carmencのライオンズに恋をした!

試合実況&綴るライオンズ愛… 料理&音楽&たまにエッセー

小説 仮題「ノン」

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仮題 ”ノン” NO.9


台所に立つ神田を望美は眺めていた。高校時代、神田への思いを断ち切るのに、結構長くて辛い時間を要した。昨日から、その神田と一緒に過ごして、今、目の前で、しかも裸で料理しているなんて、信じられない。どんな展開になるかさえ望美にも神田にだって分かっていない。でもそれは永遠につづくようにも思えるし、ふわっと柔らかな布のようなものに包まれているかのような空間で自由に漂い、幸せだった。神田と再会してまだ間もないのに、これが恋愛の不思議な魔力かもしれない。こうして二人が濃密な時間を過ごしているなんて誰が予想出来ただろう。
神田が振り向いて言った。
「ねえ、冷蔵庫あけていい?」
「いいよ」
「何かある?」
「卵が3個くらい残っているけど、それと野菜がなんかあったんじゃないかなあ?」とベッドから出ようとすると
「いいよ。ノンはベッドで待っていて。オレに任せなさい」
と胸に手をやった。
「あ、卵あった。何かあるぞ。ベーコン?チーズも。いいね、よし、見えて来たぞ。三つ葉なんてのもあるよ」
楽し気に神田が振り返って親指を立てて言った。
「ちょっとお楽しみにね」
こんな仕草も、言い方も神田だ。田舎の高校で周りの男子生徒の中でも、どこかあか抜けて言動がスマートだった。神田は目立っていた。
流しの下からフライパンを出したり菜箸を出したりの作業がリズム良く手早い。
「ねええ、ヒデ〜 ヒデ、素敵だよ。慣れてる感じが…よく作るの?」
「うん、たまにね。俺んちさあ、商売やってたから、親は二人とも忙しいでしょ。それ待ってたら夕飯が食べれないのよ。兄貴は受験や部活とかで、それ程やらなくってさ。彼はそんなに好きじゃなかったんだろうな。だから料理は結構、俺がやる事が多かったんだ。まあ、嫌いじゃなかったけどね」
「そうなんだ。神田だって部活2つも入っていて、その上、生徒会もしていたし、忙しいのに」
家族の料理までしていたなんて考えもしないことだった。
「合格ね」
「え?」
神田には聞こえてないようだ。望美はそのままに言葉を続けた。
「裸で大丈夫?油がはねちゃわない?エプロンする?」
「そっか〜そうだね、エプロンした方がいいなあ」
冷蔵庫の横の籠の中から取り出して身につけながら
「ちょっとおかしいな。裸にエプロン姿って、卑猥。どう?」
「アハハハ〜卑猥って言うより可笑しいよ〜〜」と笑い転げる望美を見て嬉しそうに満足げな顔をして料理を始めた。
カチャカチャ音がして、バターのいい匂いがして来た。自分でしてる時の音と全く違う音、母親の料理の音とも違う音だ。なんて幸せな音なんだろう。
「出来た〜〜よし、バッチリ!お盆とかある?」
「あるけど、トレイしかない」
「その方がらしいんじゃないの。丁度いいよ」
「滑るから気をつけて」
「OK」
そおっと運び、ベッドにいる望美の前に出したトレイには、三つ葉入りのオムレツとベーコンとチーズとほうれん草を炒めたものが彩り良く載っていた。
「トースト、一緒に載せられないから後で焼くよ。これからやっつけよう」
「おいしそう〜〜」
「美味しいと思うよ」と言いベッドに滑り込んだ神田の身体が冷えきっていた。
「ヒデ、冷たい〜〜風邪ひいちゃわない?何か着て食べよ」
「そりゃないよ〜あとちょっとだよ。あのシーンをやるんでしょ」
「そうね。頑張ったんだもんね。今更ね。じゃあ食べよ」
美味しい。三つ葉の香が口の中に卵の甘さと共に広がった。
「ヒデ、おいしいよ。これ、オムレツおいしい。中がトロッとして」
「うん、良かった。ウマい?俺結構いけるだろう?」
「うん、三つ葉の香りがいいね。ヒデ、プロ級ね。お店やれるんじゃない?」
「これ、チーズがとけてるのがいい。カリッとして、ベーコンも」
望美が感心して、そう言うと嬉しそうに自慢げな顔をして望美に顔を向けて口を突き出して言った。
「ご褒美」
神田が目をつむる。望美が軽くキスをすると満足げな顔をして
「ノン、好きだよ」
そう言ってベッドを出て台所に戻り、トーストを焼き始めた。
「いよいよで〜す」
香ばいパンの焼ける匂いが部屋に広がった。
「ちょっとドキドキ」
「うん、あの世界だ」
香ばしいいい匂いだ。トーストをサクッとかじるとパン屑が裸の肌にこぼれた。これが憧れの三島の作品の大人のシーンだ。細かいパン屑がポロポロとお腹のおへその辺りに集中している。あまり気持ちが良いものではないが、これこそがあの作品の印象に残る最もドキドキした卑猥さを感じるシーンなのだ。カーテンの隙間から差し込む太陽の光で肌の産毛が輝いている。
「ねええ〜ほら、光ってる…」と神田の腹部を指した。
一見望美は痩せて見えたが、イタリアの裸婦みたいと友人にからかわれていた。くびれたウエストの下の腰回りの程よい肉付きで、長い足のせいもあり日本人離れした体型だった。
神田がパン屑を祓おうとして望美の肌に触れると望美の白い肌がピクッと震えた。
「ノンの身体美しいよ。絵に書きたいよ」
神田の素直な言葉は打ち寄せる波のように望美の身体を少しずつ濡らして行く。
「ノン、好き」
「うん」
神田の白く長い骨張った指がやさしく愛おしそうに望美の髪を撫でた。二人の唇が重なった。それは長く、段々激し差を増しながら長く続いた。二人の足が絡み合う。望美の白い柔らかな肌に神田の唇が触れて、二人はベッドの上に倒れて重なった。憧れの同級生の神田に対して少し恥ずかしさや遠慮があった。だが既にためらいは消えて弛緩して行った。心身共に解放する喜びを自覚しながら望美は神田に全てを預けて信頼していった。互いに全てを知りたいという欲求を受け入れることが愛することのように、神田は望美の、望美は神田の身体を愛した。自然な流れにすべてを委ねて時が経つのも忘れて深く交わり、望美のハスキーな喘ぎ声が神田を更に高揚させて二人はほぼ同時に満足感に達した。
しばらくそのまま抱き合っていた。
「俺、幸せだなあ。ノン、好き、愛してる」
「うん?私も」
「今日、こうしていたい。1日中こうしていよう」
「うん」
望美は神田の身体にすっぽり包まれて寝息を立てた。その寝息を聞きながら信頼されている充実感を味わいながら、いとおしい思いで望美を抱いて神田も眠りについた。






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