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現代日本の風2019
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東洋経済オンライン
 京都や東京、大阪といった著名な観光地のみならず、近年ではその周辺地を含め、従来までは彼らがほとんど訪れることがなかった地域でも、外国人観光客の姿を見かけるようになった。例えば、筆者の故郷である福岡市(ホテル不足が顕著と言われている)がそう。宿泊施設が充実する博多駅や天神駅以外でも、彼らを目にする機会がかつてより確実に増えた。

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 そんな状況に目を付け、ハウスメーカーが今、ホテル(建設)事業に積極的な取り組みを始めている。そこで、事例をいくつか紹介することで、狙いや背景について迫ってみた。
パナソニックホームズのホテルとは? 

 東京都墨田区にある「蒼空(そら)ホテル」(5階建て、1LDKを中心とした全7室)は今年3月に竣工した宿泊施設だ。建設したのは、大手ハウスメーカーのパナソニックホームズである。

 客室は和のデザインによるおもてなしの雰囲気で、ベランダもついている。東京スカイツリーを間近に望める屋上の共用スペースがあり、何より日本には少ない、ファミリーなど大人数で宿泊できるコンドミニアムタイプ(キッチンを併設)のホテルという特徴を持つ。
 このホテルが注目される理由はほかにもある。住宅向けの構造体が用いられており、しかも約30坪の土地に、約6カ月の工期で建設されたことだ。通常、同規模のホテルをゼネコンが建設すると約1年はかかる。

 現地は東京の下町の路地といった趣である。元々、古い民家を改築した宿泊施設があった場所だというが、周辺の人たちからすると、そこに突如、近代的なホテルが表れたというイメージではなかろうか。また、宿泊者、とくに外国人にとっても、このようなエリアにホテルがあることで、東京の飾らない姿を味わうことができ魅力的に感じるだろう。
 パナソニックホームズは、9階建て(ハウスメーカーでは最高階)にまでに対応でき、15cm単位で土地の形状に対応できる独自の重量鉄骨造技術を有している。

 これまで戸建て住宅や賃貸住宅、商業施設などの建設に用いられてきたもので、今回の事例はその特徴がホテルに応用されたものだ。

 同社がこのような宿泊施設の建設に乗り出したのは、政府が推し進める観光立国化、訪日外国人数を2020年に4000万人、2030年には6000万人にするという目標、それに伴うインバウンド市場拡大による宿泊施設不足への対応のためである。
とくに東京五輪の約1年後の2021年夏でも都内で約1万4000室の客室が不足すると見られるため、短い期間で竣工することができる住宅建設の技術やノウハウが役立てられると判断したものだ。

■賃貸住宅としてリニューアルもできる

 パナソニックホームズでは、2018年6月から東京と大阪で宿泊事業のテストマーケティングを実施。2018年度の受注棟数目標を10棟としていたが、それを約9カ月で達成するなど、強い感触を得たという。
 このため、今年度から「ビューノステイ」の名称で商品化し、さらに宿泊施設の運営システム(土地・建物のサブリース)を設け、より積極的な受注活動を進めるとしている。

 なお、前述した蒼空ホテルは将来的にホテルとしての需要が見込めなくなった場合には、賃貸住宅としてリニューアルし、活用できるような工夫も行われていることも特徴の1つとなっている。

 積水ハウスもインバウンド市場を今後の成長分野と考えているハウスメーカーの1つだ。昨年11月に発表した「トリップベース 道の駅プロジェクト」という取り組みをスタートさせている。
 世界的なホテルチェーンであるマリオット・インターナショナルや日本国内の地方自治体と協力し、2020年秋以降をメドにロードサイド型ホテルを5府県、15カ所、約1000室の規模でオープンするというものである。

 計画地は観光地としては魅力があるものの、交通や宿泊の利便性が低い地域。そこに、「道の駅」と隣接するかたちで宿泊特化型の宿泊施設を建設し、飲食やお土産購入、地域の伝統文化を通じた触れあいを創出するという、いわば地方再生事業という位置付けとなっている。
 すべてではないが、このプロジェクトにおいても、積水ハウスが重量鉄骨造の構造体(4階建てまでに対応)により建物が建設されることになっている。

 ちなみに、積水ハウスでは福島県富岡町に東日本大震災からの復興の拠点として2017年10月にオープンした「富岡ホテル」(4階建て、全69室、ほかにレストランも併設)など、全国で住宅部材を用いたホテル建設で実績を増やしている。

 このほか、同社は似たようなスキームによる宿坊事業、さらにはラグジュアリーホテル分野では京都市の「ザ・リッツ・カールトン京都」(2014年オープン)や、「W(ダブリュー)OSAKA」(大阪市中央区、2021年オープン予定)などへの出資なども行っている。
■短工期の利点を生かせる

 さて、パナソニックホームズや積水ハウスがインバウンド客を主に対象とした宿泊施設建設に乗り出しているのには、インバウンドの存在はもちろん、彼らが有する住まいづくりのノウハウ、中でも短工期であるという利点を生かしたいという思惑があるからだ。

 短工期が可能であることに触れておくと、両社はプレハブ(工業化)住宅のハウスメーカー。構造体や外壁材などを中心に部材を工場で、ある規格の中で生産するという特徴を持つ。
 この部材を活用すること、住宅建設を担う協力業者をそのままホテルの建設現場に投入でき、それは高い品質を維持しつつ短期間での施工を可能にしている。部材や施工業者を物件ごとに調達するゼネコンなどと比較すると、品質や工期、コストの面で有利になっているわけだ。

 例えば、冒頭のパナソニックホームズの事業責任者によると、同様のホテルを建設する場合、「ゼネコンでは受注から竣工まで最低でも1年はかかるが、当社ではそれよりも早く、東京五輪までに竣工を間に合わせることができる」と話している。
 余談だが、ハウスメーカーの中にはさらに古くから宿泊事業に乗り出している企業がある。多角化が最も進んでいる大和ハウス工業で、ホテル事業を本格的にスタート(それ以前にもリゾートホテル事業を展開)したのは、1978(昭和53)年のことだ。

 もっとも、大和ハウス工業の場合はホテル建設だけでなく、運営も手がけており、住宅の技術やノウハウによるホテル建設に乗り出しているというわけではない。ただ、同社も含め、かつては同様に宿泊事業を展開していた企業もあったという事実をここで念のため確認していただきたい。
 ところで、パナソニックホームズと積水ハウスがホテル建設事業を展開するのは、インバウンド市場の拡大を見込んでのことだが、それ以外に国内住宅市場の縮小が予測されるという背景がある。

 つまり、非住宅の強化の一環としてホテル建設事業があるわけだが、近い将来、それはほかの住宅事業者にも広がるだろうと筆者は考えている。というのも、これまでに介護や医療、商業などの施設建設同様のことが行われてきたからだ。

■海外では木造ホテルも登場
とくに、木造の住宅事業者にもチャンスがありそうだ。というのも、海外では木造によるホテルも徐々にではあるが登場しているからだ。それはCLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー=大型集成材)などの普及に伴う動きである。

 カナダでは、この素材を用いた18階建てのホテルが2017年にオープンしているくらいだ。日本でも2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されたことから、中・大規模の木造建築によるホテルができてもおかしくはない状況なのである。
 CLTはまだ、法制度上の問題や日本ではコスト面や取扱業者が少ないなどの制約があるため普及していないが、本格普及が始まれば住宅事業者による宿泊施設分野への進出がより広がる可能性があるだろう。

 そもそも、住宅事業者はその成長過程で住まいや暮らしの中に世界各国のライススタイルやデザイン、各種設備などを貪欲に導入し、それらを新築住宅やリフォームの提案とすることで、わが国における伝道者的な役割を担ってきた。
 その提案は日本的な提案要素もミックスするなど、現在では世界に類を見ないバラエティーに富んだものになっている。その提案力はホテルなどの空間づくりと非常に親和性が高い。すでに、ミサワホームなど、宿泊施設のリノベーションで実績を上げている企業もある。

 近年は海外進出するハウスメーカーも増えている。時代が移り変わり、国内住宅市場が縮小に転じた今、インバウンド向けの宿泊施設は、日本の住宅に関するノウハウを生かせる場として、伸びしろのある分野だと考えられる。
田中 直輝 :住生活ジャーナリスト


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