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私が小さいころ、まだオレンジが解禁されてなくて、
ジュースなんて高嶺の花。果汁100%なんて、めったに
飲むことはなかった。
ジュースと言えば、たま〜に、森永コーラスやトリス
コンクのように濃縮液体を水で薄めて飲むものや、
粉末ソーダを水に溶かして飲んでいた。
もちろんどちらも大好きだった。
小学2、3年の頃のことだ。何を買いに行ったのかは
覚えていないが、駄菓子屋で妙なものを見つけた。
それは直径2cmほどのオレンジ色のラムネ様タブレット。
厚紙で封をされた透明な袋に入っていて、その厚紙部分
にはオレンジジュースの絵。
子供心に、
「これを溶かすとオレンジジュースになる!」
とときめいた。
きっと値段も高くなかったのだろう。5円か10円ほどだろうか。
当然のごとく、一つ買っていた。
家に帰るのが待ちきれなくて、小走り。
幸いにも家には誰もいなかった。母親がいたら問い詰められるし、
弟達がいたら仲良く分けなきゃダメだからだ。よし!
早速、家中で一番大きなコップである、親父のビールジョッキを
取り出してなみなみと水を入れ、タブレットをポトンと
落とした。
じわっとオレンジ色が滲み出ているが、粉末と違ってタブレット
だからなかなか溶けない。
かといってむやみにかき回すと、ジョッキ一杯の水がこぼれてしまう。
しばらくはジョッキとにらめっこして、我慢がまん。
まだ底の方に残っているけどだいぶオレンジ色が着いてきた。
「え〜、このオレンジジュース、全部ボクの!?」
うれしくなってきて、一口飲んでみた。
・・・
・・・何か味がうすい・・・
やっぱり全部溶けるまで待たなきゃダメだ、と、もうしばらく
待った。心の片隅が少し陰る。
もういいかな。いやまだだ・・・でも一口だけ!
・・・
・・・まだ、うすい・・・というか、これじゃまずい・・・
でも底にはもうあんまり残ってない。
そしてタブレットが完全に溶けたとき、そしてそれは味の変化の
終わりであることを悟ったとき、幼きセフォは敗北を確信した。
「あのタブレットはジュースではなかったんだ・・・」
そして2度とオレンジタブレットを買うことはなかった。
濃度の概念を理解し、あれは確かにジュースだったんだ、ただ・・・
と悔やんだのは、それから数年経ってからのことだった。
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