クラシック歳時記in松本 (あるいはモーツァルトとともに1年を)

今春発売の内田光子/テイトのCDでようやく好きになれました・・・モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

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5月16日(月)快晴

 信州の4月の風景に合う作曲家がシューベルトならば、5月のそれはシューマンだと思う。

 二人は同じ19世紀ドイツロマン派を代表する音楽家だが、シューベルトの方がちょっと先輩(13歳早く生まれている)。一回り違うという感じ?

 シューベルトは1797年生まれだから正確には18世紀生まれ。シューマンは1810年だから正真正銘の19世紀の人。

 ともにロマン派ということで、ひとくくりにされがちな二人だが、このちょっとした違いが両者の特徴を分けている気がする。

 シューベルトは、辛うじてモーツァルトの生きた18世紀の空気を吸った。だからウィーン古典派の名残りを少し持っている。

 彼の交響曲第5番などを聴けば、彼が正しい意味でのモーツァルトの後継者であることが分かる。

 一方で彼は19世紀を生きた。ベートーベンとともに。

 したがって彼の汲めども尽きぬメロディーメーカーとしての才能は、モーツァルトのように古典派音楽の形式の中には納まらずに、自由に,自分の心の赴くままに数多くの作品となった。

 一方シューマンは最初からロマン派の音楽家としてスタートした。

 教養豊かな家庭に育った彼は、当時のカントやシェリングのドイツ哲学、ハイネなどロマン派文学者の詩や文学の素養を十分に持ちながら、またライプツィヒ、ハイデルベルク両大学で法律を専攻し、法律家になることを期待されながら、

 20歳の時、音楽家、ピアニストになることを決意して、ライピツィヒのヴィーク教授に弟子入りする。

 そこで猛練習する中、無理に指を長く伸ばそうとして筋を痛め、ピアニストを断念、作曲に転ずる。と同時に教授の娘で9歳年下のクララと、音楽史上名高い恋愛、教授の反対、結婚をすることになる。
 
 ここで紹介する「ミルテの花」などの歌曲集は、「詩人の恋」「女の愛と生涯」などと同じく、すべて1840年という年に作曲されたものである。

 この年はシューマンが教授との10年にもわたる恋愛闘争に勝利して、ついにクララと結婚した年である。そしてこの年は、それまでほとんどピアノ曲しか書いていなかったシューマンが百曲近い歌曲を次々に作曲した「歌の年」として名高い。

 おそらく彼のそれまでの文学的素養とクララへの愛が成就した喜びが、まさに堰を切って溢れ出た「ロマンの結晶」だろう。

 歌曲集「ミルテの花」はその1840年、クララとの結婚を夢見ながら作曲され、まさに結婚式の前夜、妻となる人に捧げられた。


  第1曲「献呈」(君に捧ぐ)


          あなたは私の心 私の魂 私の喜び、そして私の悩み
          あなたは私が生きる世界 私がただよう大空
          あなたは私の嘆きを永遠に埋める私の墓

          あなたは私の安らぎ 私の平安
          神により私に授けられたもの
          あなたに愛されることにより、
          私は私にとって価値あるものとなり、
          あなたの眼差しが私を私自身に明らかにする
          あなたは愛によって私を私以上のものに高める (リュッケルト詩)


  第3曲「くるみの木」


         家の前に一本のくるみの木が青々と茂り
         匂いたちながら軽やかに葉のむらがった枝を差し伸ばしている
         
         枝にはたくさんの可愛らしい花がついていて
         それを心込めて抱こうとして、柔らかな風が訪れる

         花は二つずつ対になってささやき交わす
         くちづけのために優しく身をかがめ、小さな頭を寄せ合いながら
 
         花はささやきあう ひとりの少女のことを
         夜も昼も 自分でもわけが分からずに もの想いにふけっている少女のことを
        
         花はささやきあう その本当にかすかな言葉が誰に分かるだろう
         ささやくのは花婿のこと やがて来る年のこと

         少女はその枝のさやぎに うっとりと聞き入り
         あこがれと空想を胸に微笑みながら 眠りと夢に沈んでゆく(モーゼン詩)


  第7曲「はすの花」


         はすの花は 燃えさかる太陽をおそれて
         うなじを垂れて夜を待つ 夢見ごこちに
    
         月こそは はすの恋人 その光に はすは目覚め
         いそいそとヴェールを脱いで つつましい顔をあらわす

         花開き 燃えたち 光を放ち 
         はすは言葉もなく 空を見つめる
         はすは匂い はすは泣き はすはおののく
         愛と 愛のせつなさのゆえに     (ハイネ詩)  (訳は西野茂雄による)


 この「ミルテの花」の3曲と、リュッケルトの詩による「ジャスミンのしげみ」を続けて歌っている、エリー・アメリングの可憐な歌声が聴けるレコードを紹介しよう。(ピアノはイエルク・デムス)(エリー・アメリング シューマン歌曲集 EMI EAC-70224)

 ドイツリートの第一人者エリザベート・シュワルツコップの端整な歌よりも、20世紀後半を代表する男声歌手ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウの知性的な歌唱よりも、僕にはシューマンのクララへの満腔の想いが伝わってきて、好ましかった。

 なぜシューベルトは4月で、シューマンは5月なのか?

 4月は確かに草木の花々が咲き、華やかな好ましい季節だ。しかし5月の木々の新緑には、花の季節にもまして、怖ろしいまでの生命の輝きがある。

 そしてそれを見る僕たちの心に、抑えようとしても抑えきれない生命の躍動を感じさせる。

 人を愛することの歓びを、生きていることの証を、天に向かって叫びたい。そんな青春の残滓が自分の中にもあることを、1年の中で最も強く感じさせる季節だからではないだろうか。     

            
 「万緑の中や 吾子(あこ)の歯 生えそむる」( 中村草田男)


        

        

        

 
 

閉じる コメント(8)

これ3つとも大学時代に歌いました。うん。思い出の曲かなぁ・・・とっても難しいけどとっても美しい曲ですよね。「献呈」をもしも好きな男性に歌ってもらったら・・・・ますます惚れるかもしれません・・・

2005/5/18(水) 午後 10:54 ちさ

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僕はやっぱり小鳥が囀るようなソプラノで聴いてみたいなー。

2005/5/19(木) 午前 8:39 gustav

なるほど。くるみの木やはちすの花は確かに女性の方が可愛らしいかもしれませんね。歌うの難しいんですけどね。先生に下手。といわれ続けた4年間・・・・とほほ。

2005/5/19(木) 午後 10:35 ちさ

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ちささんの「くるみの木」ぜひ聴いてみたいです。

2005/5/31(火) 午前 0:50 gustav

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「ミルテの花」はどの曲も好きですが、「はすの花」は特にシューマンらしくて大好きです。和音の変化をよーく聞いていると、お月さまが顔を出したり隠れたり、見えそうで見えなかったり光が漏れたり、という様子がよくわかります。「天地創造」の本番が終わったら歌ってみようと思います。

2005/10/2(日) 午前 11:38 [ - ]

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pyangumさん、和音の変化で月の光の有無を表わしていたなんて、全然気づかなかったなぁ。シューマンの繊細さと心ある女性に人気の秘密が少し分かったような気がします。はすと言えば中国唐の王涯の「秋思」という詩に「一夜軽風蘋末(ひんまつ)に起こり、露珠翻り尽く満池の荷(はす)」というのがあります。洋の東西を問わずはすは月の恋人のようですね。

2005/10/2(日) 午後 0:25 gustav

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きましたよ!!!!献呈:よく伴奏しました。いいですよね。ミルテの花は、希望!!私はどちらかというと、シューベルト古典派のような。内容はロマンですが。

2006/6/2(金) 午前 2:45 Miyako

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Miyako先生、せっかくお訪ねいただいたのに更新遅れてて、すみません。でも昔の記事にコメントしてもらえるのは、とても嬉しいです。このシューマンの記事の頃から、コメントがふえてきたのですが、シューマンが女性に人気があるのにびっくりしました。それだけシューマンの歌曲は声楽の方にも、ピアノの方にも魅力があるんですね。僕にとっては再発見でした。

2006/6/2(金) 午後 9:31 gustav


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