HAMの大冒険

函館芸術会議(HAM)の大冒険!!さーて何から始めますか・・・

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1990年 8月のある日 東京S病院 脳神経外科入院病棟 深夜

彼は入院していた。頭にはグルグルにまかれた包帯。
一度目の手術を終え約2週間。
九州から出てきたお母さんと、毎日の看病に疲れを見せていた奥さんに
「今日は僕が付き添いますから。今晩はお二人でゆっくりとお休みください」
といい、帰っていただいた。
どうしても今、聞いておきたいことがあった・・・

ちぐさ「さとちゃん。もっと早くにどうして作らなかったの?さとちゃんの腕なら自主制作でなくても、企業も個人もお金出してくれたでしょ?」

サトシ「ちぐさ。お前さんまだ分かってないな。俺達のやってることって遊びじゃん。お金のかかる遊びだよな。映画も写真も音楽も。」

ち「うん。分かるけど」

サ「俺はお前と遊びたかったんだよ。自分の作品を作りたかったんだよ。自分の好きな本で、自分の好きな仲間と、自分のやりたいように」

ち「でもさ・・・」

サ「俺はお前にアーティストになってほしいんだ。アートって遊びだよな。依頼を受けた仕事ならお金を受け取るが、この作品はあくまでも自分の作品、お前と一緒に作り上げた作品。仲間と一緒に遊びながら作ったんだ。この映画を見て、気に入ってくださった方が今度は依頼に来る。その時は初めてプロデューサーを立ててお金を集めてもらうさ。だけどこの作品だけは俺の身を削って作りたかった。そして俺は貯金をした期間にたくさんのことを学んだ。だからこそコマーシャルを作りながらお金が貯まるのと機が熟すのを待てたんだ。自分の思い通りの作品を作るために。そして俺の背中を見せる人間が現れるのも待っていた。それがお前だよ」

ち「そうか・・・じゃあ良かったんだね、思い通りに作れたんだね」

サ「いいか、ちぐさ。芸術って身を削るものなんだ。身を削るからこそ人が楽しんでくれたり、人が感動してくれたりすると思うんだ。映画や写真や音楽って見たり聞いたりしてくれる人がいなければ何にもならないだろ?だから俺は15年間、自分の小遣いを貯めて、たまには助手やテレビのバイトをしてそれも貯めたんだ。40歳って決めていたんだ。そして2年前お前と出会ったんだ。その澄んだ瞳のお前に。透明感のある凄い写真を撮る木村公一という若者に。」

ち「またまた〜」

サ「ばかやろう!俺はお前に映画撮ってほしいんだよ。その素晴らしい感性で日本の映画界・・・いや芸術界を変えてほしいんだよ。映像は金がかかるけど、絵や彫刻のように崇高には扱われていない。アメリカやヨーロッパのようにならなきゃおかしいよ。」

ち「さとちゃんがやればいいじゃん。出来るよ、さとちゃんなら・・・」

サ「俺はもう死ぬんだよ、分かってんだ。」

ち「そんなことないよ!次の手術で治るよ。そんなこと言わないでくれよ!!!」

看護婦「コンコン!」≪ノックの音≫
  「ガナハさん夜中ですからお静かに。付添いの方も早くお休みくださいね」

二人「すんません・・・もう寝ます〜」

サ「バカ!ちぐさ!声でけーよ」

ち「さとちゃんもだよ〜〜」

サ 「さ!寝るぞ。な!」

ち 「俺、サトちゃんにもう一個聞きたいことある」

サ 「なんだよ。早く言え。」

ち 「そ〜せかさないでよ〜なんにも言えなくなっちゃうよ〜」

サ 「悪い悪い・・・俺最近イライラしてるな・・・なんだ、ちぐさ」

ち 「たまーにみんながおにぎり持ってきたり、お金持ってきたりした。でもサトちゃんはそれにいい顔を見せ無かったよね。お金は絶対に受け取らなかった。撮影始まって1か月位で差し入れ禁止令も出した。どーして?甘えればいいじゃん。親切心だったんだからさ。製作費もその方が楽に・・・」

サ 「解ったよな。ちぐさ。俺は俺の作品を作ったんだ。映画の最初や最後には必ず『何某作品』って出るだろ?そこには必ず監督の名前だけしかないよな。プロデューサーやカメラマン・音組や配給会社の名前さえない。映画はあくまでも監督の作品。あとの人はお手伝いなんだよ。カメラさんや音組さん・照明さんはその分野で監督のお手伝いをしてお金をいただいている。配給会社やプロデューサーは株主みたいなもんだ。興行成績によってはもうけることが出来るし、ダメなこともある。1つの賭けごとだよな。ビジネスだよ。今回は俺の作品。みんなには手伝ってもらったけど、ギャラは払えない。でも…余計なお金は…せめてお金だけは使ってほしくなかったんだ。タダで借りられるものには甘えたよ。でも仲間の生活費まで使いたくなかった。俺の貯めた500万だけで全てを賄いたかったんだ。今回はビジネスではない。純粋な俺の作品にしたかったんだ。コマーシャルの撮影もそうだろ?製作費にすべて経費が盛り込まれている。紙の1枚から、メイクさんのメイク道具。カメラの備品やみんなのお弁当代まで。俳優さんの送り迎え、スタッフの足代宿泊費、スタジオ代に至ってもだ。配給会社やプロデューサー、スポンサーはチケットの売れ具合、つまり興行成績でパーセンテージをもらう。すべての人のギャラ、経費、宣伝費を差っ引いた上でだ。」

ち 「うん。それが彼らの儲けになるんだよね」

サ 「でも・・・全責任は監督にあるんだ。その作品が売れなければ、その監督は次は使ってもらえない。スポンサーもその監督の作品にはお金を出さない。つまりは遊びをお金に換えるんだ。趣味をお金に換えるんだ。監督の自己満足にお金を賭けて、儲ける。それがいい作品ならね。だからスタッフには余計なお金なんか絶対に使わせない。それが芸術の基本じゃないか?」

ち 「そうだね。いい作品は売れるもんね。でも・・・出来てみなければ解らない・・・芸術って・・・」

サ 「そう、世に出てしまえばその作品は作り手の物ではなくなる。観ていただいた聴いていただいた方々の物になる。いい作品なら噂を呼び、その作品には買い手がつく。映画はチケットが売れる・・・今、地方の有志が集まって映画を作るために募金活動なんかをやっているよな。あれは俺・・・違うと思う。企業がスポンサーをするのは解る。それによってメリットがあるから。宣伝の一部だし、大成功をすれば謝礼金みたいな形でお金が還ったなんて噂も聞いたことがある。でも・・・個人の方々にはチケットを買っていただきたいんだ。作る時にお金を出すのではなく、お金を出して俺たちの作品を見て欲しいんだよ。それが映画屋の本当の姿。こんなの作りたいから金を出せなんて、お客様に恥ずかしっくて言えやしない。芸術家は身を削ってなんぼダ。作る前からお金をいただいて感謝されるのが本来の姿ではない。身を削って作ったものを観ていただいて初めてお金をいただける。それが本来の映画屋の姿。芸術というものだ」

ち 「それが本当の評価だよね。その人の思いに対してお金が払われる。だからサトちゃんは・・・」

サ 「この映画で儲けなど出るはずもない。だけど俺はみんなにこの精神を解ってほしかった」

ち 「解んないよ〜9月の初公開のチケット完売に近いじゃない」

サ 「ま!1000円だしな。でも50万か・・・打ち上げやろうな!」

ち 「うん!会場費払って、映写代払っても少し残るね・・・でも・・・病院代・・・」

サ 「心配するな!一応俺はこう見えてもDの社員だよ」

ち 「お母さんと奥さんとしいちゃん旅行にでも連れってたら?家族サービスしてないでしょ?」

サ 「あ〜頭痛い。そんな話すんなよ!本当に頭痛くなってきたよ」

ち 「ご・・・ゴメン・・・先生呼ぼうか・・・」

サ 「ばか!冗談だよ!!」

ち 「エッ!信じらんね〜俺ホント心配した」

サ 「ワリーワリー・・・でも・・・今日話せてよかった。お前にさ・・・」

ち 「でも俺、酒飲みながら、撮影しながら、それと同じ話をずっと聞いていたんだね・・・」

サ 「お前今気づいたのか〜?あったまわりーナ〜」

ち 「へっ!どーせ俺は高卒ですよ。え〜え〜頭悪いです。サトちゃんのようにはいきませんよ〜だ」

サ 「なにすねてんだよ」

ち 「あ〜寝よ寝よ。聞くこと聞いたからね〜よおっと」

サ 「まったくホントに・・・俺も寝るよ!あったまくんな〜」

ち 「でも、サトちゃんありがとね。俺いい経験した・・・サトちゃんと出会えて良かったよ・・・」

サ 「いや、俺の方が幸せだ・・・お前と出会えて。映画作れて」

ち 「もう寝よ!」

サ 「ああ。おやすみ」

ち 「おやすみなさい・・・」

僕はベットの横の床にひいた布団にくるまり横になった。
横になった瞬間、両の眼から涙があふれた。
やっぱりこの人は自分の最期を知っている。
僕は心の中で神様に祈った。
「どうかこの人を助けてください・・・」っと・・・

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