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久々に思いついてしまったので、ちとマニアックなタンゴネタを。
タンゴという音楽を強烈に決定づける要素として、コーラス終わりに登場する「チャッ、チャ」というリズムがある。こうやって言葉で書くと伝わりづらいが、音を聞けば誰でもすぐにわかる、あのタンゴ特有の終止形だ。細かい話を言うと、譜面上は小節が始まってから「チャッ、チャッ、チャ」と三音続くので、実際には「チャッ、チャ」じゃなくて、一音多い「チャッ、チャッ、チャ」がひとかたまりなのだが、ここでは、そのうちの終わりの2音を取って、「チャッ、チャ」考とさせていただく。(あー、理屈っぽい)
演奏する人も、踊る人も、聴くだけの人も、この「チャッ、チャ」にはそれぞれの思い入れなりがあるんじゃないかと思うのだが、ここでは特に演奏する人にとっての「チャッ、チャ」を考えてみたい。実は、この「チャッ、チャ」、単純な二音(もっといえば、ドミナントコードの構成音)であるのだが、これがどうしてタンゴっぽい感じに結びついているのか。
およそ20世紀初頭くらいに生まれた音楽というのは、16小節をワンコーラスとしてとらえ、それをリピートしていくという構造を取っている。日本人がカラオケに行っても、なんとなくコーラス始まりと終わりがすぐに理解できるのは、この尺によるものだ。まれに例外もあるが、日本の歌謡曲やポップス、演歌に至るまで、だいたいこの16小節ワンコーラスの構成が保たれている。
このコーラスという概念はジャズでは基本だが、もちろんタンゴも例外ではない。構造的には基本的にジャズとタンゴは同じような音楽なのである。ジャズとの比較で言うと、ジャズはワンコーラスの終わりに何を持ってくるかは決まっていない。ソロをアドリブで回すというジャズの王道パターンでは、次の人にメロディをスムーズに渡すための終始的なフレーズでつなぐことが多いが、特に決まりはない。でもタンゴはほぼ必ずコーラス終わりはこの「チャッ、チャ」と決まっている。16小節に一度はこのリズム形が出てくるのだから、聴く人の耳に残るのは無理もない。こういうお決まりのフレーズでコーラスを終わる音楽というのは実はあまりない。思い浮かぶところでは、ヨハン・シュトラウスでおなじみウィンナーワルツの「ジャッ、ジャジャッ、ジャ」くらいじゃないか。しかも、タンゴの場合は、4拍子でも3拍子でも、この終止形は変わらないのだ。これはすごいことだ。
話は脱線するが、「タンゴの破壊者」といわれたアストル・ピアソラが、最初に壊したのがこの終止形である。ピアソラの作品はほとんどが、このタンゴの伝統的な終始パターンを使わない。このことを知っておくと、なぜピアソラが「タンゴの破壊者」と呼ばれたのかが理解できる。タンゴにとってなくてはならない(と思われていた)「チャッ、チャ」を辞めてしまったのだから、トラディショナルなタンゴファンからは相当バッシングされた。「こんなのはタンゴじゃない」と。
そのあたりの話は斎藤さんにお任せするとして、僕はこのトラディショナルな「チャッ、チャ」についてもう少し深く考察したいと思っている。と言うのも、僕はタンゴの演奏家であり、またリズムを統括するベーシストでもあるので、曲の頭と終わりにもっとも気を使う。曲の頭は、テンポを決める「カウント」、そして曲の終わりはこの「チャッ、チャ」である。大げさにいえば、この部分に命をかけているといってもいい。この2つがうまく決まらないと、その間どんなにいい演奏をしてもタンゴは締まらない。それくらい大事な存在だと思っている。逆を言えば、演奏が途中で崩れたとしても、最後の「チャッ、チャ」を上手く決めることで、何となく曲がうまく締まる。「終わりよければ全てよし」という言葉は、タンゴには実にうまく当てはまる言葉だと思っているくらいだ。
(長いので、次回に続く・・)
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