クラシック歳時記in松本 (あるいはモーツァルトとともに1年を)

今春発売の内田光子/テイトのCDでようやく好きになれました・・・モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

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3月4日(土)晴れ

 2月が終わってしまった。やがて春の来ることを告げるブラームスの第1シンフォニーと、春を待つロマン派の気分ということでショパンの第2コンチェルトとグリーグを紹介しただけで終わってしまった。

 特にグリーグのヴァイオリン・ソナタ第2番については書きかけということで、2月をまとめる意味で改めて稿を起こしてみたい。

 北欧ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグ(1843~1907)の作品といえば、組曲「ペール・ギュント」同じく組曲「ホルベアの時代から」などの管弦楽作品、そしてピアノ協奏曲イ短調がよく知られているが、

 私は、130曲を超える歌曲とおびただしい数のピアノ曲の小品こそが、数的にも質的にもグリーグという音楽家を考える上でより重要であると思う。

 「ソルヴェーグの歌」「きみを愛す」などの名曲で知られるの彼の歌曲は、彼の母方のいとこで優れたソプラノ歌手であった愛妻ニーナに捧げられ、また彼女の歌いぶりによって大いに広まったといわれる。

 (グリーグの歌曲の名盤としては、古くは共にバイロイトの大歌手として知られるキルステン・フラグスタートとビルギット・ニルセンのものが名高い。2人とも北欧出身というのが意味深い。最近のディスクではフォン・オッターかバーバラ・ボニーあたりだろうか。)

 ニーナは素晴らしい女性だったようだ。グリーグの音楽をこよなく愛し、夫妻とも面識のあったチャイコフスキーは「今までに彼女ほど博識な教養の高い婦人に出会ったことはない。彼女は夫グリーグのように愛嬌があり、温厚で、率直で、邪気がない。」と賞賛している。

 つまりグリーグの妻は、彼が若き日に学んだドイツはライプツィヒ音楽院にゆかりのある音楽家シューマンの妻クララのような、聡明で夫の創作の良き協力者だったのである。

 また「北欧のショパン」との異名をとるほどのピアノ曲作曲家としても重要なグリーグ。ピアノ曲に疎い自分ではあるが、その中でも重要かつ魅力を湛えていると思うのが「抒情小曲集」全10集66曲である。

 まずタイトルがいい。わが国江戸時代の俳人兼画家で、シューベルトばりの抒情的な句を遺した与謝蕪村の傑作句集のタイトル「純情小曲集」に偶然似ている。(蕪村については6/12 http://blogs.yahoo.co.jp/chikuma46/4619666.htmlを参照のこと)

 私の持っている数少ないピアノ曲のレコードの1枚がこのグリーグの「抒情小曲集」だ.。20曲の抜粋盤でピアノはエミール・ギレリス(1974年)(LP: G-MG2495)。

 「アリエッタ」作品12-1、「子守唄」作品38-1、「メロディ」作品47-2、「ノルウェーの踊り」作品47-4、「家路」作品62-6、「ゆりかごの歌」作品68-5、「昔々」作品71-1、「余韻」作品71-7などの小品、佳作が多い。

 (「ノルウェーの踊り」や「ゆりかごの歌」などは管弦楽曲にも編曲されている。)

 この小品集にグリーグの魅力の全てがつめ込まれているような気がする。すべて2,3分の短い小品。だがそれらはいずれも雪解け水のような清冽さと、清々しい抒情性を湛えている。

 まるで北国の雪原の中で、遠い春の訪れを静かに待つ人々の心のように、あるいは2,3000m級の山々の上で雪と氷に閉ざされた冬の長さに耐えながら、ほんの短い春(夏)をひっそりと待つチングルマやチシマギキョウのような高山植物の花の可憐な姿のように。

 (グリーグの曲の持つ可憐さを、高山植物の花にたとえた例えは、我ながら秀逸なのでは…と思う。北アルプスの山上に咲く高山植物は、ほかでは同じく春(夏)が短いという点で北欧や北極圏に近い低地でのみ咲くのだ。)

 そんな北国で遠く春を待つ音楽のイメージということで、以前紹介したショパンとこのグリーグは季節的には「2月の作曲家」と呼んでみたい。

 ともにポーランドとノルウェーという欧州の中では、雪深い、そして極寒の地を故郷とするからこそ、春を待ち望む気持ちが人一倍強いことが音楽にも反映されているような気がしてならない。

 さてヴァイオリン・ソナタ第2番である。歌曲とピアノ曲の作曲家グリーグの遺した室内楽曲は、ピアノ五重奏曲が1つと弦楽四重奏曲が少々、そしてチェロ・ソナタが1曲とヴァイオリン・ソナタが3つと少ない。

 そのうち今日紹介するヴァイオリン・ソナタ第2番は作品番号13。有名なピアノ協奏曲イ短調作品16が彼が25歳の、ニーナとの蜜のような甘い新婚時代に作曲されたことで知られているので、その少し前、彼の作品としては比較的初期の若い頃の作品ということになる。

 他の2曲のソナタと比べると、ノルウェーの地方舞曲や民謡を主題に選んだ旋律で「舞踏ソナタ」の愛称もあるという。

 いずれにせよ、控えめ、慎ましやかな抒情が持ち味のグリーグにしては、珍しく内に秘めた情熱、情念をはっきりと顕わにした極めて印象的な作品である。

 第1楽章。ピアノの控えめな物憂げな伴奏に導かれて、冒頭からヴァイオリンが秘めた想い、秘めたる情熱をぶつけるかのような激しい感情表現を見せる。こんなに激したグリーグの音楽は聴いたことがない。

 レコードで聴くシトコヴェツキーのヴァイオリンは、聴く者の胸を鋭くえぐるような、極めて実在感、緊張感のある音色だ。(ドミトリー・シトコヴェツキーのVn、ベラ・ダヴィドヴィッチのPf(1982年)(LP: ORFEO S 047831-A))

 そして短調ながら人なつこい、懐かしさを呼ぶ民謡調の第1主題が出る。小刻みに震え、揺れるヴァイオリンの音。それを静かに支え、奥ゆかしく合いの手を入れるピアノ。

 人なつかしさがグリーグの作品にしては珍しく、一種のバタくささに感じられる感もあるが、あくまで素朴で、しばらく聴いていると、耐えて春を待ち、一瞬の春(夏)に命を懸ける可憐な高山植物のような音楽にやはり聴こえてくる。

 第2楽章。やはり短調の緩徐楽章。一度聴いたら忘れられない、人なつこく哀愁の漂う付点音符の民謡調旋律がピアノに出る。主旋律がヴァイオリンに移ると、一層粘っこく、えぐるような泣き節になる。

 中間部はさすがに長調に転じ、グリーグ本来のつつましく、けなげな抒情性を持った明るい曲想に変わる。微かな陽光のような、または慎ましい幸せを音楽にしたような。

 もう一度短調の主題が戻り、繰り返されて楽章は閉じられる。

 第3楽章。弾むような付点リズムのピアノの伴奏に乗って、ヴァイオリンがノルウェーの踊りのような快活な長調のテーマを弾き、ラストは後年のR・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタに酷似したドラマティックな終わり方で曲を閉じる。

 全曲を通じてノルウェー舞曲風の付点リズムが印象的な、躍動感、そして生命感に満ちた、すこぶる実在的な、抒情詩人としての作曲家グリーグの存在証明のような曲である。

 演奏は先ほどのシトコヴェツキーのVnを紹介する。彼はバッハのゴルトベルク変奏曲を室内楽用や弦楽オーケストラ用に編曲するなど(7/29のhttp://blogs.yahoo.co.jp/chikuma46/8070987.html参照)、実在感のあるVnの音色とともに、その意欲的な活動に期待しているヴァイオリニストの一人だ。

 CDではオーギュスタン・デュメイのVn、マリア・ジョアン・ピリスのPf。1993年録音の演奏を聴いています。(UCCG-4227)

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グリーグのvnソナタはなぜ有名にならないのか不思議ですよね。民族的なリズムとメロディ、人好きのする感傷的なメロディとドラマティックさ。わたしが持っているのは広く聞かれているだろうデュメイです。あと3番のみグリュミオー。ところでイタリアに行っておられたんですね。このところ、コメをいただいた人のところくらいしかお邪魔できていなかったので、知りませんでした。いい旅だったようでなによりでしたね!

2006/3/4(土) 午後 8:17 zar*th*s*rafu*i

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こんにちは。グリーグの作品集は、USENのSOUND PLANETが特集を組み 一ヶ月間にわたって流していました。グリーグもいいですよね。 詳細な解説、ありがとうございます。勉強になりました。

2006/3/4(土) 午後 8:53 [ ple*neb*8 ]

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ふじやんだけでなく、多くの人がグリーグのVnソナタの魅力をコメントしてくれます。やっぱ「隠れた名曲」の1つといえますね。この「クラシック歳時記」のコンセプトの1つに「隠れた名曲」の紹介という側面があるので、今回は嬉しい限りです。

2006/3/4(土) 午後 9:21 gustav

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hitsujiさん、USENのグリーグ特集はいつだったんでしょう?もし先月2月だとしたら、「2月の作曲家」と考える僕のグリーグ観と一致するということで嬉しいですね。NHK-FM「ミュージック・プラザ」でも最近グリーグの曲をわりと採り上げてましたよ。

2006/3/4(土) 午後 9:27 gustav

グリーグはあまり聞かないのですが、ペールギュントは好きな曲です。冬っぽいといえば、そういう感じがします。季節で考えたことがなかったので、新鮮な感じがいたします。(^^。)

2006/3/5(日) 午後 8:08 cla*aa*g*laj*

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クララさん、ペール・ギュントは山国に住んでいると、すごい共感を感じる音楽です。あと「ソルヴェーグの歌」やっぱいいっすね。グリーグの抒情の世界にはまります。

2006/3/5(日) 午後 9:17 gustav

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グリーグはVnソナタもVcソナタもいいですねー。オーケストラ作品は豪快な作品が多いですけど、しんみり調の室内楽やピアノ曲もいいですね。同時代の作曲家と比べてみても、どろどろしたものがないので日常的に安心して聴ける作曲家ですね。

2006/3/6(月) 午後 5:24 megumegu0565

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社会人になって、オーケストラ作品よりも、しみじみした室内楽を好むようになった僕にとって、グリーグは近代フランスの作曲家と並んで、珠玉のような大切な存在です。でもVcソナタはまだ未聴です。

2006/3/7(火) 午後 11:43 gustav

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グリーグは私もあまり知らないのですが、演奏会のアンコールで過ぎ去りし春を弾きました。あまりに美しく、聞きにきてくれた友人達も感動してくれました♪

2006/3/9(木) 午後 10:35 [ mim*v*olin ]

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ミイさん、はじめまして。ヴァイオリン初心者というわりに、大変技術面に造詣が深いですね。「過ぎ去りし春」は詳しく知らないのですが、グリーグの歌曲またはピアノ曲が原曲ですかね。彼の作品はどれも旋律が綺麗です。バイオリン・ソナタ2番もし未聴でしたら、是非聴いてみて下さい。

2006/3/9(木) 午後 11:02 gustav


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