The House of Nomad

暫くお休みしていましたが、始動しました!宜しく

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この映画を1週間前に観たのですが、自分の感情と理性がうまく整理できず、
なかなかレビューが書けませんでした。
これはストーリーだけを追えば、とても、シンプルなラブ・ストーリーなのですが、
あまりにも複雑な感情がその中に潜んでいて、
それをどう扱っていいかわかりませんでした。
原作も読みました。
映画とは若干違いもありますが、この映画化は原作の良さを壊していません。
アカデミー賞の結果など、いろいろありましたが、自分なりに整理してレビューを書きます。
(ややネタバレあり)

ゲイを扱った映画はいくつか観ていますが、この映画は、ちょっと違うのです。
たとえばトム・ハンクスがアカデミー主演男優賞を獲った
「フィラデルフィア」は都会で生きるお洒落でリッチな、いまどきのゲイの男が
エイズにかかることによって世間から差別される・・というストーリー。
描いているのは、そのストーリーそのものというよりは、
ゲイにも権利はある。
ゲイであることを世の中に認めて欲しい。
と主張している映画でありました。

「ブロークバック・マウンテン」はゲイであることを賛美したり、
権利を認めろと主張はしません。
他の恋愛映画と一緒なのです。
ただ違うのは、主人公である恋人達が、たまたま男同士だったということです。

卓越したアン・リー監督の手腕と、繊細でパワフルな、
息を飲むようなヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールの演技によって、
静かだけど、圧倒的なパワーで、「ブロークバック・マウンテン」は
観客を、壮大で美しい自然と,
逃げ場のない、複雑で、
切ない叙情的なラブ・ストーリーの中に、どんどん引き込んでいきます。

とても台詞の少ない映画です。
演技からの心理描写が多く、この映画がアメリカでうけたことはちょっと驚きです。
一つ一つの動作、目線、表情が、丁寧に撮られるカメラによって淡々と映し出されていきます。

「何年もずっとそこにいて、語られる事を待っていたストーリー」

ピリッツアー賞受賞作家アニー・プルーの1997年に「ニューヨーカー」に掲載された
わずか31ページの短編小説を読んで感動した脚本家ラリー・マクマートリーと
ダイアナ・オサナが作家アニーから映画化の権利を得て、2時間14分の脚本にふくらませました。
けれどもデリケートで微妙な性格をもったこのプロジェクトは
映画化されるまで8年もの月日が必要でした。

アン・リー監督の出現と、誰もがしりごみするような役に挑んだ俳優達。
これほどの監督と配役がいなかったら、こんなに素晴らしい映画にはならなかったでしょう。

アン・リー監督によってイニスとジャックの物語は、きれいに整えられて語られていきます。
人里離れた西部の広大な、あまりにも美しい景色、押しよせる孤独感、
そこから逃げることのできないことへのあきらめ。
おそらく普通の監督なら、恐ろしくて、この映画をここまで美しいラブ・ストーリーに
仕上げることは難しかったかもしれません。

アメリカといえば、西部劇、カウボーイはアメリカを代表する男らしさの象徴・・と
連想していた古き良き時代の西部。
1963年のワイオミングの田舎の牧場地域で、二人の19歳のカウボーイ、
自分の牧場を持ちたいイニスとロディオ好きなジャックが出会います。

美しいブロークバック・マウンテンで野営をしながら
羊の移動牧畜の仕事をする間に芽生えた親密な関係は、やがて一線を越えます。

作家プルーの言葉を借りれば、
イニス・デルマー(ヒース・レジャー)とジャック・ツィスト(ジェイク・ギレンホール)は
「二人とも貧しい牧場で育ち。貧しさで高校を中退。
ふるまいの荒っぽい、言葉の荒い、貧しい暮らしに慣れていた。
イニスは両親を事故で亡くし、兄と姉に育てられる。」

あきらかにゲイのライフ・スタイルには激しい抵抗感を持ち、
ホモセクシュアルと呼ばれることを嫌っていた典型的な西部のカウボーイだったのです。

壮大な自然の中で、惹かれあう二人には何が起こっているのかわからず、
結ばれる二人の性行為は生々しく、率直で、なんの弁解もなく行なわれます。
二人にとってまったく知らなかった形態の絆。
同性愛同士の関係というのではなく、強い感情に突き動かされた絆。
その絆に、彼らは当惑し、混乱し、途方に暮れます。
それが何か説明できない、コントロールできないものなのです。

一線を越えた行為の後、イニスは言います。
「俺はホモじゃない!」ジャックはすぐに「俺もそうだ。一回きりだ。他人には関係ない。」と。
しかし、その後、二人は自らが生み出した障壁と闘い続けることになるのです。

二人は山から下りて、堕天使のように下界へ戻ってきます。
それぞれの日常の世界へ帰ります。
イニスは婚約者アロマと結婚し女の子をもうけ、
ジャックはロディオ大会で出会った金持ちの娘ラニーンと結婚し男の子をもうけます。
ブロークバック・マウンテンは終わったと彼らは考えます。
しかし実際は、終わっていなかったのです。

イニスとジャックは、思いがけずに出会ってしまった人生最大の恋愛を、
苦しみながらも認めざるを得ないことに気づきます。
そして彼らの家族も同様に、苦しみへとまきこんでいきます。

お金持ちの娘と結婚したけれど、居心地の悪い家庭になんとかしがみついて、
裕福な暮らしをおくるジャックと対照的に、
牧場の荒廃が進むなか・・不器用なカウボーイのイニスは裕福な人生を歩みません。
牧場の荒廃・・出稼ぎ労働者のような日雇い牧場従事者。
イニスは、文句も言わず、日々の生活に追われ、ワイオミングから逃げ出すこともできず、
黙々と牧場を転々として働きます。

やがて家庭も崩壊し、ジャックともなかなか会えなくなります。
孤独な情熱は、やがて彼ら自身を追い込み、一緒にいようが、離れていようが、
イニスとジャックは迷子になり途方に暮れるのです。
そして自らの力の及ばない人生を選択していきます。

ウィリアムズ演じるアロマの苦しみの告白・・
主人公の二人と同様に、まわりの家族もまた、苦しんでいたのです。

ジャックの父親が最後は、ジャックを家族として認めてくれたところ・・
ジャックの両親は、ジャックのゲイを知っていながら、
愛していてくれたのだと思いました。

イニスの苦しみを、少しでも癒してくれたのは、娘だったかもしれません。
映画の最後の娘との会話のシーンは、この映画の中で唯一心が救われた思いがしました。

最後のシーン:
イニス住んでるトレーラーのクローゼットの内側に掛かってるシャツと
ジャックが最初に送ってくれたブロークバック・マウンテンのポスト・カード・・

ブロークバック・マウンテン以外に、世界のどこにも、彼らの居場所はなかったのです。

イニスとジャックは、私の心の中に残りつづけることでしょう。

ジェイク・ギレンホールの魅力的で無鉄砲で、イキイキとしたジャック。
ミッシェル・ウィリアムズの悲しみをたたえて苦しみに耐えるアロマの姿。
プリンセスなイメージを一掃するアン・ハサウェイのクールなラリーン。
皆、素晴らしい演技ですが、
なんといってもヒース・レジャーのイニスは凄い。

粗野だけど繊細で、無口で、不器用な内にこもった西部の男。
うつむき加減の哀しさをたたえた横顔。
日本でいえば、まるで高倉健さんのような・・。

自分の中の抑圧された感情に抵抗するかのように、時として荒々しく感情を爆発させるイニス。
あまりにも不器用な生き方に・・見ていて痛々しい・・
もっと打算的に生きれば、楽になれるのに・・
イニスの苦痛、自分の心をコントロールできずにほとばしる激情、強い熱望と喪失感。
ヒース・レジャーは本物の俳優です。
誰の心にも忘れることのできないイニスを、ヒースは生み出したのです。

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はじめまして。とっても素敵な記事ですね。リズム感があって一気に読みました。 ヒースの感情を押し殺した表現と、時折見せる激情の演技はスゴかった! でも期待しすぎていたせいか、今ひとつ感動できませんでした。 こちらのレビューを読みながら思い起こしているうちに、映画の評価が上がったような・・・ 削除

2006/3/27(月) 午後 3:41 [ アイリス ] 返信する

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アイリスさん、コメントありがとうございます。私も最初に原作読んで、期待しすぎで映画館に行ったので、最初は複雑な気持ちだったのですが、後からジワジワと来ましたよぉ;;;で読んでいただき評価が上がったのは嬉しいです!

2006/3/28(火) 午後 11:16 [ nomad ] 返信する

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ついに見ましたよ!いやあ、聞きしにたがわずすばらしい作品でした。原作もぜひ読みたいなと思っています。こちらの記事を再び読み返してうんうんと納得している次第です。大自然を舞台にした、人間の中の「自然」の抗い難い力について思いをはせています。それにしてもすごくせつなくなる作品でした。。。

2006/3/29(水) 午後 8:13 poeko 返信する

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ぼえこさん、ご覧になられたのですね!賛否両論のある映画ですが、ぼえこさんのツボに嵌まりましたか!大自然の中で、本能に突き動かされて起こった事、世界は自分達のもので、何一つ間違ったことなど何もにように思えた日々。他のどんな純愛物語より心が痛く、切なく、それとあの抗しがたい景色の美しさが、この映画に比類ない価値を与えているような気がします。

2006/3/30(木) 午後 0:53 [ nomad ] 返信する

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catpurrさんの想いがひしひしと伝わってくる熱いレビュー、素晴らしいです。(^^) 何の打算もない本当の純愛物語ですね。今原作を読んでいるのですが、あとからじわじわと来る作品です。TBありがとうございました♪

2006/4/1(土) 午前 7:56 choro 返信する

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Choroさん、こちらこそTBありがとうございました!原作お読みになってるんですね!じわじわきますよ〜〜;;アニー・プルーは女性だし、シナリオ書いた二人の一人のダイアナ・オサナは女性です。なんか女性が書くと、ゲイのストーリーってロマンチックになるのでしょうかね?

2006/4/3(月) 午後 3:08 [ nomad ] 返信する

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ブロークバック・マウンテン以外に、世界のどこにも、彼らの居場所はなかったのです。と云うフレーズ読んだら泣けてきました(T_T)。いえ本当に!私は正直この映画にはまいりました!(>_<)!!!泣きすぎでした(>_<)!!!あまりまとまっていない記事なのですがTBさせて下さいね!

2006/4/4(火) 午前 0:18 [ miskatonic_mgs_b ] 返信する

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きゃ!miskatonikさんが泣いたなんて予想できませんでした;;すみません!でも本当に泣けますよね・・。何でだろうか・・最初は、え??みたいな感覚が次第に泣けてくるんですよ。この映画。だから感覚に凄く訴えるんです!これは理性でいくら言っても、なかなか説明つかないんです。

2006/4/4(火) 午前 0:48 [ nomad ] 返信する

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やっと見てきました。主人はかなり否定的な見方でしたが、私はとても感動しました。性差の関係なく純粋な愛の形だという気がしましたが、私の中ではフィラデルフィアを見たときの衝撃と感動には及びませんでした。映画を見てからこの素晴らしい記事を読むと私が記事にすることは何もないような気になります。また気持ちの整理がついていないのですが、ちょっぴり英語の観点から書こうかと思ってます。いまさらですが、傑作ボタン押したくなりました。

2006/4/4(火) 午前 10:36 ann**in_*ei 返信する

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初めまして!こちらこそコメント&TBありがとうございました! 賛否両論あるようですが、男性女性関係なく人を愛することって美しくまた切ないものなのだなと改めて感じました。きっと男性同士っていう世間的には認められない関係だからこそこれほどまでに切なくなるんでしょうね。いい映画でした。原作を読みたくなりました。 削除

2006/4/4(火) 午前 10:45 [ ERi ] 返信する

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ANNEさん、フィラデルフィアには、はっきりとしたエイズという障害と黒人からゲイへの蔑視という複雑な要素がありましたね。こちらはもっとシンプルですが、もっと根深い心理、リアリティがあるような気がします。主人公二人のゲイに対する心の葛藤や、西部という保守的な地域で、地味で不器用で繊細なイニスの内面が、あまりに切ない。英語は原作を読むかぎり高等教育を受けてないので文法の誤りがあり、人物描写と話す英語の関係がある意味面白かったです。

2006/4/5(水) 午前 11:54 [ nomad ] 返信する

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ERiさん、TBとコメントありがとうございます。原作は本当に短編なんであっという間に読めますよ。でも淡々とした文体が、味のあるいい作品です。同性愛って歴史が深く、アレクサンダー大王もそうだったようですが、宗教観とある種の危機感から、封印されてきたことなのでしょうね。

2006/4/5(水) 午後 0:01 [ nomad ] 返信する

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原作も読んでみたんですけど、本よりすごくきれいに作られてましたね。でもそれでいてすごくリアルで。。切ない映画でしたが、どうしてもアルマに感情移入してしまってて複雑です。。

2006/4/12(水) 午後 11:34 [ チェブ ] 返信する

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Chebさん、じっくり考えてください。この映画には不思議なパワーがあると思います。私も映画を観た直後は動揺しました。でもこの世界に実際に性同一性障害で苦しむ人や異性を愛したくても愛せない人はいるのです。アルマと結婚すればイニスはブロークバック・マウンテンが忘れられるかもしれないと思ったのかも。でも忘れられなかったのです。アルマはすごく可哀想です。イニスを愛してたから、とても辛かったでしょう。でも当時のアメリカでは言えなかった・・。そんな複雑な映画なのです。

2006/4/15(土) 午前 0:45 [ nomad ] 返信する

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はじめまして。うん、うん、と頷きながら記事を読んでしまいました。自分では映画の一部分についてしか書けなかったので、catpurr03さんの文章でスッキリさせてもらっちゃいました。ありがとうございます!原作が出版されているようなので、必ず読む決意をしちゃいました。 削除

2006/5/1(月) 午前 9:05 [ MOW ] 返信する

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MOWさん、どういたしまして。スッキリされて良かったです!原作は短いので、すぐ読めますよ!何はともあれ不思議な魅力をもった映画です。観終わった後、後をひく映画で、いつまでも切ない余韻が残ります。

2006/5/2(火) 午後 2:16 [ nomad ] 返信する

結構意見が真っ二つに割れる内容ですよね。特に男性と女性で分かれる感じかな、と。映像は美しいし、創りも上手い。ただ、やはり男性目線で観ると、「ちょっと。。。」って感じは否めませんでしたかね〜。

2006/10/22(日) 午前 0:19 [ lig*tm*n*2002 ] 返信する

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wigwigさん、男性から観ると、やはり「ちょっと・・」なんでしょうね。先日DVDで再度観ましたが、最後のジャックの両親が出てくるあたりから、涙ボロボロでした^^;

2006/10/25(水) 午後 2:22 [ nomad ] 返信する

シーンのひとつひとつを思い出しながら読ませていただきました。自然と画面が目の前に広がったような感覚です。
ほんとにほんとに素晴らしい作品だったと、記事を拝見して改めて思いました。
また再見したくなりました^^
拙い記事ですが、こちらからもトラバさせてくださいね♪

2009/4/13(月) 午後 8:53 じゅり 返信する

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じゅりさん、TBありがとうございました!本当に重い作品で、なかなか観るには、気合が入りますが、ヒースが亡くなってしまってから、また観たのですが、やはり彼は、この作品でアカデミー賞をとってもらいたかったですね。

2009/4/20(月) 午後 11:01 [ nomad ] 返信する

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