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脱ステロイドの関係者の行動をみていて、いつも不思議に思うことがある。
なぜ、脱ステロイドの正当性を、医学的な正攻法で証明しようとしないのないのか?
脱ステロイド関係者の特徴的な行動パターンの一つは、「ゲリラ的に、マスコミやインターネットで自分達の主張を流し、アトピー性皮膚炎の患者さんを不安に陥れる」という広報手段にあると思う。
しかし、その主張は、医学常識から過剰に逸脱したものであったり(一部は「妄想」といってもいいレベル)、ステロイドのリスクのみを過剰に演出したり(ステロイドはこんなに怖いんだ、というよく見かける方法)、医学知識のあるものから見れば、疑問に思わざるをえないものばかりだ。
また、この手の不安を煽る手法が、強引な勧誘をする新興宗教や詐欺師の手法に似ているため、インターネットでは「カルト」「マインドコントロール」などと揶揄されている。
この手の方法は、熱狂的な信仰者をいくらか生み出すことはできるかもしれないが、脱ステロイドを医学の主流に押し上げることはない。
マスコミを焚き付けても、インターネットでステロイドのネガティブ広報活動をしても、道筋を外れた手法で脱ステロイドを広めようとするならば、皆さんに認められる治療法にはならない。
医学的な妥当性を証明する正攻法は、決まった方法しかない。
それはマスコミやインターネットを使ったものではない。
臨床試験の限界があるにしても、少しずつでも脱ステロイドの妥当性というものを医学的に検証して積み重ねることに目を向けるべきなのではないのか?
それとも、医学的な検証をしたが、脱ステロイドを支持する結果が得られなかったため、結果を隠してマスコミやインターネットを使って広報活動をしているのか?
それはそれで、アトピー性皮膚炎の患者さんに対して失礼というものだ。
アトピー性皮膚炎にステロイド外用剤を使用する妥当性については、すでに医学的に正攻法の手段で証明されている。
これは事実である。
だから、保険診療にもなっているし、世界中のガイドラインで薬物治療の中心となっている。
それを覆そうとするなら、正攻法の手段で反証するべきだ。
脱ステロイドの関係者が、真摯に医学に向合い、治療法の妥当性を検証することを願う。 |
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ステロイド外用剤が使われ始めたのは、1950年代だ。
とするならば、それ以前の時代をみれば、脱ステロイドをしたアトピー性皮膚炎の患者さんたちがどのような状況に置かれるのか、分かると思う。
あまり多くの詳細な資料は見つからなかったが、1940年から1942年にかけて、メイヨークリニックというアメリカの大病院で加療したアトピー性皮膚炎患者さんの統計が載っている論文があった。
今日は、この論文を紹介したいと思う。
The Natural History of Atopic Dermatitis. A 20-Year Follow-Up Study. |
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どうも勘違いしている人がいるようだ。
脱ステロイドとは、治療の必要がある湿疹を認めるにもかかわらず、「ステロイド外用を使わない」という選択を意図的にすることだ。
ステロイドの使用の有無のみが焦点になっている言葉だ。
一部の脱ステロイド関係者は、ステロイドをやめるだけではなくて、食生活や運動を取り入れて生活習慣を見直すことを脱ステロイドだと思っている方がいるようだ(それ以外にも、漢方薬などの東洋医学に頼る方、民間療法に頼る方、様々)。
しかし、それならば、なぜ「食事療法」だとか、「運動療法」とか、「生活習慣改善法」などの適切な治療法の名称を作って用いないのだ? 「脱ステロイド」という言葉には、どこにも生活習慣の改善を示唆する要素はないはずだ。
不可思議な主張だ。
それに、もし食生活などの改善でアトピー性皮膚炎が劇的に改善し、薬物療法が不要なくらい効果があるというのであれば、医学的に臨床試験を行って証明できるはずだ。
脱ステロイド関係者の主張する治療法の効果は、容易に根拠が得られるのではないか。
にもかかわらず、そのような臨床試験の結果はない。
医学的根拠がない。
脱ステロイドが、ステロイド外用剤の使用をやめるだけではなくて、食生活や運動習慣を変えることも含まれるというのであれば、名称の変更と、適切な臨床試験による効果の検証を行うべきだ。
これに関連して、もう少し書こうと思う。
過去の脱ステロイド関連の文献を読んでいるが、脱ステロイドと明確に書かれている論文は、日本語の論文のみで、英語の論文にはない(少なくとも私は知らない)。
そして、日本語の論文も、ごくわずかしか存在しない。
その中で、まずは以下の記載を見てほしい。
1993年に「脱ステロイド」という言葉を初期に用いた論文だ。
成人型アトピー性皮膚炎の脱ステロイド軟膏療法 |
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ステロイド外用剤の用語が、混乱して用いられているように思う。
一度整理しておく。
①タキフィラキシー:薬物の反復投与により効果が減弱すること。
②リバウンド:薬物を中止した際に、元の症状よりも悪化すること。
この2つの用語は、どれもステロイド外用剤の特徴であって、正確にいえば副作用ではない。
これら2つは、ステロイド外用剤を用いた治療で起こりえる可能性が言われているものの、明確に証明されてはいない。
そして、たとえ起こるとするとしても、議論の中心は「いかにこれらの現象を回避して使用するか」、または「他の治療法でカバーするか」ということであり、脱ステロイドを正当化するものにはならない。
他の薬物でも、徐々に薬効が弱くなる場合、反応性が乏しいケースがある場合というのは多々ある。
しかし、だからといって、その薬物の使用を否定するような議論は起こらない。
一方、ステロイド依存という言葉は意味不明である。薬物依存の定義から、
③ステロイド依存:ステロイド外用剤を、継続的あるいは周期的に摂取したいという強迫的欲求を伴う状態
という定義になる。
しかし、定義に当てはまる現象は起こらないのである(これは以前の記事に書いた)。
①②の用語と、③ステロイド依存は、全く性質の異なる現象だ。
脱ステロイド関係者の中には、①②の現象を③ステロイド依存という言葉に置き換え、脱ステロイドを正当化する者がいる。
「タキフィラキシー・リバウンド」よりも、「ステロイド依存」という言葉の方が、ステロイド外用剤に対する恐怖感を植えつけることがができるからであろう。
非常に姑息な手法だと思う。
「タキフィラキシー・リバウンド」は、 「ステロイド依存」とは全く異なる。
そして、「タキフィラキシー・リバウンド」は、脱ステロイドの正当化に使用されるべき現象でも言葉でもない。
ステロイド依存という脅し文句をいい加減に引っ込めるべきだ。
ステロイド依存が起こると脅し、ステロイド忌避(根拠に乏しい不信感からステロイドの使用を避けようとする心理)を生じさせようとする手法は、まるでカルト宗教の勧誘や、マインドコントロールの手法そのものだ。 ステロイド忌避といえば、つい先日、フランスのグループから面白い論文が発表された。
TOPICOP: A New Scale Evaluating Topical Corticosteroid Phobia among Atopic Dermatitis Outpatients and Their Parents. |
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1990年以降、医療の世界では「EBM(根拠に基づいた医療)」が重視されるようになった。
それまでは、理論的に効果があると考えられた治療法や、個人的経験で得た治療法、または権威とされる先生が推薦する治療法を行うのが普通だった。
しかし、効果があると思われていた薬物が、実は逆に寿命を縮めていたり、その逆に禁忌とされていた薬物が、効果的であると分かったりした。
そこで、理論的・個人の経験的治療を重視せず、きちんと医学的手法で臨床研究を行い、治療効果の有効性が確認された治療を行うようにしましょう、というEBMの考えが生まれた。
個人的にはEBMが医療の全てとは思っていないが(なぜなら、医学的に検討されていない部分・検討しきれない部分があるから)、しかしながら、医療に出来る限りの根拠を求めることは正しい道筋だと思う。
ステロイド外用剤による治療法は、根拠が積み重ねられ、今の標準治療になっている。
それを否定するような脱ステロイドには、明確な根拠がない。
つまり、脱ステロイドを行う医師は、その医師の個人的見解によって治療しているということだ。
脱ステロイドを行う医師の多くは、EBMという概念が教育されていない時代の医師に多い。
1990年代以降に医学教育を受けてきた医療関係者は、EBMという概念を教育されている。
きっと10年、20年後には、脱ステロイドを行う医師はますます少なくなるに違いない。
脱ステロイドの医師達も、実はうすうす脱ステロイドの限界に気づいているのではないだろうか?
そう思うことがある。
ある脱ステロイドの医師は、ステロイド外用剤を批判するようなことを言いながらも、一方でステロイド外用剤を完全否定はしない。
それどころか、実際にはステロイド外用剤での治療方針に移行しようとしているふしがある。
口で言っていることと、行動が伴っていない。
きっと、彼らも今さら引けないのだろう。
自分達が長年やってきたことを否定するのは、大変なことだ。
さらに、インターネットには「脱ステロイドの医師のリスト」として自分の名前が載っており、脱ステロイド医療を求めて患者さんが大挙して押し寄せる。
脱ステロイドを否定して標準治療を勧めれば、彼らに何を言われるか分からない。
インターネット上で、名指しで誹謗中傷を書かれるに違いない。
脱ステロイドの医師たちは、もう気づいているのではないか?
脱ステロイドでアトピー性皮膚炎をコントロールするのが大変難しいということを。
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