楽譜de散歩〜CARSメンバーだより

CARSメンバーの日ごろの雑感をリレー形式で紹介します

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宮沢賢治をめぐって

 宮沢賢治(1896年8月27日 - 1933年9月21日)の広大な心的宇宙に触れたくなって再び花巻の地に降り立ったのは、昨年(2018年)の夏だった。
賢治生前に刊行された『春と修羅』第一集は、愛してやまない妹とし子との死別を描いた心揺さぶられる「永訣の朝」を中心に据えて編まれた詩集だ。1922年11月27日とし子の死から2年後の1924年4月20日自費出版されている。
 とし子の生と死の不条理を極限状態で見つめた賢治の冷たく乱れた心情、今ここにあるようにひたひたと温かい慈しみをもって伝わってくる。イーハートブ宮沢賢治記念館の売店で、「永訣の朝」の複製原稿を買い求め、賢治の筆圧の中に秘められた熱を感じながら様々に思いを巡らせた。


永訣の朝

けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
  (あめゆぢゆとてちてけんじや)
うすあかくいつそう陰惨な雲から
みぞれはぴちよぴちよふつてくる
  (あめゆぢゆとてちてけんじや)
悗よ鷓擇里發笋Δ里弔い
これらふたつのかけた陶椀に
おまえがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつたてつぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
  (あめゆぢゆとてちてけんじや)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはぴちよぴちよ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまえはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
  (あめゆぢゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあえぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
                 (以下略)


 館内を静かに流れる「星めぐりの歌」の旋律。童話「双子の星」の中に書かれた一編の詩作品であるが、病床に伏していたとし子も読んでいたのだろうし、その詩に賢治自ら曲をつけて聴かせたのだろう。その後、「双子の星」の劇中で絶えず繰り返し歌われ、「銀河鉄道の夜」の中でも流れる名曲となった。何年か前、高倉健、田中裕子主演映画『あなたへ』のテーマソングにも使われていた。亡くなった妻の面影を星をめぐるように辿る旅の物語とピッタリの選曲だったように思う。


星めぐりの歌

あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の  つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした  ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。


 双子の星チュンセとポウセは、賢治ととし子そのものであっただろう。賢治ととし子は、今でもそしていつまでも仲良く「星めぐり」をしているのだろうと、いつしか心の中で微笑みながら、柳田国男の描いた民話の里、「遠野」へ向けて足を運んだ。
 2018年は、童謡誕生100年であった。年が改まり、平成の時代が終わろうとしている。時代が変わって人が変わっても変わらないもの、そんな価値あるものを求めて今年も歩み続けていきたいと思うこの頃である。

2019.4.3
  織江 りょう (童謡詩人・日本童謡協会常任理事・CARS幹事)
CARS(楽譜コピー問題協議会)のホームページ http://www.cars-music-copyright.jp/

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