|
澄み渡る青い空が眩しかった。
春の足音がそこかしこに聞こえ始めた二月の終わり、まだ少し冷たい風を補うように暖かい陽射しが降り注ぐ。
何もない、何もない、穏やかな一日の、筈だった。
その日のニュースは、朝からどこか遠い国でテロがあり、午後には別の国で大きな災害が起こり、夕方にはまた違う国で戦争が始まった。
テレビは代わる代わるローテーションで映像を映し、能面みたいなアナウンサーが繰り返し繰り返し大変だたいへんだタイヘンダと叫んでいる。
いるのに。
僕は、清しい風に吹かれて、静かな休日を過ごしている。
梅の花が満開、名も知らぬ蕾もほころび、空は青く、公園のベンチに腰かけてコーヒーを飲んでいる。
まだ冬の服を着てきたのは失敗だったかも、と思える程の陽気に心がうきうきとすらしている自分を、どこかで窘める別の自分もいる。
何をしているのだろう、と自問する。
けれど同時に、何ができるのだろうとも思う。
世界がそんなタイヘンなことになっていても、僕の周りでは流れるニュースを見ながら仕事したりご飯を食べたり、愛し合ったりするんだ。
世界はテレビの中の出来事で、現実ではないのかもしれない。
明日どうなっているかは、わからないけれど。
特別な同情をしない代わりに、自分にはまったく無関係だとも思わない。いつどこで何が起きるかわからないのは、僕もよく知っている。
愛する人が、いなくなってしまった。
ある日突然、本当に唐突に、まるで消えてしまったように忽然と姿を消したのだ。
彼女の家族とも四方八方探し回ったけれど、手がかりすら見つけれらなかった。
警察は状況から自主的な家出ということで結論を出し、捜索願は出ているけれど帰ってくる可能性は低い、と告げられている。
けれど僕も彼女の家族も友人も、彼女が出て行く理由など思いつきもしない。彼女は溌溂とした明るい元気な女性で、事件に巻き込まれることも考え難い。
どこにもぶつけられない憤りと不安とやるせなさで、日々を死んだように過ごしてきたのに、春が近づくと人間も少しは晴れやかになるのだろうか。それとも僕が薄情なだけなのか。
だから僕は想像する。
きっと彼女は異世界からの使者に請われ、彼女でなければ成し得ない重大な使命の為に彼の地へと趣いたのだ。頼まれたら嫌とは言えない性格だし、人のためには頑張っちゃう彼女だから、きっと誰にも告げずに、とか、伝える間も与えられずに旅立ったんだろう。
やがて、そこで異世界の窮地を救うヒロインになって使命を果たすと、きっと僕の許へと帰ってくるに違いない。
陽射しが途切れ、まだ冬の匂いが残る冷たい風が、涙を流す僕の頬を打って。
僕は、遠い空の彼方に思いを馳せる。
空の彼方・完
|
全体表示
[ リスト ]


