アメリカ映画における英国人俳優の役は、悪役が多いのが通説です。
悪役の代表的存在である『羊たちの沈黙』のアンソニー・ホプキンス。
『ダイハード1』でスマートなドイツ系テロリストの演技で悪役として強烈な印象を残したアラン・リックマン。
『ダイハード3』でのジェレミー・アイアンズ。『レオン』のゲイリー・オールドマン。
『ダビンチ・コード』のポール・ベタニー。
『ロード・オブ・ザ・リング』のイアン・マッカラン。
『スター・ウォーズ』のクリストファー・リー。
ヘレン・ミレンは、「英国人俳優は悪役にキャスティングされることが多い。」と文句を言ったそうですが、最近ではこの傾向が変わってきていて、アメリカのTVドラマシリーズなどで、英国人俳優の需要が高まっているようです。
もともとのアメリカでの英国人俳優の活躍のパイオニアは、英国サリー州出身のケリー・グラントといえるでしょうが、(彼をずっとアメリカ人俳優と思っていた人は多いです。)
最近特にアメリカで無名の英国人俳優が、アメリカのドラマで有名になるパターンが多くなってきています。
まずは、ヒュー・ローリーは、近年のアメリカドラマの英国人俳優ブームの草分けで、
2004年(日本では2005年)から始まったFOX制作の人気医療ドラマ『HOUSE』では、独特のシニカルな英語が評判を呼んで一躍スターになりました。
ヒュー・ローリー演じる医者ハウスは、偏屈で怒りっぽい診断医ですが、日本でもアメリカ版ブラック・ジャックとして話題になっていました。
最近では、アメリカのボルティモアを舞台に、都会に渦巻くドラックや犯罪など社会的な暗部をリアルに描いた人気のドラマ『ザ・ワイヤー』で、中心的存在の刑事ジミー・マックノルティを演じるドミニク・ウエスト(『300』)が、賞賛されていますが、
どのくらいのアメリカ人視聴者が、彼がイギリスの由緒ある男子全寮制パブリックスクールのイートン校出身のバリバリの英国人であることを知っているでしょうか?
このドラマはクセのあるボルティモア訛りのアメリカ英語ですが、英国人俳優は、ドミニクの他にも参加していて、ストレンジャー・ベルを演じているアイドリス・エルバは、生粋のロンドンっ子です。
最近の英国人俳優は、そつなくアメリカ英語を喋って、アメリカのドラマに溶け込んでいるのです。
どういうわけか、アメリカ人視聴者は、昔のローマ人は英国英語を喋ったに違いないと決めつけているのか、HBOとBBC合作の『ローマ』では、出演者のほとんどが英国人とアイルランド人で占められていました。
古代ローマ系映画やドラマには英国人の活躍が多いのが特徴です。
近年の英国人俳優のアメリカにおける活躍の理由の一つには、不況のせいでアメリカ人人気俳優をドラマで使う余裕がなくなってきたことがあげられるようです。
『ザ・ワイヤー』のドミニク・ウエストは、「英国人俳優はアメリカ人製作者にとって、お買い得品なんだよ。」と言っています。
「経験豊富なアメリカ人の俳優だったら、もっとギャラが高かったと思うよ。
僕らは安いのさ!」
『ローマ』でアントニウスを演じた英国人俳優のジェームス・ピュアフォイは、
アメリカ人の同僚の間では、英国人俳優は安い労働力と見なされていると言っています。
「僕らは、ロサンジェルスでは、しばしば白人系メキシコ人と見なされていたよ。」
アメリカ人製作側は、最高の才能ある俳優を求めているけれど、アメリカ人俳優を配役すると費用が高くつきますし、その俳優が有名であればあるほど、いろいろ難しい部分が出てきます。
その点、英国人俳優は皆、トレーニングもされていて演技力もあり、お行儀も良く、何よりもアメリカ人視聴者にとっては、新鮮なイメージがあるようで、これが彼らが演じるキャラクターのリアリティさに繋がるといいます。
もちろんそこには、英国人の発音とアメリカ人の発音の差が問題になるかもしれませんが、英国人俳優は小さい頃からアメリカのテレビを観ながら育ったので、アメリカ発音で喋ることにほとんど抵抗はないらしいです。
そのうえアメリカ人は、アメリカ以外のテレビで話す英語の発音をほとんど知らないので、他国の英語の発音に寛大な面があるそうです。
ドミニク・ウエストは、「僕の発音は完璧ではないけど、誰もが僕をアメリカ人だと思っているよ。僕らは『スタスキー&ハッチ』などで育ったから、アメリカ発音を学ぶのは簡単なんだ。けれども、もしアメリカ人俳優が英国に来て英国発音を話したら、正しい発音でなければ英国人は、皆イライラするだろうね。」
アメリカのテレビ製作は、厳しいスケジュールで運営されていますが、その点でも英国人俳優は融通がきくようです。
ドミニク・ウエストは、「僕らは、共同作業でうまく仕事ができるし、大スター扱いされないことに慣れているからね。」
これが超人気のアメリカ人俳優なら、スケジュールの調整も大変だし、スター扱いされなければ機嫌もそこねるし・・しかもギャラも高いし、まあ、いろいろ大変なのでしょうね。
けれども、そんな英国人俳優でも人気が出てブレイクすれば、アメリカの大スターと同等の扱いをうけることになるのでしょうが・・。
いずれにせよ、日本人の俳優がアメリカのテレビで活躍するよりは、英国人の俳優の方がずっと有利である事は確かなようです。マシ・オカや真田広之とか頑張っている人もいますが、日本人にとって言葉の壁は、まだまだ厚いです。
注:写真は、『ザ・ワイヤー』のドミニク・ウエスト(Super! drama TVのサイトから)