|
日曜日の午後、4年振りに我が塾の卒業生が顔を見せてくれた。
手には焼きたてのパンを下げ、綺麗な大人の女性になって私の前に立っている。
彼女は今、大手都市銀行で働いている。
「先生、これ今、焼いてきたんです。チーズパンです」と言いながら満面の笑みをほころ
ばせて、差し出す。
「わ〜、いい香り、祥子ちゃんが自分で焼いたの?」
「ハイ、そうです」
早速、お茶の準備をして、ケーキ、果物も加えて、二人でおしゃべり開始!!
「先生、私、来年の春、結婚します!!」
「え?結婚するの? うわ〜、おめでとう!!」
彼女から、ふふ・・・と幸せがこぼれる。
・・・あ〜、いいなぁ、この笑顔。
本当に心から信頼できる人と出会ったことが分る。
「で、結婚式に先生にも出ていただきたいんです。ただ、遠くて、東京なんですけど」
「東京?え、それは驚きだわ。お相手は東京の方なの?」
「ハイ」
「祥子ちゃん、あなた、高校生の頃、『関東の男は許せない。あんな東京弁をしゃべる男
なんて、絶対いや。男なら関西弁しゃべってほしいわ』って言ってたじゃない」
「えぇ?わたし、そんな事言ってました?」と言ってキャキャッと笑う。
「じゃ、東京の方とどうやって出会ったの?」
「フランスのニースで・・・」
彼女は大学の卒業旅行でイギリスに一人旅をした。
イギリス全土を一週間廻って、その後、フランス、イタリアとかなりの時間をかけて学生
最後の思い出を作ってきた。
彼女がその旅行から帰って来た直後には、みやげ話の中に彼の話は全く出てこなかった。
「そのニースで出会ったときは、お互い日本人だからということで、情報の交換をした
り、一緒に食事をしたりしたけど、別に意識する人ではなかったんです」と言う。
話を聞き進んでいくと、日本に帰ってきてから、交際が始まったのだそうだ。
「へ〜、ニースでねぇ」と、私。
何だか、運命的な出会いを感じる。
日本を遠く離れた異国の地で、お互い、一人旅。
特に彼女は、その晩泊まるホテルのバス乗り場がわからず、不安になっている所に日本人
の男の子を見かけた。
だから、声をかけたのは彼女の方からだそうだ。
そして、二人は偶然にもイタリアのミラノで再び出会う。
そうなれば、お互いの連絡先ぐらい交換するでしょうね。
「だから、私、先生に結婚式に出て欲しいんです」
「・・・?」
「だって、私、先生に英語を習っていなかったら、一人でヨーロッパに卒業旅行なんか、
行ってないですもん。彼に出会ったのは先生のお蔭です。日本では絶対に接点ない
し・・・」
それを聞いて私は心が熱くなり、目がうるんできた。
そんなふうに考えてくれるなんて!!
・・・やばい、やばい。涙がこぼれるぞ・・・と、思った私は、
「お茶が冷めたね。新しいのを煎れようね」と言ってキッチンに逃げた。
私たちのお茶の時間は4時間に及んだ。
彼女の帰る姿を見ながら・・・祥子ちゃんの人生を先生はこれからも、ず〜〜と見てるか
らね・・・と心の中でささやいた。
素敵なロングブーツに足を通して、軽やかに彼女は幸せの風を残して行った。
幸せな人を見てると、その幸せがこちらにも本当に伝わってくる。
結婚、おめでとう。祥子ちゃん!!
|