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平蔵の昔話である。
ある年、名古屋北支店津島支社の勤務を解かれて浜松支店転勤になった。
新しい任地に着くと、まず主だった顧客へのあいさつ回りが始まる。
あいさつ回りに先立って、部下から一言アドバイスがあった。
曰く、浜松の人々は名古屋人をあまり快く思っていない。
問われるまでは前任地が名古屋であることは言わないほうがいい・・・・・と。
初日のあいさつ回りは無事に終わった。 終わって、主だった部下たちを連れて飲み屋へ。
懇親と意思疎通を図るための平蔵の手口である。
なぜ、名古屋人を快く思わないのか・・・・・。 これは知っておかなくてはならない。
外交辞令で「前任地はどちらでしたか?」と必ず聞かれる。
ウソは言えないし名古屋とわかれば愉快に思われないとなると問題である。
飲みながら、部下たちは浜松人の気質から説明をはじめた。
浜松には起業家が多いと申す。 たしかにホンダ・ヤマハ・スズキ・カワイ楽器、みんな浜松人だ。
これは「やらまいか精神」が旺盛だからと。
「やらまいか」、どうなるかわからんが「やって見よう」の精神だ。
同じ静岡県でも静岡市近辺は「やめまいか」だそうな。
考え方が浜松人は積極的で静岡は消極的である。
物を造っても売りに出なければならない。 このあたりから核心に入る。
バイクや楽器を造って東京、大阪、名古屋など大きな消費地へ売り込みに行く。
東京人はその製品が良いものであれば、言い値で買う。 支払いもきれいだ。
つまり定価で買ってくれるし、振込手数料も買い手負担だと言う。
大阪人は必ず値切る。 絶対に定価では買ってくれない。
しかし、商談がまとまればあとは実に「きれい」だとのことである。
名古屋人は大阪人と同じように必ず値切る。 定価では買わない。
商談がまとまり、商品を送ると勝手に端数を切り捨て、しかも振込手数料は負担しない。
「端数を切り捨てる」つまり約定通りの金額を送金してこないと言うことだ。
名古屋人は「やり方が汚ねぇー」と (やらまいか精神の旺盛な) 浜松人は感じるのだ。
だから名古屋人を快く思わないと・・・・・・・。
平蔵は半信半疑ながら (そうであったか・・・) と思うのであった。
あいさつ回りも浜松市内、掛川、磐田、浜北、ディーラー、銀行などを順調にこなした。
名古屋人問題も出てこない。
前任地を聞かれ、名古屋と答えると、
「あそこは商売がむつかしいところ、ご苦労なさったでしょうねぇー」と慰められもした。
最後に三井グループ関連各社を廻った。 三井グループは大体が本社で一括損害保険を手配しているので我が浜松支店が関与することは少ない。
得意先と申すよりもむしろグループ仲間への表敬訪問的なものである。
三井の直系6社に数えられる某社で前任地を聞かれた。
平蔵が (名古屋です) と答えると、「あーぁ、名古屋ですか」と妙な口調で先方は言う。
(あ、来たな・・・) 平蔵は思ったのである。 得意の平蔵の勘働きである。
平蔵はすかさず (前任地は名古屋ですが、名古屋の出身ではありません。 名古屋人の悪口なら100以上言えますよ) 。 同じ三井グループだとの不思議な安心感が平蔵の口を軽くしていた。
「私は名古屋の出身で、名古屋は私のふるさとです」今度は怖い口調で返事が返ってきた。
「あーぁ、名古屋ですか」は懐かしさと親しみをないまぜにした言葉だったのだ。
平蔵の頭の中は「ガァーン」である。
以来、彼はこの平蔵と親しく口をきいてくれることはなかった。 くすん
浜松市内全景(アクトシティータワーから)
浜松駅前ロータリー
浜松駅前の夜景
この町には浜松人のみが住んでいるのではないと言うことをイヤと言うほど教えられた事件であった。
ん? 平蔵の女房殿?
名古屋人でござる。 しかも、100%名古屋人でござるよ。
「何をいっとりゃーす、とぉーろい事いゃーぁすな」(何を言っているの、馬鹿なことを言わないで)
「そんなことやっちゃーいかんがねぇー。 うつけだわさ」(そんな事やってはいけない。バカよ)
顔は時々般若みたいになる。 来週、般若の姉が我が家に泊まりにくるそうな。
「五鉄」の2階へでも避難するかな・・・・。 このことである。
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