タンゴ練習帳

アルゼンチンタンゴを演奏するベーシスト(希少価値!)の練習日記

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

(さらに前回からの続きです)

前回で、いわゆるタンゴの終止形にもいくつかのパターンがあって、中でも最近「チャッ、チャッ(強)、チャ」のパターンがモダンタンゴでも多用されつつあるということを説明したが、その中でオラシオ・サルガンの用いた終止形と、モダンタンゴとの兼ね合いを少し紹介したい。

タンゴをタンゴたらしめている音型の最たるものがこの終止形であることはすでに述べたが、プグリエセ=ピアソラ流の「チャッ、チャー(強)、(休符)チャ」という終止形は、かなり強烈であるものの、あまりやりすぎると「またか」というような感じにもなってしまい、一時期モダンと言えば猫も杓子もこの終止形を使っていたものだが、最近あまりこの手の終止形を使っているバンドは少なくなった気がする。(ピアソラが有名になって、この形を使っているとピアソラの真似と思われるようになったからというのが一番大きいと思う)

そこで再び見直されてきたと思うのが、ピアソラと並んでモダンタンゴを牽引してきた(と僕は思っている)オラシオ・サルガン率いるキンテート・レアルのアクセントだ。サルガン楽団のアクセントは、本来はカルロス・ディサルリのようなトラディショナルなアクセントの応用だと思うのだが、それはディサルリ楽団の音もきっちり聴いている人間の感想であって、いきなりレアルの音を聴いた人にとっては、それが「ピアソラではない」タンゴの持つアクセントであると思ったとしても不思議はない。ちなみに、伝統的なタンゴを聞き込んでいる人の耳からすると、サルガンの音はかなり異質なものに感じる。僕も今でこそ普通に聴いているが、最初にサルガンの音に出会ったときは、ピアソラ以上の衝撃を覚えたほどだ。それくらい、サルガンのリズムは新しいし、トラディショナルなタンゴのリズムからはかけ離れている。ただ、その中には脈々と受け継がれてきたタンゴのエッセンスがやはりたっぷりと波打っていて、終止形1つ取っても、この人がディサルリの音楽を尊敬していたことがなんとなくうかがいしれる。ただ、そこはサルガンという人の強烈な個性で、「チャッ、チャーッ(強)、チャ」の終止形を、サルガン流に「チャッ、チャララッ、チャ」というような形にアレンジしているのだ。要するに、アクセントを置く2拍目の音を裏拍まで考えて表現したということである。このちょっとした、しかし印象的な終止形の変化によって、サルガンのタンゴは一気にモダンっぽさを帯びた。それを、今、多くのミュージシャンが採用しているのだと僕は思っている。

それはそれで、タンゴのモダン化における必要なプロセスかもしれないし、悪くはないと思うのだが、逆に言うと、今ほとんどのタンゴ演奏家が演奏するタンゴの終止形が、ピアソラかサルガンかのどちらかになってしまっている気がしなくもない。この長ったらしい文章の冒頭に、タンゴにおいてこの終止形がどれだけ大事かを語ったわけだが、いろんなアレンジやバリエーションが生まれてきているモダンタンゴの中で、終止形をきちんと考えてプレイしている楽団が意外と少ないんじゃないかと思ったわけだ。もしかしたら考えているのかもしれないが、どうも、ピアソラとサルガンのどちらかしかない感じで、それが妙に、モダンの楽団の演奏を聴いても、いまひとつ心に残らない理由の1つなんじゃないかと思わなくもない。

僕もサルガン好きなので、サルガンもしくはキンテート・レアル風の「チャッ、チャララッ、チャ」という終わり方は好きだ。でも、実際に僕らがタンゴを演奏する際に、それをやっているかといえば、サルガンアレンジの曲はもちろんやるが、それ以外の楽団の演奏では絶対にやらない。と言うのも、前述した楽団による終止形の違いがあって、それが楽曲のイメージに大きな影響を及ぼすことを知っているからだ。ダリエンソにはダリエンソの終わり方があり、ディサルリにはディサルリの終わり方が、プグリエセにはプグリエセの終わり方がある。そのほかの楽団のアレンジにしても、終止形のイメージはかなり明確に持ちながら演奏をしているつもりだ。

だが、意外にプロの楽団でも曲の終わり方がおざなりになっていることが多い気がする。あるいはみんなワンパターンになってしまっているか。ピアソラのコピーのような楽団はもちろんだが、そうでない楽団でもキンテートレアル風の終止形を頻発する例はよくある。それが悪いことではないのだが、レアル以前のディサルリを知っているかどうかで、同パターンの終止形でも違いは出るんじゃないか。ピアソラにしても、それ以前のプグリエセや、さらにはデカロのタンゴをしっかり理解しているかどうかで、随分変わってくるように思える。僕らは大した自慢じゃないが、デカロとプグリエセとピアソラの終止形の違いを音で表すことはだいたいできると思う。口三味線でも表現できる。所詮物真似じゃないかと言われるかもしれないが、意外と重要なエッセンスのような気がしている。クラシックのピアニストが、同じ曲をモーツァルト風、ベートーベン風、シューベルト風で弾き分けられるようなもんじゃないかと思ったりもするのだが(以前に、物まねで有名な清水ミチコさんがこの芸をやったときには正直びっくりした)。


まあ以上のようなこともあるのだが、結局僕が最終的に何を言いたかったというと、終止形の決め方というのは本当に大事と言うことなのだ。どの楽団がどうとかいうのではなくて、それくらい個性が表れる部分でもあるし、そこを決めるかどうかでその演奏の価値が大きく左右されるということである。最近、僕はこの終止形に密かにこだわっていて、以前なら、「チャッ、チャッ、チャ」をまあ走らないようにとどめたり、どこかにアクセントを置くということで弾いてきたのを、最初の「チャッ」とその後の「チャッ、チャ」を別物として考えるというような感じで、少しバリエーションを持たせて弾いている。

なので、この長ったらしい文章のタイトルも『最後の「チャッ、チャ」考』というわけで、一拍目の「チャッ」はどうせ強く弾くのだからということで省いている。大事なのは、残った最後の「チャッ、チャ」である、というのが、最近の僕の主張。この二音は、最初の音にアクセントをつけて弾くディサルリやプグリエセのような楽団もあるが、大体において、軽く置く感じで最近は弾くようにしている。そう考えると、実はタンゴにおける、終止形の考え方は意外とシンプルになる。最後の2音に限って考えれば、最初の音を強く弾くかどうか、この2パターンしかないと言ってもいい。書き言葉で表すなら、「チャッ、チャ」か「チャ、チャ」かのどっちかだ。ただし当然ながら、この2音は、いくらアクセントがなくても正確な落ち着いたリズムで弾かなくてはならない。でも基本的にはとても軽く。これをベースに考えて演奏すると、意外にトラディショナルなタンゴははまるのである。ピアソラは別だけど。

なお、このことは、ダンスのステップとも大きく関連している気がするのだが、その辺は僕はまだまだ勉強中なので大きなことは言えない。あくまでも仮説として考えているところだが、少しずつその辺が体感できてきたのは大きな成長かもしれないと思っている。

(了)

(前回からの続きです)

さて、ここで話題にしている「チャッ、チャ」が、いかにタンゴにとって大事かということは、ご理解いただけたかと思うが、実はタンゴの演奏家によって、この「チャッ、チャ」にもいろいろな解釈なりバリエーションがある。きれいに「チャッ、チャ」と終わる楽団もあれば、「チャッ、(休符)チャ」と間を持たせる楽団もある。あるいは、構成される三音をすべて等価に「チャッ、チャッ、チャッ」とまとめる楽団もあれば、かなりアクセントをつけて、「チャ、チャッ、チャ」とやる楽団もある。このへんが、タンゴの楽団の個性で、結構おもしろいのだが、要はそれくらいこの終止形にこだわっているということでもある。

僕の感覚でなんとなく大別するなら、およそ以下のような分類になる。

1:トラディショナル型:「チャッ、チャッ、チャッ」と比較的アクセントをつけずにまとめるタイプ。どちらかと言えば、タンゴの伝統にのっとり、1拍目と3拍目にアクセントが来るため無アクセントではない。代表的な楽団としては、フランシスコ・カナロ楽団やファン・ダリエンソ楽団がある。

2:2拍目アクセント型:「チャッ、チャー(強)、チャ」のように、2拍目をレガート気味で弾き、アクセントをつけるタイプ。代表的な楽団は、カルロス・ディサルリ楽団だが、後のオラシオ・サルガン楽団の裏拍系アクセントにも通じているのがミソ。比較的モダンな楽団でも用いられることが多い。

3:強アクセント+弱拍型:「チャッ、チャッ(強)、チャ」のような、2拍目(場合によっては1拍目も)に強烈なアクセントを置き、最後の拍は極端に弱めるというタイプ。コーラスではなく、楽曲の終わりになると、「チャッ、チャッ(強)、(休拍)チャ」のような形で、さらに2音目のアクセントが強調される。このタイプを始めたのはフリオ・デカロ楽団かと思うが、その後プグリエセ楽団でさらに強化され、後のピアソラにもつながっている。

もしかしたら異論もあるかもしれないが、代表的な終止形だけでも上記のような3タイプが存在する。ちなみに1〜3はほぼ登場した歴史順になっているので、タンゴの音楽が徐々に現代的になっていくにつれ、終止形も変化してきたことがわかると思う。

というわけなので、モダンタンゴを演奏するいわゆる「若手」のバンドというのは、3のプグリエセ=ピアソラ系の終止形を使うことが多い気がするが、モダンタンゴもプグリエセ=ピアソラばかりでは飽きてしまうということで、最近おそらく見直されている(気がする)のが、2のパターンである。このパターンは比較的トラディショナルな古くさいタイプのアクセントなのだが、このアクセントの良さは、次のコーラスに比較的スムーズに展開できる点にある。

タンゴでいうコーラスは、正拍である1拍目から始まると思いきや、実はそのほとんどがその前の小節の裏拍から始まる、音楽用語でいうところの「アウフタクト」を使っている。このアウフタクトの部分が、たいていは4ビートのうちの4拍目に当たるため、タンゴの楽曲ではこのコーラス最後の4拍目から、コーラス始まりの次の小節の1拍目にかけてのつなぎが、非常に大事とされている。極端に言えば4拍目から1拍目にかけては音を切ってはいけないのだ。だから、コーラス終わりの1小節というのは、最初の3拍まではそのコーラスを締める要素であるのに、次の4拍目はすでに次のコーラスの始まりとなっていて、そこで明確に線引きができる。それゆえに、タンゴのコーラスは「チャッ、チャッ、チャッ」の3拍で終わっているような感を与えるのである。

とここまで理解すると、話はわかりやすくなる。タンゴのリズムは基本的に「強弱、強弱」というアクセントを刻むが、4拍目にアクセントを持ってきたい場合は、自然と「弱強、弱強」というアクセントになるものだ。だから、次のコーラスとのつなぎを担う4拍目にアクセントを持ってきたければ、それと対になる2拍目にアクセントを持ってくるとスッキリする。通常のタンゴのアクセントは1拍目と3拍目にアクセントが来るため、リズム的にはこの最後の小節のみがシンコペーションとなる形だ。ただ、ここだけ完全にシンコペーション的にしてしまうと不自然なので、いろいろと工夫が凝らされる。このパターンの代表的な楽団であるカルロス・ディサルリ楽団の場合は、楽曲全体に「強弱、強弱」というアクセントが存在しているが、これはあくまでもアクセントの位置であって、実際の音の長さという点から言えば、「短長、短長」となるため、見方を変えれば、2拍目と4拍目が長音のアクセントとなっていると言えなくもない。という延長線で、ディサルリ楽団の終止形は全く自然にこの形で終わることができる。モダンの楽団として知られるオラシオ・サルガンの楽団も、基本的にはこの流れを受け継いでいるといえるが、ただ、このサルガンのリズム解釈が、実はその後のモダンタンゴの終止形に意外に大きな影響を与えたんじゃないかと、僕は密かに思い始めてしまったのだ。

(さらに長いので、また続く・・)

開く トラックバック(1)

久々に思いついてしまったので、ちとマニアックなタンゴネタを。

タンゴという音楽を強烈に決定づける要素として、コーラス終わりに登場する「チャッ、チャ」というリズムがある。こうやって言葉で書くと伝わりづらいが、音を聞けば誰でもすぐにわかる、あのタンゴ特有の終止形だ。細かい話を言うと、譜面上は小節が始まってから「チャッ、チャッ、チャ」と三音続くので、実際には「チャッ、チャ」じゃなくて、一音多い「チャッ、チャッ、チャ」がひとかたまりなのだが、ここでは、そのうちの終わりの2音を取って、「チャッ、チャ」考とさせていただく。(あー、理屈っぽい)

演奏する人も、踊る人も、聴くだけの人も、この「チャッ、チャ」にはそれぞれの思い入れなりがあるんじゃないかと思うのだが、ここでは特に演奏する人にとっての「チャッ、チャ」を考えてみたい。実は、この「チャッ、チャ」、単純な二音(もっといえば、ドミナントコードの構成音)であるのだが、これがどうしてタンゴっぽい感じに結びついているのか。

およそ20世紀初頭くらいに生まれた音楽というのは、16小節をワンコーラスとしてとらえ、それをリピートしていくという構造を取っている。日本人がカラオケに行っても、なんとなくコーラス始まりと終わりがすぐに理解できるのは、この尺によるものだ。まれに例外もあるが、日本の歌謡曲やポップス、演歌に至るまで、だいたいこの16小節ワンコーラスの構成が保たれている。

このコーラスという概念はジャズでは基本だが、もちろんタンゴも例外ではない。構造的には基本的にジャズとタンゴは同じような音楽なのである。ジャズとの比較で言うと、ジャズはワンコーラスの終わりに何を持ってくるかは決まっていない。ソロをアドリブで回すというジャズの王道パターンでは、次の人にメロディをスムーズに渡すための終始的なフレーズでつなぐことが多いが、特に決まりはない。でもタンゴはほぼ必ずコーラス終わりはこの「チャッ、チャ」と決まっている。16小節に一度はこのリズム形が出てくるのだから、聴く人の耳に残るのは無理もない。こういうお決まりのフレーズでコーラスを終わる音楽というのは実はあまりない。思い浮かぶところでは、ヨハン・シュトラウスでおなじみウィンナーワルツの「ジャッ、ジャジャッ、ジャ」くらいじゃないか。しかも、タンゴの場合は、4拍子でも3拍子でも、この終止形は変わらないのだ。これはすごいことだ。

話は脱線するが、「タンゴの破壊者」といわれたアストル・ピアソラが、最初に壊したのがこの終止形である。ピアソラの作品はほとんどが、このタンゴの伝統的な終始パターンを使わない。このことを知っておくと、なぜピアソラが「タンゴの破壊者」と呼ばれたのかが理解できる。タンゴにとってなくてはならない(と思われていた)「チャッ、チャ」を辞めてしまったのだから、トラディショナルなタンゴファンからは相当バッシングされた。「こんなのはタンゴじゃない」と。

そのあたりの話は斎藤さんにお任せするとして、僕はこのトラディショナルな「チャッ、チャ」についてもう少し深く考察したいと思っている。と言うのも、僕はタンゴの演奏家であり、またリズムを統括するベーシストでもあるので、曲の頭と終わりにもっとも気を使う。曲の頭は、テンポを決める「カウント」、そして曲の終わりはこの「チャッ、チャ」である。大げさにいえば、この部分に命をかけているといってもいい。この2つがうまく決まらないと、その間どんなにいい演奏をしてもタンゴは締まらない。それくらい大事な存在だと思っている。逆を言えば、演奏が途中で崩れたとしても、最後の「チャッ、チャ」を上手く決めることで、何となく曲がうまく締まる。「終わりよければ全てよし」という言葉は、タンゴには実にうまく当てはまる言葉だと思っているくらいだ。

(長いので、次回に続く・・)

全1ページ

[1]


.

ブログバナー

CAMA72
CAMA72
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

TANGO

コントラバス

登録されていません

FRIENDS

登録されていません

My BLOG

登録されていません

未整理

Yahoo!からのお知らせ

検索 検索

過去の記事一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事