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この美しいホイールキャップは周囲のステンレス製ホイールキャップ本体とボディと同色に塗られ、更にラインが入った飾りリングの二分割式で、
更に飾りリングはボディに手書きされたラインと同色のラインが入るが、
これを塗ってくれる塗装屋さんが滅多に無い。
タイヤは本来はAVONが純正だが恐ろしく高く(一本10万円位)、
代替として良く使われたミシュランは既にホワイトラインの入ったタイヤの設定が無くなり、
更に当時の国産タイヤは2トンを超える重量を持つこの車では荷重に耐えられず、サイドウォールが割れてしまって使えなくなり、
オーナーが苦心して色々探して見つけて来たのがこの「HERCURES」なるタイヤ。
何と一本一万円以下!
アメリカ製なら大重量、大パワーのアメ車にも使うんだから剛性も高いだろうと半信半疑で取り付けたが、
装着後6年間何とも無い(笑)
ドアサッシの継ぎ目が無い事にご注目。
溶接後、隙間をロウ付けで埋めてからメッキしているのだ。
ボディのラインが如何にも手書きで、
さすがの熟練職人もラインの始まりと終わりの部分では筆の速度が落ちるのか、少し太くなってる。
何とない暖かさがあるよな〜。
パルテノン神殿の如き堂々たるグリルの上におわすは「Spirit of ecstasy」と呼ばれる精霊。
(「恍惚の魂」とでも約すのかな?)
一般的には「フライング・レディ」と呼んでいるが手が無く羽根が生えてる所をみると人間では無い。
今にも飛び立とうとしている。
薄く上質なロングドレスを着ておられる。
磨き過ぎた車のフライングレディは柔らかい純銀製の為に、顔がのっぺらぼうに近づいて行く(笑)
このフライングレディ、走っている間は視界の基準点になってとても見切りが良い。
そして何より、彼女が道を先導してくれるととても安心感がある。そして何故かワクワクする。
まるで未知の世界へと案内してくれるティンカー・ベルの様だ。
これがロールスロイスの世界だ。
車高は飽く迄、凛として気高い程に高い。
そして堂々とした気品が溢れる。
羽飾りの付いた帽子を被ったご夫人やシルクハットの紳士がそのまま乗れる車、これを「セダン」と呼ぶのだ。
存在感あるよな。
単に移動手段として車を選ぶならランニングコストを考えなければならない。
勿論、故障しない事も大切だ。
でもそれだけなんだろうか?
俺達が大好きで憧れ、夢に見た自動車ってそんな「下駄」でしか無かったのだろうか?
昔アメリカの「カー&ドライバー」誌が何キロだったか何年だったか、
何せ長距離テスト車にこのロールスロイス・シルバーシャドウを選んだ。
そしてアメリカでこの車が幾らで売られていたのか、
まあ当時日本では3千万円位だから30万ドル?位だろう、
何せ数年の間に修理代金が車両価格を上回り、
そかもその間、実際に運転出来た期間より修理工場に入っていた間の方が長かったらしい。
世界に誇る高級車、ロールスロイスの如何にスタンダードモデルたるシルバーシャドウでも、
「これは余りに酷いんじゃ無いか?」って事でテスト終了後にその結果を発表したと同時に、
カー&ドライバー誌はロールスロイス社に向けて公開質問状を掲載した。
すると翌月にはロールスロイス本社からの回答が掲載された。
「我がロールスロイスをお買い上げ、更には長期テストまでして頂いてありがとう御座います。
我々が作るロールスロイスはご存知の様に世界を代表する高級車です。
しかし乍ら整備代に膨大なコストが掛かったとお嘆きなら、我々は貴殿にメルセデスをお買いになられる事をお勧めします。
メルセデスは世界を代表する『実用車』です。
ロールスロイスは『高級車』なのです」
てな回答で、
これは当時の俺にはカルチャーショックで、目の鱗が落ちた気がしたもんだ。
そうなんだ、金が掛からない車が良い車って訳じゃ無い、
「自分が好きな車」これこそが世界最高の車なんだ。
フォーマルパーティに「丈夫だから」とGジャンとGパンで行く奴はいないだろう。
これはロールスロイス。とっておきの為にあるとっておきの車なんだ。
勿論安くで直す工夫をしながらも普段の足に使うのも自由。
何が好きでも良いんだ。
シルバーシャドウ。
唯単に移動する為だけの為に作られた、
しかし飛び切り濃密な空間を体験する事を万人にお勧めする。
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ロールスロイス シルバーシャドウ
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さて今度はリヤのドアだけどこちらは別にオーナーからのオーダーがあって、
「時々後部左ドアだけオートドアロックが動かない」と云う物。
注油したり調整したりで何度も直してるんだけど、何でかこいつだけ上手く動かない時があるんだよね。
後ドアパネルも要領は前ドアと同じだけど、こっちの方が面倒。
このアームレスト取り付けネジが取れない・・・。
○をしたこの辺りに11/32と思しきナットで止まっているのを下側から外すんだけど、
スパナでなきゃ入らないしそんなサイズのスパナ無いので、
遊びは覚悟で9ミリのスパナでコチコチ回していくしか無い。
やっと外れた・・・。
この丹念にレザーを張り詰めた、頑丈な内側パネル。
ベースは6ミリ以上はある合板。
なんと灰皿を抜いた裏の金属トレーまでコノリーレザー。
職人が車に合わせて作ってるもんで、チョークで固有のナンバーが書いてある。ええ仕事やね。
レギュレーターを注油しといて、後は問題のドアロックアクチュエーターモーター。
何とも無いんだよな。取り敢えず注油してもっかい調整し直してみるか。
(完成二ヵ月後の現在まで完調)
運転席ペダル廻り。
一番左のペダル式サイドブレーキはワンウェイ式でガチャガチャ作動音がするラチェットが無く、
任意の位置で完全に固定出来る優れ物。
その上のメッキのハンドルがサイドブレーキのリリースレバー。
ブレーキペダルの「RR」のロゴが何とも誇らしげに見えるのは俺だけか?
カーペットの上に敷かれたマットは羊の皮そのままをしっかり縫製したムートン。
車検の為にディマースイッチの識別ステッカーが貼られているが、ディマースイッチはブレーキペダルの隣の小さい方のボタン。
その左の大きなボタンは高速道路用の大音量エアホーンのペダルで、
実際良く間違えて顰蹙を買うが何よりドライバーがびっくりする(笑)
コンソールボックスには当時カーステレオの主流だった8トラックテープが収まる様に溝が切られている。
当然全部コノリーレザー張り。
ステンレス製の灰皿の後のスイッチはドアミラーでは無くパワーシートの為の物。
圧巻はこの一枚物の天井。そして各ピラーの仕上げ。
なんちゅう美しさだ。
(ご存知の方も多いと思うが、
因みにコノリーレザーってのはイギリス王室ご用達で、柵があると擦り傷で牛の革が傷むってんで柵のいらない「島」にこれまた角を矯めた牛を放牧し、
ロールスロイスが車を一台作る時に「完全に傷の無い革」を30頭分位取りに行く訳だが、
そんなコノリーレザーでも自動車に使える様な面積に渡って無傷な牛は10頭に1頭位らしく、
検品後一寸でも傷がある革はそのままフランスやイタリアのオートクチュールに売られる訳で、
要するにヴィトンもグッチも最高級とは云いながら実はロールスロイスのハギレを使ってんだよね)
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この車は継続検査の度にグリスアップと共にやっとかなきゃいけない事がある。
それは「ウィンドウレギュレーターの注油」。
この前後左右のウィンドウレギュレーターはパワーウィンドウなんだけど、
巨大で強力なモーターで駆動されるチェーンで動き、
その静かな事と上下の作動に速度差が殆ど無い事で知られている。
この静かさと強力さに対抗しようとメルセデスは600プルマンに油圧作動のパワーウィンドウを取り付けたりしたが、
信頼性と耐久性でロールスロイスには敵わない。
さて、レギュレーターに注油するにはドアの内張りを外さなきゃならない訳だが、
上質のコノリーレザーに覆われた内張りは手を付けるのも恐れ多い気がして、毎度緊張する。
良く見ると組み木細工みたいな精緻なローズウッドとピンと張り詰めたレザーの何処から手を付けたら良いかと云えば、
取り敢えずスイッチ類を外して行く事から始める。
各スイッチは美しいメッキの目隠しパネルに因って取り付けネジが隠されている。
これはリモートドアロックウスイッチ。外せばほら、英国車お得意のマイナスネジが見える。
パワーウィンドウにはH型のしっかりした物が付いている。
ドアハンドルも同じ要領。
ほらね。
上下左右に調整出来るアームレストは
フックを起こして持ち上げれば簡単に外れる。
後は金属製のクリップを丁寧に外して行けばパネル全体が取れる。
この防水のビニール、丈夫な上にブチルで貼り付けてあって何度も再使用出来る。
これがパワーウィンドウモーター。デカイでしょ?
窓の一番上部分に定滑車が取り付けられていて、右側のガラス取り付け部分をつるべ井戸みたいに巻き上げる。
更にはガラスと反対側にガラスと同じ重量のウエイトを取り付け、上下作動時のい速度差を打ち消している。
このウィンドウの泣き所は、あまり使わないとチェーンの定滑車部分がUの字の形に固着してしまう。
それで定期的にチェーンを動かし、又潤滑させてやらなければならない。
スプレー式のチェーングリスを拭きかけながら何度も上下動を繰り返して、はい完了!
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ウィンドウウォッシャータンクに穴が空いたので、仕方無く昔ニッサンのトラック用として売られていた「カンガルー式」ウォッシャータンクを付けた。
ウォッシャーモーターと一体型になっており何にでも流用出来て、当時重宝した。
正に「カンガルー」と書かれたロゴが今となっては時代を感じさせる。
誤って写真を削除してしまった(まあコールタールが塗られているのでちゃんとは見えないが)が、
この車に装備されるミッションは当時世界最強の耐久性を誇ったGM製「ハイドラマティック」3速オートマチックミッション。
GM車以外にロールスロイス、ジャガー等の大排気量車に広く使われた。
ロールスロイス特有の「指一本で操作出来る、羽の様なシフトタッチ」はミッション後部に取り付けられた、電気式アクチュエーターに因る物。
ロールスロイスに乗るといつも考えてしまうのが「理想の動力伝達装置ってなんなんだろう?」と云う事。
伝達効率だけを云うならCVTはマニュアルミッションに勝る。
しかし構造的にクリープが無い為、伝達効率を無視してトルクコンバーターをわざわざ取り付けたり、こんなのは「邪道」もいいとこで、
方や「無段変速が理想」とは云いながら6段、7段ミッションの車が持てはやされたりする。
このGM製ハイドラマティックは何度かオーバーホールした事がある。
構成は大容量トルクコンバーターと一組のプラネタリギアセットとたった一本のブレーキバンド。
しかしクリアランスをきちんと整備すれば正に「目から鱗」のシフトを体験させてくれる。
オートマチックミッションがシフトアップする際には先ず下位の段が抜けてその後上位の段に入る訳で、
そこには若干の空走時間がある。
これが過小だと「変速ショック」となり、過大だと「滑り」現象となる。
しかしこのハイドラマティックにはその「空走時間」が無い、いや少なくとも「ドライバーは感じない」のだ。
有り得ない事かも知れないが、
「先に上位の段にゆるやかに変速して、動力が伝わった後に下位の段が静かに外れていく」と云う様な、
車と云うよりクルーザーにでも乗っている様な加速、ああ伝わらないだろうな・・・。
シンプルでありながら高次元での満足を与えてくれる、オートマチックミッションの一つの理想形だと俺は思う。
ヒューズボックスは室内、助手席足元にある。
この豪奢なローズウッドのダッシュボード下部、
これまた上等のコノリーレザーで覆われたパネルのクイックファスナーを外すと
整然と整理された親切なヒューズボックスが見える。
(コーニッシュや後期モデルではファスナーの代わりに、助手席ドアを開いた所にワンプッシュのボタンが付いており、
且つヒューズは一般のブレードヒューズに変わっている)
中央に二つある黒いリレーボックスの上に付いた小さな赤いボタンはサーキットブレーカーの復帰ボタン)
それぞれのヒューズに黒いプラスチック製のアダプターが付いてて抜き取る際に非常に便利。
普通のガラス管ヒューズみたいだが、幾つか異様に短いヒューズがあるでしょ?
初めてこのヒューズが切れてディーラーに頼んだ所、「輸入していない」との返事。
「ヒューズが国内に無いってどう云う事なんだ?切れたらどうすんの」と訊いたら、
「普通のガラス管ヒューズのガラス部分を割って、折り曲げて使って下さい」との返事。
それで中身のブレードをZ型に折り込んで使っている(笑)
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ステアリングギアボックスは当時大型乗用車では珍しかった巨大なラック&ピニオン式。
操作力は驚くほど軽く、そして大きなボディサイズの割にはクイックだ。
既にオイル漏れを何度も経験しており、その都度近所の元ディーラーに持ち込んでオーバーホールして貰う。
オイルシールでは無く分厚いフェルトを詰め込んでオイルの流出をを食い止めるので、オーバーホール直後はステアリングが重くなる。
そしてこの構造はオイルに因ってフェルトが膨張する事を見込んだ上でのシール効果を期待する為、完全にオイル漏れを止める事は出来ず、
ギアボックスが馴染んで柔らかくなる頃には又オイル漏れが始まる。
ボディ下部分は全面に分厚いコールタールが塗られて腐食を防いでいる。
これは世界的な自動車排ガス規制に対処する為。
又、世界的な自動車安全基準を満たす為に、
外観上はシャドウⅠにはコーニッシュと同様の立派なオーバーライダーが付くが、シャドウⅡは衝撃吸収バンパーとなる。
シャドウⅠのキャブレターはSUだが斜めに向かい合うのに対して、
シャドウⅡではインレットマニフォールドとほぼ並行になる。
そしてカリフォルニア規制に準じた日本の所謂「58年規制」の基準を満たす為の排気ガス再循環装置(EGR)その他色々な付加装置が付いている。
V8だからインレットマニフォールドは交差していて、左右のキャブレターは向かい側のバンクの燃料供給を受け持つ。
白く○をした所が左右を繋ぐリンク上にあるスロットルアジャストスクリューで、
一旦左右の同調をきちんと調整しておけばこのネジ一本でアイドリング回転数の調整が出来る。
見え難いが燃料の調整は左右キャブレターのフロートチャンバー下にあるアジャストスクリューで、フロートレベルを変動させる事で行う。
エンジンルーム内部に張り巡らされた各ホース類はロールスロイス専用部品であり、
値段は高いが素晴らしい耐久性を誇る。
ワンタッチで開くアルミ製の立派なオイルフィラーキャップの作りこみが何とも感動的(笑)
手前にある白いカバーの付いた物がワイパーモーター、右端にはファンファーレ用のコンプレッサー。
オートマチックミッションのレベルゲージが見える。
そして何と、ヒーターブロアモーターからヒーターケースへ向かう太いダクトも本革張り!
この車はオーナーの永遠の愛に応える事を目指しているのだろう。
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