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その日ポケットには小銭がジャラジャラしているだけで、PAT(JRAの電話投票)の俺の口座にも3.000円ほどしか入っていなかった。 そんな状況ではとても勝負する気にはなれず、傍観するしかない(最悪、口座の金は下ろして生活費の足しにできるから、ムダな勝負は避けたかった) 「それにしても…」 缶コーヒーを買いに歩きながら思った。 「俺も40近いってのに、このままじゃ野垂れ死にを待っているだけじゃないのか?」 暗澹(あんたん)たる気持ちでトボトボと歩く。 「何の選択肢も無い。何のチャンスも残されていないのか?」 答えの無い問いかけに全身の力が抜けていくようだったが、目指す自販機の少し手前で、俺の思考は一瞬止まった。 通路の真ん中に、黄色い紙が落ちている。 ただの紙切れだと思ったものの、何故か俺の目は釘付けで、誘われるようにそれを拾った。 それは一辺が10センチくらいの正方形で、きれいに二つに折られていた。 開くとそこには4行の数字の列が、黒いインクで丁寧に書かれている。 1行目は11桁。 2行目は8桁。 3行目は4桁と♯。 そして最後も4桁と♯だった。 見た瞬間、俺はそれが何であるか解った。 PATで馬券を買うための暗証番号だ。 最初の11桁は投票先の電話番号で、次の8桁と4桁は加入者番号とパスワード。 最後はP‐ARS番号だ。 恐らく誰かが現金だけでなくPATでも馬券を買うつもりで、暗証番号をメモして持ってきたものの、うっかりそれを落としたのだろう。 周りを見回したがモニターに写るオッズを見つめる人や、スポーツ紙の競馬欄をチェックする人、 携帯で情報会社と連絡をしているらしき人ばかりで、何かを探している様子の人物は見当たらなかった。 「どうしたものか」 自販機から少し離れたベンチに座り、缶コーヒーを飲みながらそれを眺めた。 そうしているうちに、「他人の口座を覗いてみたい…」そんな好奇心が急に沸き上がってきた。 銀行口座であるから残金は下ろせないが、覗き見する事はできるのだ。 【続く】 |

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