クラシック歳時記in松本 (あるいはモーツァルトとともに1年を)

今春発売の内田光子/テイトのCDでようやく好きになれました・・・モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

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10月8日(土)雨

 どうやら5日位から半月遅れの秋雨のシーズンに入ったらしい。

 いつもなら9月の後半、敬老の日あたりからお彼岸をはさんで9月いっぱい、雨の時季が続く。今年はそれがなかった。半月それだけ夏の暑さが長引いたということだろうか。

 この時季の長雨は、6月の梅雨の雨と違って一雨ごとに寒くなる訳なので、濡れると身体が芯から冷えてしまうし、どこかしょぼしょぼと淋しさ、侘しさを感じてしまう。

 そんな秋の雨の時季に似合った曲を幾つか紹介してみたい。(そうはいっても同じ雨なので、梅雨のシーズンに紹介しきれなかった曲という意味合いもあるが、できるだけ秋の雨らしい曲を選んでみたい。)

 まずは先月につづいてモーツァルトの弦楽四重奏曲を。
 
 ハイドンセットの14番以降23番まで、モーツァルトのSQは皆、秋にぴったりの曲想だ。

しかも14番から23番まで、順を追うごとに渋く、枯れて透明な感じが強まっていくので、9月から11月までの秋の深まりの進行に従って、番号順に聴き進めていくという楽しみ方もある(ように思う。)

 その中でこの15番は唯一の短調の曲だ。

モーツァルトの短調の曲といえば、交響曲40番、同25番、ピアノ協奏曲第20番、弦楽五重奏曲第4番などいずれも名曲揃い。

そして「宿命のト短調」などと、多分に短調であることが運命的であるかのように言われることも多い。

だからといってモーツァルトのイメージを40番とかト短調とかで捉えてしまうと、モーツァルトという人の本質を見誤ってしまうように思う。

あくまでもモーツァルトは長調の人だ。圧倒的な数の曲がそう、というだけでなく、魔笛のパパゲーノのアリアとか、フィガロの「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」とか序曲とか、ピアノ協奏曲第22番フィナーレとかのように、底抜けに明るくコケティッシュな曲がモーツァルトの基調だろう。

その上に僅かな例外としてあるモーツァルトの短調の曲は、だからこそ意味が出てくるのだと僕は思う。

 さて弦楽四重奏曲第15番ニ短調である。

 まぎれもなく古典派の弦楽四重奏曲でありながら、まるで後のロマン派のSQ、たとえばシューベルトのSQ第13番「ロザムンデ」(4/15参照http://blogs.yahoo.co.jp/chikuma46/1501598.html )などを予告するようなロマン性秘めた曲だ。

 というより、このK.421あたりから、あえて聴衆を意識しない、モーツァルトの内面の吐露としか思えないような曲が増え、それが後のベートーベン、シューベルトなどロマン派の登場に道を開いたと言えなくもない。

 第1楽章。アレグロ。

 序奏なしでいきなり、ソット・ヴォーチェ(ひそやかに柔らかく)と書かれた第1主題が始まるのは前に紹介した14番(http://blogs.yahoo.co.jp/chikuma46/11507087.html )と同じ(ただしこちらはもちろん短調)、モーツァルトらしいところだ。

 が、ワンフレーズ過ぎた(4小節位?何しろ楽譜の知識がないのでそういう説明がうまく言えません)あと、その場の空気を引き裂くように、突然旋律が2オクターヴ上がる。

 まるで、今まで悲しみを慎み深くじっと堪えていた人が、突然こらえきれずにワァーッと泣き出したかのような唐突な慟哭の表現に、僕達はハッと不意をつかれ、息を呑み、悲しみの深さに初めて気づく。

 しかしそれはあくまでも一瞬。大げさに泣きわめいたり、崩れてしまうのではなく、あくまで音楽の形式感を保ち続ける。誤解を怖れずに言えば、そこがロマン派の凡百の輩との違い、モーツァルトの音楽の素晴らしさだと思う。


 第2楽章アンダンテ。この曲唯一の長調(ヘ長調)。
 
 穏やかな優しさに満ちた楽章。静かに、あくまでも穏やかに曲は進むが、途切れ途切れ奏でられるテーマに、長調の影に秘められた不安や哀しみを感じずにはいられない。

 しかしこの曲のホントの凄さは、後半の第3,第4楽章にある。

 第3楽章メヌエット。ニ短調。

 悲しみをひきずるようなメヌエットだが、ことに聴きどころは中間部のトリオだ。

 他の楽器のピツィカートにのって第1バイオリンが奏でる、地の底から舞い上がるような長調の旋律のこの世のものとも思われない、尋常でない美しさ。

 そして少しも長調には聴こえない。まるで地の底から湧いてくるような、あるいは月明かりに泥の中から咲きいで、美しい花びらに涙のしずくを溜めた「はすの花」のような美しさに再び息を呑むと同時に、あまりの美しさに怖ろしささえ感じる。

 僕はこの曲のこの箇所を聴くと、なぜかシューベルトの「未完成」の第2楽章を想い浮かべてしまう。

 第4楽章フィナーレ。アレグロ・マ・ノン・トロッポ。シチリアーノ風の主題と4つの変奏曲からなる。

 第1楽章の「ひそやかに柔らかい」悲しみの旋律。第3楽章の「凄絶なまでに」美しいトリオを聴いてきた者にとって、ひときわ胸に沁みる主題と変奏だ。

 決して声高には叫んでいない。あくまでも淡々と、円舞曲のように気品高く変奏は進む。しかし聴く側にはとっては、悲しみがこらえてもこらえても、じわじわと波のように湧いてきて止めることができない。

 モーツァルトは決して声を荒げはしない。しかし変奏が終わり、テーマが戻ってきた最後の最後に再び第1バイオリンに悲痛な嘆きを歌わせて、曲は終わる。

 なぜモーツァルトはこんなにも悲痛な曲を書いたのだろうか。

 この曲を作曲した1783年6月。モーツァルト27歳。妻コンスタンツェが長男ライムントを産んだ頃といわれる。

 初めての子が生まれようとする、まさにその頃、彼はこんなにも憂愁に満ちた曲を書いた。まるでこの愛する長子が2ヶ月後には、そのはかない生命を終えるのを予見してでもいるかのように。

 だから子どもが死んだから哀しい曲を作ったとか、そんな皮相な見方でモーツァルトの曲を考えることはできない。

 ただ、モーツァルトのいかにもモーツァルトらしい長調の、底抜けに明るい曲想の背後に、常にこの曲に現れたような憂愁と哀しみが潜んでいることに、我々は気づくしかないのである。

 演奏は今回もウィーン・アルバン・ベルク四重奏団。(LP:TELEFUNKEN K17C-8318)何度も言うが、アンサンブルの緊密さと第1バイオリン、ギュンター・ピヒラーのとびきりの美音で、他の追随を許さない。

 ただしこれは旧盤(1977年)。EMIの新盤(CD:TOCE-13027)の方が完成度の点で、さらに優れているかも知れません。


P.S. この曲を書いたのがモーツァルト27歳。今ひょっと思ったのですが、この曲の憂愁は、彼が8年後に忍び来る死の影を、初めて意識した証だったのかも知れませんね。

 



 

 

 
 

 

閉じる コメント(9)

モーツアルト・・・良いですよね〜♪話は変わってしまうんですが、バッハのコンチェルトグロッソ二短調の良い演奏を探しています。なにかお勧めはありますでしょうか?(^^。)よろしくお願いいたします。

2005/10/9(日) 午後 7:25 cla*aa*g*laj*

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クララさん、お久です。困ったなぁ。バッハのコンチェルト・グロッソ?あったかなぁ?ニ短調のコンチェルト・グロッソというと、ヘンデルに作品3の第5番と作品6の第10番があります。曲の感じから10番が有名かな。お求めの曲がそうだとすると、やっぱりコレギウム・アウレウムのをおススメします。ただしCDが出ているかな)他にマリナー、リヒター、カラヤンなどがありますよ。

2005/10/9(日) 午後 7:58 gustav

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クララさん、今HMVのHP覗いたら、マリナーの新盤とピノック/イングリッシュ・コンサートがありましたが、作品3と作品6の両方が入っているのはマリナーだけでした。(カラヤンはニ短調が入ってない!)コレギウムに一番近い感じだし、この中ではマリナーをお薦めします。(ただしオランダ輸入盤ですBRL99986)

2005/10/9(日) 午後 8:15 gustav

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モーツァルトのカルテットはどちらかというと渋い存在ですよね。あまり話題にならないですし・・・私はハーゲンSQを所持しています。アルバン・ベルクのはEMIのしか知りませんでした。

2005/10/9(日) 午後 8:43 megumegu0565

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shogoさん、モーツァルトの弦楽四重奏曲をはやらせましょう!モーツァルトの弦楽四重奏曲は渋いけど、内容と形式の完璧な結合という点で、あらゆるクラシック音楽の上に燦然と輝く作品群といってもいいと思います。

2005/10/10(月) 午前 0:12 gustav

モーツァルトのいいところは、声種問わずに歌えるところ…ものすごく勉強になるとはいったものの、シンプルすぎる私の声は、モーツァルト・スーブレットが限界…でもいいんです。歌って歌って歌います☆甘

2005/10/10(月) 午前 2:10 天谷 甘

こんにちは、コメントありがとうございました!モーツァルトが私と同じ年の時に書いた曲なんて・・・・やっぱり天才!と改めて感動です。曲の背景にある作曲家の人生を探るとまたその曲が、ちょっぴりよくわかるきがしますね。

2005/10/10(月) 午前 9:46 [ さら ]

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甘さん、スーブレットというと「フィガロ」のスザンナとか?いいですねぇ、表情豊かでコケティッシュでチャーミングで…大好きです。モーツァルトが歌えるなんて羨ましい!こちらは「フィガロ」とか「魔笛」とかを一生懸命聴くばかりです…。がんばって下さい。

2005/10/10(月) 午後 2:22 gustav

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さらさん、北海道で先生をなさっているんですね。学級日誌とか日々の子どもとのやりとりがほのぼのしていて(時に大爆笑)いいですね。音楽はこれからだそうですが、これから冬に向かって、チャイコフスキーとかのロシア物が北海道の風景にきっとあうんじゃないかなぁ。またぼちぼち紹介していくので、時々覗いてやって下さい。

2005/10/10(月) 午後 2:30 gustav


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