二年生になった時、○出が転任となり代わりに「I」がやって来た。
そして顧問であったW先生は定年退職し、このIがいきなり剣道部顧問となったのだ。
そしてIは小学校からの悪ガキ仲間であったSとMのクラス担任になった。
Iは背が低く浅黒く、○出程では無いが言葉使いもガラが悪い。
話をしている間ホイッスルを回して紐を右手の人差し指にグルグル撒きつけたり解いたりを繰り返す癖がある。
右足の親指の爪が膨れ上がっており、どうも水虫らしい。
このIは何かにつけて剣道部を目の敵にした。
と云うより正確にはSとM二人が目を付けられていたのだ。
放課後三人で帰ろうとすると向こうからIがやって来た。
「おうお前らもう帰るんか、ワレ早う帰ってちょっとでも勉強せなあかんぞ」
「やかましいわい、おっさんに(←SとM二人はIの事を「おっさん」と呼んでいた)云われんでも帰るわい」
(実はSとM,そして俺も学業は出来る方だった。
この日はたまたまSとMがテストで平均点程度の結果を出したので、Iはそれに絡んで嫌味を云っているのだ)
「何やその口の聞き方は教師に向かって!こらワレ、しばくぞ!」
「何じゃこらおっさんしばいてみい!」
咄嗟にIがSに平手打ちをした。
「何をすんねんこらおっさん、指導力無いので暴力に訴えやがって校長先生に云うたろか!」
「おう云うてみい、お前らみたいに教師に逆らうとどうなるのか教えたるわボケ!」
「もうええやんけこんなおっさん放っとこ放っとこ」
「そやな、帰ろ帰ろ」
「こら帰るんか、逃げるんか。根性無し。アホ〜〜〜〜」と怒鳴るIの声を背中に聞きながら俺達は帰った。
次の日の練習の時、Iが体育館の隣にある剣道部の部室の前に立っていた。
「この剣道部の部室は廃止する。今後お前らは他のクラブと一緒に空いている教室で着替えろ」
(実は他のクラブは校舎の裏にある横に長いバラックに部室が並んでいたのだが校舎を増築する際に部室が撤去され、
新しい部室が出来るまで空いている教室で着替えていたのだ)
「何でやねん、この部室は工事に関係無いやんけ!」
「いや、他のクラブから
『俺達はジプシーみたいに毎日空き部屋探して着替えてんのに、何で剣道部だけ部室を持ってるんや』とクレームが出ている」
「知るかそんなもん、
他のクラブと違うて剣道部は防具やら面やら竹刀やら備品が多いから持って移動する事が出来ひん、
そやから剣道部だけ体育館の近くに部室を持ってたんやないけ!」
「それを云うならバレー部かてネットやらポールやら毎日準備しとる」
「何でやねん、あれは体育館の倉庫に入れたあるやんけ!」
「兎も角今日から剣道部の部室は廃止や、入ってはならん。」
「あほか中にある防具はどうするんや、出さんと明日から練習出来ひんやんけ!」
「ほな今日中に出せ。そんで持って帰れ。明日から入室禁止や。判ったな。」
自分が剣道部の顧問の癖に・・・完全なる嫌がらせだった。
「あのアホに何とか一泡吹かせたい」 俺達は考えた。
「そや、入るの入るなやのボックスがあるからややこしいねや、
今日中に完全にボックスを無くしてしもうたら明日おっさん、ビックリしよるんちゃうやろか?」
「剣道部のボックス」と云えば聞こえは良いが、
実は体育館の横にあった男子トイレに壁を張っただけの物だった。
入った所の窓際に机が二つあり、反対側の壁には直径25センチ位の材木が部室の端から端まで貫いていて、
それに打ち込まれた多数の8寸釘に防具や小手を引っ掛けていた。
窓はあるものの床には小便器の名残の排泄穴が二つ開いているし、
その奥の更なる壁で仕切られた「備品置き場」には大便器がそのまま残っている。
工作室から鋸や金槌やペンチ等を持ち出し、放課後の校舎で我々は黙々と部室を解体した。
出た残骸は校庭の端にある焼却炉に運んで片っ端から燃やした。
暗くなると焼却炉からは天にも届けとばかり紅蓮の炎が立ち上がり、壮観だった(笑)
次の日、一時限目の授業中にIが俺の教室に駆け込んで来た。
「授業中すいません、中森、ちょっと来い!」
俺は教室を出てIの後を付いて行った。
校長室の前にはSとMが並んで待っていた。
Iは「お前らのやった事はしゃれにならん、俺は見放した。
もう校長先生には事態を説明し、ちゃんと現場も見て貰った。後はどんな処分があろうと校長の指示に従え」
と云った。
「中学に退学は無いよな」
「弁償ったって、もう使ってない便所の弁償なんて出来んもんな」
「少年院?まさか」
「親の呼び出しは仕方ないやろな」
俺達は小声で話し合った。
Iが校長室のドアをノックする。「どうぞ」の声。
俺達三人は校長室に入った。
そして校長の口から出て来たのは意外な言葉だった。
「『発つ鳥後を濁さず』と云うが、実際はなかなか出来るもんでは無い。
君達は諸般の事情で他のクラブが部室を失う事態を見て自ら部室を放棄し、
更にその部室を綺麗に解体し、更にゴミを全て焼却処分してしまうとは真に生徒達の規範となるべき事であり、
立派である。
これからもその心掛けを忘れない様に学業に専心しなさい。」
俺達は揃って「判りました!」と頭を下げた。
校長室を出るとIが立って、ほくそえんで待っていた。
「どや、どやった?」
「何がえ?」
「どんな処分やて云われた?」
「知るか、お前が校長先生に直接聞かんかえ。」
そう云ってる間に校長室から校長が顔を出し。「I先生、ちょっと。」と呼んだ。
Iは一瞬気を付け!の姿勢になり「ハイ!」と返事をして校長室に入って行った。
今度は俺達がIの出てくるのを待った。
暫しの後に出て来たIに今度は俺達が「どやった?」と聞いた。
Iは「お前らは恐ろしい奴らや」と一言云った(笑)