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昔々あるところにアリとキリギリスが住んでいました。
二人はともにある商社の営業部で働いていました。
ある日キリギリスは言いました。
「なあアリくん。」
「なんだいキリギリスさん。」
「俺、転職しようと思うんだ。」
「え?どうして突然。」
「この仕事向いてないと思うんだ。俺の才能はもっと他のところにあるはずなんだ。」
「でも今の安定した収入を捨てるっていうのかい?」
「安定してるってことは上限があるってことだろ。もっと良い仕事に就いてもっと良い給料を貰ったって良いはずだよ。」
そう言うと、キリギリスはその日の内に辞表を出し、今話題の転職サイトを使って、IT関連の派遣社員となりました。
ある日路上でキリギリスはアリばったり出会いました。
「アリくん。どうだい景気は?」
「ボチボチだね。キリギリスさんはどうですか?」
「最高だよ。給料は倍くらいかな。君は相変わらず昔みたいに人に頭を下げて金貰ってるんだろ?」
「まあそうですね。では先を急ぎますので。」
「やだねぇ正社員は。忙しすぎて体壊すぜ。」
しかし、世の中そんなに甘くありません。始めこそ良い給料を貰っていたキリギリスも、どんどん仕事は減っていきました。やがてITに限らず、製造業や接客などの派遣に回されるようになりました。
一方アリは生来の実直さから会社からも信頼され、順調に昇進していました。
やがて冬になりました。
隣村を襲った大寒波はアリとキリギリスの住む村までやってきました。
厳しい冬になることが予想され、派遣社員はリストラの対象になりました。僅かな貯蓄も株に投資していたキリギリスは文字通り一文無しになってしまいました。
派遣社員用の寮を追い出されたキリギリスは路頭に迷っていました。
とある公園でテントの貸し出しと炊き出しをやっていると聞き、それにすがることにしました。
「なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ?これも政治が悪い。炊き出しだってもっと早く出来たはずだ。」
キリギリスは喚きました。
それを遠くから見ている黒い影があります。
「アリ部長。お知り合いですか?」
「いや。他人の空似だったようだ。出してくれ。」
春はまだ先の話。
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