|
6月10日(金)曇りのち雨
ようやく梅雨に入って、ほっとひと息。というのも、急に湿気が多くなってきたのに雨がまだ降らないので、蒸し蒸しして気温も高い梅雨入り前の数日というのが、1年で一番身体に応える時季だから。双子座生まれのくせして、5月はともかく6月のこの時期はどうも苦手なのです。
さて日本における「第5の季節」ともいわれる梅雨の時季も、少々湿気が多く、蒸し暑いというのに慣れてくれば、案外クラシックを聴くのには良い季節といえましょう。
雨が降ってれば30度の真夏日ということはないし、外にも出られず、ひとり室内でじっくりとレコードに針を下ろしたくなる。(さすがに古い表現ですね)何よりも空気がしっとりとしているのがgood!(しっとりしすぎという声もありますが)
そこで、約1ヶ月に亘るこのシーズンの幕開けに何を聴こうか、と思う間もなく頭に浮かんできたのが、メンデルスゾーンのバイオリン・コンチェルト、通称メンコンのあの冒頭のメロディ。
それはちょっと安易というか、あまりにも通俗的ではないの?とお叱りを受けそうである。そう、確かにこの旋律はあまりにも有名で、クラシックをさほど知らない人でも誰でも知ってる。あまりに感傷的でおセンチでちょっと演歌っぽい。そういう点、ジャンルは違うがあのイーグルスの「ホテル・カルフォルニア」みたいな曲ですね。
あまりに印象的なメロディなので、いつまでも耳にこびりついて離れない。ドボルザークの「新世界」のように、クラシックの曲を挙げなさいといった時に殆どの人が真っ先に思い浮かべるのだが、そのくせそこから一歩も前へ進むことができない、思考停止にさせてしまう曲。
こんなに悪口と思われるような言葉を並べながら、なぜ、なおかつこの曲を採り上げるのか。それは
この曲に代表される6月の作曲家(と勝手に私が考えている)メンデルスゾーンの音楽の特徴である、ある種の艶っぽさ、しっとり感がこの季節にマッチしていると思うからだ。
この曲に限らず、「スコットランド」や「イタリア」「夏の夜の夢」などメンデルスゾーンの管弦楽曲は、シューベルトやシューマンなど他のロマン派の作曲家に比べても、その艶やかさ、しっとり感が際立っているように思える。
そう感じるのは彼の作品の、特に弦の音が湿っているというか、濡れているというか、要するにしっとりとした印象を与えるのだ。
バイオリンなどの弦楽器のつややかな音を聴くのを、無上の快楽と考えている自分にとっては、その弦の音がガサガサに乾いていたのではクラシックを聴く魅力も半減してしまう。もう20年以上聴き続けているタンノイのスピーカーがそういう音を出すのを得意としているということもあるだろう。(このタンノイは事実、湿気に敏感だ。何日も晴天が続くと、音が気持ちガサついてくるのが分かるし、それが1日雨が降っただけで、急にしっとりした音を出す。まるで生き物のようだ、と感じる時がある。)
ではなぜメンデルスゾーンの作品では、弦楽器のつややかさが際立つのか?
ひとつには彼の経済的な裕福さも関係があろう。声をあげていらだったり、貧しさにどこか世間に逆恨みするような思いを持って作曲する必然性が全くない彼の作品は、終始穏やかで安定していて、健康なロマンティシズムが、古典派といっても良いようなバランスのとれた形式の中にきちんと収まっている。
「彼は19世紀のモーツァルト、最も明るく澄みきった音楽家である。彼は時代の矛盾を最もはっきりと見抜き、そしてまず初めにそれらを融和するのである。」(ローベルト・シューマン)
その、彼が空気のように身につけていた幸福感が、技術的には弦楽器の音に現れるのである。なぜか?
それは、私見だが、彼は12歳の誕生日に小編成ながら弦楽器主体のオーケストラを父からプレゼントされている。実際14歳までに「弦楽オーケストラのための交響曲」を12曲もつくっている。今日では滅多に演奏される機会はないが、これらの習作を経て、後年の5つの偉大な交響曲が生まれた。
つまり、彼は自分のオーケストラを持つという、当時としては考えられない恵まれた環境の中で作曲をすることができ、特にそれが弦楽器オーケストラであったために、いかに効果的に美しく弦を鳴らすかということについて、他の作曲家に比べて断然習熟することができたということは言えるのではないでしょうか。
この曲の魅力、それは旋律の親しみやすさ以上に、独奏バイオリンのみならず、オーケストラの弦セクションの、絹のようなつややかな音色にある、と思うのです。
演奏はLPではヘンリク・シェリングのバイオリン、ベルナルド・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を、(PHILIPS X-7762)またCDではナージャ・サレルノ・ソネンバーグのソロのものを聴いています。(EMI TOCE-13025)
シェリングとソネンバーグでは正反対のバイオリニストではないか、と思う方も多いと思います。
事実そのとおり。シェリングは謹厳実直に、まるでバッハを弾くように一字一画揺るがせにせず、あるがままをあるがままに弾く、「楷書」のような演奏。
一方ソネンバーグは感情の赴くままに独自のメンデルスゾーンを弾きまくる「バイオリンのアルゲリッチ」。
一般論はこうだと思うのですが、「百聞は一聴に如かず」。実際私はシェリングの盤ではむしろ彼の美音を楽しみ、ソネンバーグは初録音(1987年)ということもあって、意外におとなしい演奏をしています。「一般論」によって先入観を持つことなく、自分の耳を信じてレコードを楽しむことの重要性を痛感した事例です。
|
この曲、中条きよしの「うそ」っていう歌に似てますよね!確かに演歌みたいです(笑)。「バイオリンのアルゲリッチ」聴いてみたくなりました。
2005/6/11(土) 午前 9:41
奥さんに今日の記事読ませたら「ぴんからトリオとか演歌とかあんまり言うと、この曲好きな人怒るよ。」といわれ、反省。ぴんからトリオは削除しました。ソネンバーグは実演がすごい!CD録音ではいまいちその凄みが伝わってこないのが残念です。
2005/6/11(土) 午前 10:08
>空気のように身につけていた幸福感。ものすごく納得しちゃいました。何となく、「悲愴」が似合わないんですよね。メンデルスゾーンって。ふむふむ。勉強になります・・・
2005/6/11(土) 午後 4:36
イーグルスの「ホテル・カルフォルニア」良いですね!。GUSTAVさんのブログでこの曲が出るとは、思いもよりませんでした。ところで、我がJBLも湿気には弱く、梅雨時はイマイチです。エーと、僕はメンデルスゾーン・バイオリン協奏曲はヴェンゲロフです。シェリングは持っていますが殆ど聴きません。ソネンバーグは聴いていません。 CDしか聴けないシステムだと、どうも録音主義になっていけませんね。
2005/6/11(土) 午後 7:19
自分にないものを求めるときはメンデルスゾーン聴きます。特に弦♪幸福感か〜
2005/6/11(土) 午後 8:11 [ gnadejp ]
本当の幸福感って何でしょう?(モーツァルトのクラリネット五重奏曲のところで取り上げてみようと思っているのですが。)メンデルスゾーンの幸福感というのは影がないので、少し薄っぺらく、深みに欠けるきらいがあるように思うのです。
2005/6/11(土) 午後 10:32
メンデルスゾーンは来年で生誕200年になるので,しばらくはメンデルスゾーンの曲を聴く機会が多くなるかもしれませんね.
38歳という若さで亡くなったせいでしょうか,この曲を聴くとホタルの一生のようなはかなさを感じることがあります.
2008/6/7(土) 午後 10:31 [ sir*n*21* ]
そうですか、来年で生誕200年!それを機会にメンデルスゾーンはもっともっと聴かれてよい作曲家だと思います。ブログには書けませんでしたが、この外にも「弦楽五重奏曲第2番」や「八重奏曲」「無言歌」など6月に載せたかった曲がたくさんあります。日本ではやや評価が低い気がします。「薄幸」ではなかったからでしょうか?
2008/6/7(土) 午後 10:45