楽譜de散歩〜CARSメンバーだより

CARSメンバーの日ごろの雑感をリレー形式で紹介します

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左手のためのピアノ曲

 左手のためのピアノ曲は、知られているだけでも三千曲以上あるそうです。有名なのは、ラヴェルが、第一次世界大戦で負傷し、右手を失ったピアニストであるウィトゲンシュタインのために作曲した「左手のためのピアノ協奏曲」やブラームスが、右手を故障したクララ・シューマンのためにバッハの曲を編曲した「左手のためのシャコンヌ」でしょうか。いずれの曲も、制約された中での限界に挑戦した意欲的な作品となっています。
 
 日本では、2002年にリサイタル中の脳溢血で右半身不随となったピアニスト、舘野泉さんが左手のピアニストとして活躍されており、舘野さんのために国内外の著名な作家が多くの作品を作曲しています。舘野さんは「演奏によって何を伝えるか、何を表現するかが最も重要」であると言っていますが、舘野さんの左手が奏でる音楽を聴くと、その意味をよく理解できるように思います。
 
 日本の現代音楽の大家であり、昨年8月20日に逝去された、作曲家の末吉保雄先生も大学の同窓である舘野さんのために左手のためのピアノ曲を作曲されています。「土の歌・風の声」もそのうちの一曲です。この曲を聴くと、「左手の」という制約や限界という言葉は早々に退散してしまい、一音として無駄がない、張り詰めた、末吉先生の世界観に連れて行かれます。
 
 末吉先生は、 CARSの設立当初から幹事を務められており、2017年からは代表幹事としてご活躍なさっていました。生前の先生は、楽譜への強い愛情を持ち、CARSの活動を通じて「適正な楽譜コピー」を呼びかけられ、それと同時に、作家側に対しても、「著作権の擁護」と「自作の普及」のいずれも両立することの大切さをストレートに訴えてこられました。
CARSの活動についても、予算など様々な制約はありますが、楽譜の適正な利用と著作権の保護を図ることで、音楽文化を普及、発展させるという、CARSの設立目的をストレートに追求していかなければならないと思います。

 末吉先生には、ご生前、公私ともに大変にお世話になりました。会合の席上でも様々なご指導をいただき、時には、お酒を酌み交わしながら、音楽に関する議論に何時間もお付き合いいただきました。感謝の念に堪えません。我々は、先生から授かったものをしっかりと携えて今後の活動に臨みたいと思います。

※舘野泉さんの言葉は、舘野泉のCD「その左手のために−左手のためのピアノ作品集3−」のライナーノーツより


2019.5.31
江見浩一(CARS幹事)

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