ニホンオオカミを探す会の井戸端会議

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ニホンオオカミ

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十文字峠の咆哮-1


浦和東ロータリークラブの事務局長と名乗る人から私に講演依頼があったのは、1998年2月のある朝でした。
京都在住の岡田氏が山に籠ってオオカミ探しをしている最中で、私自身も後方支援のエネルギーを費やしている中、どうしようか迷ったのですが話を聞いてみる事にしました。
ロータリークラブの例会がある毎週木曜日の昼、会員同士の交流を深めつつ、各方面から色々な人を招いて話を聞いているのだそうですが、「なぜニホンオオカミなのか?」と問いますと、浦和で獣医院を開業している事務局長の窪川氏は、半年前友人夫婦とで山登りをした際、それと思われる咆哮を聴いていて、非常に興味を持っているからとの事でした。
 
1997年6月の日曜日。
早朝5時に浦和市を出発した一行は、2.000メートルの峠に咲くツツジの写真を撮りに、快適な舗装道路上のドライブを3時間続けた後、落石に気を配りながら1時間以上悪路の林道を走り、ようやく9時過ぎ登山口の毛木平に辿り着きました。
近辺に知れ渡ったツツジの名所でシーズン真っ盛りの日曜日。
登山口から目的地の十文字峠まで2時間のハイキングと言う事で、広い年齢層の人達が押し寄せ、それ程広い駐車スペースを持たない登山口では、それを確保するのは容易なことで有りませんでした。
目的地の峠に予定通り着き、思うまま写真を撮ったり、山小屋で食事をしたりで時間を過ごし、午後2時頃登山口へ帰ればと言う感じで、のんびりのんびりの山歩きでした。

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十文字峠のツツジ

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十文字小屋の玄関

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現在の毛木平駐車場
 
秩父鉄道の終着駅である三峰口に山荘を持つ獣医は、雪の中から顔を出す節分草から始まり、厳冬期の滝の氷結まで四季折々の奥秩父を楽しんでおり、今回は長い交友を持つ初老の夫婦を交えてのツツジ見物でした。
老主人は何か注視しながら歩いているのか少し遅れがちでしたが、登った道を帰るだけで迷う事の無い一本道のこと。
奥さんと談笑しながら思い思いに足を進めて、残り半分と言う処に差し掛かった時でした。
 
登山口に向かって左手・千曲川の源流方向から突然獣の咆哮が、一声二声三声・・・・はっきり聞こえて来たと云います。
思わず立ち尽くしている二人の下へ遅れていた老主人がやって来たので、今起こったことを話すと何も聞こえなかったとの返事。
深い森の中の事で、少しの距離で有っても角度に依ってはあの咆哮が木々に吸収されてしまうのか、と、自らを納得させてはみたものの、記憶に記してしまった獣の鳴き声が獣医の脳裏から離れる事は有りませんでした。

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窪川獣医
(幻のニホンオオカミを追い続ける男より)

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千曲川源流域の鳥観図
 
それからも山荘をベースに、事有るごとに奥秩父の自然と親しむべく山に入るのですが、十文字峠からの帰路に聴いた獣の咆哮を再び聞く事は無かったのです。
そんな折、私達の活動を新聞記事で知り、ロータリークラブに招いて話を聞いてみたくなったとの事でしたが、獣医から再度電話が入ったのは、講演依頼の電話の数日後で、奥秩父山中の氷瀑撮影への誘いでした。
 
1998211日の建国記念日は、凍える寒さの中で夜が明けました。
国道299号の正丸峠を越え、車を大滝村に向けると氷の世界で、幾度もスリップをしながら、目的地大徐ヶ沢の登山口に着くことが出来たのですが、四駆車を運転する獣医の顔は引きつっていました。
しかし、引きつった顔は30分後には一転し、見事に氷結した不動滝の撮影に夢中になっていたのは云うまでも有りません。

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大徐ヶ沢に掛かる不動滝

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大徐不動尊

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かって存在した大徐ヶ集落跡(ⅹ

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不動滝周辺図
     1が咆哮を聴いた地点・
xⅡが咆哮を発したと思われる地点
 
氷瀑に興味を持たない私は周辺探索に時間をかけましたが、車に向かう帰りの山道、荒川本流に掛かる吊り橋を渡った私の背後から、突然サイレンが響いて来たのです。
前を歩く獣医に時間を問うと、「11時ちょうど」の声。
12時だったら兎も角、可笑しいな?と首を傾ける私でしたが、今歩いて来た滝近くの尾根筋から、「ウオーン」「ウオーン」と獣の咆哮が続いて来ました。
最初感じたサイレンの響きと「ウオーン」「ウオーン」の咆哮は一連の流れで、獣医と私は尾根筋を眺めているだけでした。
半年振りに獣医の耳に届いた咆哮は、私にとっては30年振りで、お互い2度目の咆哮体験となったのです。

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不動滝近くに在る栃本の関所跡
     最初、栃本集落のサイレンかと思った
 
奥秩父山中で調査を続けている私ですが、不動滝での咆哮体験はその後の方向性を決める事にもなりました。
大徐ヶ沢の源流は和名倉山(2.036m)のヒルメシ尾根上部ですが、そこでもオオカミ体験者が居たりで、情報収集をすればするほど核心の山域となったのです。
現在70台近くのカメラが山中で稼働していますが、一番長きにわたって調査を続けているのはこの山域で、得られた野生動物の映像は膨大な数に上っています。
 
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山中で見つけたイヌ科動物の足跡

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大徐ヶ沢に掛かる丸太橋

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標高1.830m地点の現場と旧式カメラ

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