コパンのうら

熊本県北部の山鹿市にあるちいさなフランス料理店「ビストロ シェ・ル・コパン」の舞台裏です。

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幸せな一日。


「あー、幸せ。すっごい充実感。この幸せはきっと誰にもわからない。あんたにも」

これは先日、ディナーの営業を終えたあと、わたしがシェフに言ったセリフ。この幸福感をことばで説明するのは難しく、たぶんほとんどのかたはよくわからないのではないかと思いますが、自分の記録のためにブログにすることにしました。勝手ですみません。

ひとことで言うと、現時点でのもっとも理想的な状態を体験できた、ということです。

シェフとわたし、同じところを目指しているようでいて、やや視点が異なります。シェフにとっては、季節と土地の恵みである食材のおいしさを最大限に生かし、自分にできる最良の料理をご提供し、お客さまにおいしい状態で召し上がっていただくこと。そしてわたしにとっては、お客さまひとりひとりに心地よい時間をすごしていただくこと。お腹が空いてらっしゃるかたは満腹に、疲れてらっしゃるかたは英気を養い、気分が上がらないかたは笑顔になり、久しぶりにお会いしたかた同士の会話が弾み、日常に追われてるかたは非日常を味わい……と、それぞれのニーズを満たしていただくこと。簡単に言うと、シェフは料理目線、わたしはお客さま目線です。まあ、料理人とサービスですから、当然といえば当然ですよね。

でも、毎日何かしら反省点があって、なかなか自分のしごとに満足はできません。

ところが先日、「いやあ、慢心するわけじゃないけどさー、今日はかなりよかったんじゃ? 今の時点ではこれ以上は望めないんじゃない?」と、我ながら思える日があったのです。

その日は、昼も夜も、常連のお客さまと新規のお客さまがほぼ半分ずつでした。それも要因のひとつだったかもしれません。常連のお客さまが作ってくださる「コパン的な」雰囲気に、新規のお客さまがすーっと自然に入ってきてくださったようなイメージ。お店全体が、ほどよい笑顔、ほどよい会話、ほどよい食器とカトラリーの音に包まれます。わたしも、お客さまのさりげない言動から、求めてらっしゃるものが自然と察せられ、風に乗って舞うようによどみなくサービスができます。まるでテレパシーで会話をしているかのよう。誰も急かさず、急がず、慌てない。主張がないのに、存在感がある。わたしとすべてのお客さまが、それぞれの存在を互いに感じながらも、過剰に介入することなく、ことばや態度にしないながらも思いやりを抱きつつ、公共の場でありながら互いのプライベート空間を保っている。その見事なバランス。店全体が一体化しながらも、決して濃密ではなく、押し付けがましくもこれみよがしでもなく、風通しがよく、涼しげな、自由な空気。

それはまるで、上質なオーケストラのよう。指揮者は、僭越ながら、わたしです。楽器の演奏者がお客さまたち。指揮者が求める音を、まるで呼吸をするように自然に奏でてくださいます。聴こえるのは、五感に心地よい、余韻を長く残す音楽。

わたし自身の心身のコンディションがよかったというのもあると思います。だから、自然に、躊躇なく、こだわりなく、お客さまに寄りそうことができた。さらに、奇跡的に、すべてのお客さまのコンディションもよかったように思われます。交わす表情、ことば、しぐさに、ざらつきやねばつきがまったくない。苛立ちや挑発や刺々しさも皆無。飛び交う気持ちと会話は、どれも「ありがとう」「おいしい」「楽しい」に満たされている。

それは、夢のような体験でした。

たぶん、第三者が客観的に見てもまったくわからないでしょうねー。おそらく気づかれもしないでしょう。誰からも褒められることも、評価されることも、羨ましがられることもない。もしかしたら、わたしの独りよがり、思い込みかもしれませんし。でも、あの幸福感だけは嘘ではありませんでした。

たとえば、メディアに取り上げていただいた、著名なかたにご来店いただいた、ステキないただきものをした、スペシャルなパーティーを催した……そういう、誰が見てもわかりやすい「非日常」より、こういう一見わかりにくい「非日常」のほうが、ずっとうれしくて幸せなのです。……ひねくれてると思われるかもしれませんが(苦笑)。本当に。

まあ、ここまでいかなくても、お客さまと楽しくお話ができたり、「おいしかったです」「また来ます」などとおっしゃっていただけただけで、十分幸福感は味わえているのですけどね。

それにしても、13年前、シェフのお手伝いということで、片手間程度にしか考えていなかったおしごと。当時は、毎日はお店に出ていなかったし、お店に出ても「料理を出したり下げたりして、洗い物をするだけ」しか考えていませんでした(恥)。それまで、サービスをやりたいと思ったことも、勉強や修行をしたこともありませんでしたし。

あのころのわたしには、こういう世界があるなんて思いもよらなかったです。

そう思えば、あっという間だったようでいて、長かったような(遠い目)。

いえいえ、まだまだ先を目指すぞー。あくまで、これは「現時点での」理想的な状態ですから。毎日が、新しい体験、一期一会。毎日、新鮮で、楽しく、意外で、それと同時に、怖くて、緊張もしています。今後ともよろしくお願いします。


イメージ 1

写真は、本文とは無関係ですが、天草の崎津天主堂近くにいた猫たち。猫ハーレム状態! 猫に飢えていたわれわれはほくほく。猫の「撫で溜め」をしておきました。

イメージ 2

それにしても、崎津天主堂は遠かった……。山鹿から日帰りで行くものではありませんね。往復330キロでした。

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