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(前回からの続きです)
さて、ここで話題にしている「チャッ、チャ」が、いかにタンゴにとって大事かということは、ご理解いただけたかと思うが、実はタンゴの演奏家によって、この「チャッ、チャ」にもいろいろな解釈なりバリエーションがある。きれいに「チャッ、チャ」と終わる楽団もあれば、「チャッ、(休符)チャ」と間を持たせる楽団もある。あるいは、構成される三音をすべて等価に「チャッ、チャッ、チャッ」とまとめる楽団もあれば、かなりアクセントをつけて、「チャ、チャッ、チャ」とやる楽団もある。このへんが、タンゴの楽団の個性で、結構おもしろいのだが、要はそれくらいこの終止形にこだわっているということでもある。
僕の感覚でなんとなく大別するなら、およそ以下のような分類になる。
1:トラディショナル型:「チャッ、チャッ、チャッ」と比較的アクセントをつけずにまとめるタイプ。どちらかと言えば、タンゴの伝統にのっとり、1拍目と3拍目にアクセントが来るため無アクセントではない。代表的な楽団としては、フランシスコ・カナロ楽団やファン・ダリエンソ楽団がある。
2:2拍目アクセント型:「チャッ、チャー(強)、チャ」のように、2拍目をレガート気味で弾き、アクセントをつけるタイプ。代表的な楽団は、カルロス・ディサルリ楽団だが、後のオラシオ・サルガン楽団の裏拍系アクセントにも通じているのがミソ。比較的モダンな楽団でも用いられることが多い。
3:強アクセント+弱拍型:「チャッ、チャッ(強)、チャ」のような、2拍目(場合によっては1拍目も)に強烈なアクセントを置き、最後の拍は極端に弱めるというタイプ。コーラスではなく、楽曲の終わりになると、「チャッ、チャッ(強)、(休拍)チャ」のような形で、さらに2音目のアクセントが強調される。このタイプを始めたのはフリオ・デカロ楽団かと思うが、その後プグリエセ楽団でさらに強化され、後のピアソラにもつながっている。
もしかしたら異論もあるかもしれないが、代表的な終止形だけでも上記のような3タイプが存在する。ちなみに1〜3はほぼ登場した歴史順になっているので、タンゴの音楽が徐々に現代的になっていくにつれ、終止形も変化してきたことがわかると思う。
というわけなので、モダンタンゴを演奏するいわゆる「若手」のバンドというのは、3のプグリエセ=ピアソラ系の終止形を使うことが多い気がするが、モダンタンゴもプグリエセ=ピアソラばかりでは飽きてしまうということで、最近おそらく見直されている(気がする)のが、2のパターンである。このパターンは比較的トラディショナルな古くさいタイプのアクセントなのだが、このアクセントの良さは、次のコーラスに比較的スムーズに展開できる点にある。
タンゴでいうコーラスは、正拍である1拍目から始まると思いきや、実はそのほとんどがその前の小節の裏拍から始まる、音楽用語でいうところの「アウフタクト」を使っている。このアウフタクトの部分が、たいていは4ビートのうちの4拍目に当たるため、タンゴの楽曲ではこのコーラス最後の4拍目から、コーラス始まりの次の小節の1拍目にかけてのつなぎが、非常に大事とされている。極端に言えば4拍目から1拍目にかけては音を切ってはいけないのだ。だから、コーラス終わりの1小節というのは、最初の3拍まではそのコーラスを締める要素であるのに、次の4拍目はすでに次のコーラスの始まりとなっていて、そこで明確に線引きができる。それゆえに、タンゴのコーラスは「チャッ、チャッ、チャッ」の3拍で終わっているような感を与えるのである。
とここまで理解すると、話はわかりやすくなる。タンゴのリズムは基本的に「強弱、強弱」というアクセントを刻むが、4拍目にアクセントを持ってきたい場合は、自然と「弱強、弱強」というアクセントになるものだ。だから、次のコーラスとのつなぎを担う4拍目にアクセントを持ってきたければ、それと対になる2拍目にアクセントを持ってくるとスッキリする。通常のタンゴのアクセントは1拍目と3拍目にアクセントが来るため、リズム的にはこの最後の小節のみがシンコペーションとなる形だ。ただ、ここだけ完全にシンコペーション的にしてしまうと不自然なので、いろいろと工夫が凝らされる。このパターンの代表的な楽団であるカルロス・ディサルリ楽団の場合は、楽曲全体に「強弱、強弱」というアクセントが存在しているが、これはあくまでもアクセントの位置であって、実際の音の長さという点から言えば、「短長、短長」となるため、見方を変えれば、2拍目と4拍目が長音のアクセントとなっていると言えなくもない。という延長線で、ディサルリ楽団の終止形は全く自然にこの形で終わることができる。モダンの楽団として知られるオラシオ・サルガンの楽団も、基本的にはこの流れを受け継いでいるといえるが、ただ、このサルガンのリズム解釈が、実はその後のモダンタンゴの終止形に意外に大きな影響を与えたんじゃないかと、僕は密かに思い始めてしまったのだ。
(さらに長いので、また続く・・)
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