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先日、京都の北山で友人と長〜い時間を過ごした。
彼女とは中学時代からの付き合いだから、お互いの人生をウン十年見てきたことになる。
私には付き合いが20年、30年という友人が多々いる。
このブログに登場している国内、海外の友人たち「出会った人々」も付き合いは大変長
い。
だから、ひろ子とも会った瞬間からお互いの近況、昔ばなし・・・と話は途切れる事はな
い。
キャラ「で、沙紀ちゃんの納骨を無事に済ませたのね。今の気持ちはどう?寂しい?」
ひろ子「う〜ん、それがね。人は『寂しいでしょ?』って言うけれど、私はホッとしたと
いう気持ちの方やねん。本当は去年の三回忌の時に納骨するつもりやったけど、私の身体
の調子がず〜と悪かったやろ。できんかったし・・・、で、やっとね。納骨したら沙紀も
天国で楽しくしてると思えるようになたんよ」
と言って紅茶に手を伸ばし、疲れた表情の口元が少し緩んだ。
そんな彼女を見ながら・・・ひろ子は自分の娘を自殺で亡くすと言う重い人生を背負っ
て、これからも生きていくんだなァ・・・という切ない思いがよぎった。
中学生で出会って、ずっとお互いの人生を見てきた。
その頃の話しになると私が忘れているような事でも、事細かに彼女は覚えていて、
「あの頃から、キャラはもう、将来、留学するって言ってたよ!」とか、今はもういない
私の両親の事を懐かしそうに「あの時、おばちゃんは・・・、おじちゃんは・・・」
とまるで昨日の事を言うように話す。
ひろ子の娘の沙紀ちゃんが、自分で命を断ったのは今から3年前の12月で、世の中は
師走で慌しい頃だった。
早朝、まだ外も暗いうちに電話のベルが鳴った。
・・・ハイ、キャラです。
・・・わたし
・・・あ〜、ひろ子・・・
・・・沙紀が死んだ。
・・・へっ?
・・・今、警察から戻ってきた所、とりあえず、キャラには知らせとくから・・・
・・・ひろ子、どうして?なんで?
・・・薬を大量に飲んでしもた。又、連絡するから・・・
と言って、電話は切れた。
私は呆然とした。
頭の中がグルグル回る。
とうとう、沙紀ちゃんは死んでしまった。まだ、21才なのに。
沙紀ちゃんは高校生の頃から、自分の状態に異変を感じていた。だが、ひろ子はそれを知
らなかった。
高校を卒業後、沙紀ちゃんは救命救急師になりたくてその専門学校に進んだ。
当時、沙紀ちゃんには社会人のボーイフレンドがいた。彼女にとっては、一番幸せな時
だった。が、それと平行して沙紀ちゃんの精神状態は不安定なものとなり、専門医の治
療を受ける事になった。
診断は鬱病だった。彼との交際が彼女の精神を大きく損なっていった。
彼は優しい人だった。社会人の彼は沙紀ちゃんには眩しいほどの存在だった。だが、彼は
彼女を裏切っていた。交際をはじめて半年経った頃、沙紀ちゃんは彼が同棲さえしている
本命の彼女がいることを知ってしまった。
本来ならば、ここで別れてしまえばいいのだが、沙紀ちゃんにはそれができなかった。
別れられない沙紀を見て、その男は彼女をナンバー2の存在として、週末の空いた時間だ
け「都合のいい女」として利用した。
沙紀ちゃんは毎日、思い悩んだ。自分は何も変わっていないのに隠れて会わなければなら
ない罪悪感。知らない時は楽しかったデートも時間がくれば、彼は同棲相手の所に帰って
行く。
その後の空しさに沙紀ちゃんの心は人一倍壊れやすいのに、更に打ちのめされていった。
とうとう学校にも通えなくなった。
そして、ある日、唐突に家の二階から飛び降りて自殺を図った。
その頃から、ひろ子は片時も娘から目を離せなくなり、夜も添い寝をし、昼も付きっ切り
になった。買い物に行く時も常に携帯電話を所持し、私と会った時なども、しょっちゅう
携帯をチェックしているような状態だった。
沙紀ちゃんは何度も何度もリストカットを繰り返し、その度に救急車で運ばれる日々が続
いた。
その当時は毎日のようにひろ子から電話がかかってきた。
ひろ子「昨日も沙紀が、『死ぬ・・・!!』と言って、家を飛び出したんよ」
キャラ「何かあったの?」
ひろ子「彼氏の彼女にバレたんよ。電話があってね、夜、彼女から。散々、罵倒されたあ
げく『この、どろぼう猫!!』って罵られたんよ。そして『責任を取れ!!』と言われ
て、沙紀は『責任をとって、もう、二度と会いません』と誓わされたんよね」
キャラ「う〜ん、で、彼はなんて言ってるの?」
ひろ子「それで、私が電話を変わったんだけど、その彼女も鬱病で、激情すると止めよう
がないって言うんよ。その電話をしている間中、彼女のわめき声や物を叩きつけて割る音
が聞こえていたんよね。で『僕は彼女を守ります。もう、沙紀には二度と会わないと誓い
ましたから!!』と言って電話を一方的に切られたんよ。」
キャラ「その男の彼女も鬱病だったなんて。だったら、沙紀ちゃんの精神状態がどうなる
かなんて、分ってるんじゃない。それで、沙紀ちゃんが別れられないのをいい事にずるず
ると二股かけてたなんて・・・、いや、二股じゃないわよ、ただ火遊びしてただけじゃな
い!!許せないわ。その男!!」
ひろ子「私もそこが悔しいんよ。鬱病に理解がある態度で、初めは、沙紀に近づいとい
て・・・」
私はひろ子から沙紀ちゃんのリストカットの話を聞くたびに、リストカットはむしろ、
生きる為にするんだということを知った。
死にたい、この状況から逃れたい、でも、死ねない。そんな葛藤の中から一瞬でも手首を
切ることで、その気持ちの高まりを収める事ができるのだと言う。
こんな絶望的な先の見えない日々が2〜3年続いた。その間にひろ子は沙紀ちゃんを説得
して、2度も入院させた。私も、色々しらべて有名な病院を紹介したこともある。
だが、沙紀ちゃんはその男のことを忘れる事ができなかった。気持ちを切り替える事の困
難さに尽くす手はなかった。
辛さが高じてしまった沙紀ちゃんはある日、ひろ子に黙って夕方から家を出た。仕事帰り
の彼を待ち伏せて、直接はっきりと別れを告げて欲しいと願った。
病気のせいで、恐怖心から電車にも乗れなくなっていた沙紀ちゃんが、遠くの彼の最寄駅
で彼を待った。
つづく
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