸い込まれていく
ジャックの視界の中でベティの落下はだんだん遅くなっていく
そしてついに止まった(ように見えた)
ベティは無限の哀感に似た微笑をその顔にたたえている
(坂入進「ジャックとベティ」)
物理学の「ウラシマ効果」に着想を得た一編。 ブラックホールに落ちていくときの体感を、アリスが兎の穴に落ちていくときの風景を描写するかのように追っています。 彼、或いは彼女は、一体何処へ辿り着くのでしょうか。
■藤川みちる (ふじかわ・みちる)=劇作家・俳優・詩人
1991年生。 仙台市在住。
劇団みちるcafé 主宰
●●● 「季刊ココア共和国第16号」 のおしらせ ●●●
●●● 秋亜綺羅詩集 『ひよこの空想力飛行ゲーム』 ●●●
●●● 秋亜綺羅自身による詩の朗読 ●●●
●●● 第22回丸山豊記念現代詩賞 ●●●
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