クラシック歳時記in松本 (あるいはモーツァルトとともに1年を)

今春発売の内田光子/テイトのCDでようやく好きになれました・・・モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

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 2007年 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 さて2006年モーツァルト・イヤーは終わったのですが、このブログはもう少し「モーツァルト…」の看

板を掲げたいと思います。

 商売柄、1年というとどうしても4月から始まり、3月に終わる「年度」の感覚が沁みついていることと

またサブタイトルでも「クラシック音楽歳時記」と謳っているので、春ー夏ー秋ー冬 やっぱり春から

1年は始まるということで、このタイトルのブログも昨年4月から始めていますので、なんや時機遅れやな

ぁと思われるかも知れませんが、3月までどうぞおつきあい下さい。

 ところで年末まで受け付けていた第2回投票「モーツァルト晩年の作品でお好きな曲は?」投票ありが

とうございました。結果は


       レクィエム ニ短調 K.626          10票

       ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595   9票

       歌劇「魔笛」 K.620              8票

       クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581    6票

       クラリネット協奏曲 イ長調 K.622      3票


                                   ということになりました。

 いずれ劣らぬ傑作ばかりで順位は意味がないのですが、それぞれの曲への思い入れを聞かせていただき

たかったわけでして、強いていえば27番が最初に肩入れしたせいか、高得点だったのが特徴でしょうか。

 さてこの中で前回クラリネット協奏曲を書いたので、今日はクラリネット五重奏曲のことを書きます。

            ******************************

 「ブラームスのクラリネット五重奏曲の、あの晩秋の憂愁と諦念の趣きは実に感動的で、作者一代の傑

作のひとつであるばかりでなく、十九世紀後半の室内楽の白眉に数えられるのにふさわしい。けれども

そのあとで、モーツァルトの五重奏曲を想うと、『神のようなモーツァルト』という言葉が、つい口元

まで出かかってしまう。何という生き生きした動きと深い静けさとの不思議な結びつきが、ここにはある

ことだろう。動いているけれども静かであり、静穏のなかに無限の細やかな動きが展開されている。

 一つ一つのフレーズは、まずは十八世紀のごく普通のイディオムで語られているのだが、何ともいえぬ

気品があり、雅致がある。あすこ(ブラームス)には、人間の運命に対する省察と諦観があったが、ここ

(モーツァルト)には自由がある。かわいそうなブラームス!(後略)」(吉田秀和の文章から)

 若い頃読んだ吉田秀和の文章だが、確かに今、あまたあるモーツァルトの作品の中で「神のようなモー

ツァルト」と形容したくなるのはこの曲だ。

 考えてみれば、モーツァルトが創作したジャンルの中で最も充実している(と僕が思う)弦楽四重奏に

晩年モーツァルトが最も愛した楽器クラリネットが絡んでゆくこの曲が素晴らしいのは当然かも知れない

 この曲は死の2年前、1789年9月に完成し、クラリネットの名手にしてフリーメーソンの盟友シュタード

ラーに捧げられた。

 第1楽章 アレグロ  柔らかく美しい第1主題が弦によって奏でられると、導かれるようになめらかに

クラリネットが滑りこんでくる。次いで(1:27〜)弦に現れるホ長調でありながら淋しげで翳のある第2

主題とそれを支えるチェロのピチカート。それを受けてホ短調で応えるクラリネットの哀愁の調べ。

すべてに破綻がない。あるべき音がすべて最初からあるように予定調和的にそこに在る。まさに「神のみ

わざ」と半ば呆然としているうちに、不意に最初のテーマが現れて楽章が閉じられる。

 第2楽章 ラルゲット  長い長いクラリネットのモノローグのあと、クラリネットと第1ヴァイオリン

が静かな対話を繰りひろげる緩徐楽章。モーツァルトが作った最も美しい旋律のひとつ。微笑んだ女性の

瞳にひっそりと浮かんだ涙…。クラリネットの物憂げでそれでいて官能的な響きがいつまでも、いつまで

も永遠につづくかのよう…。言葉にしたら「幸福」?そう、それは言葉の本当の意味での幸福を現わして

いる。なぜって若い時にはあまりそう思わないのだが、ある年齢を境にして人は気づくようになるのだ。

幸福はいつ壊れるか分からない。幸福というものは決して長くは続かないものだ、ということを。

だからこそ今ある幸福が身に沁みて感じられると。

 1965年のフランス映画「幸福」。女性監督アニエス・ヴァルダが作ったこの映画でも日曜日、美しい自

然に包まれて家族が揃ってピクニックに行く「幸福」そのものの場面のバックに流れていたのがこの曲

だった。(ただし第1楽章)その後夫に若い愛人がいることが分かり、映画は暗転していく。ヴァルダは

幸福の何たるかを知ればこそ、モーツァルトのこのひたすら美しい音楽を使ったのだろう。

 第3楽章 メヌエット 第4楽章 変奏曲のフィナーレ を含め、この曲を聴くと静けさの中の満ち足り

た空気に包まれた秋の日の黄昏を思わずにはいられない。

 演奏はLPではザビーネ・マイヤー(cl)の旧盤(1982年)フィルハーモニア・クヮルテット・ベルリン

(OF-7053-ND)。CDではそのマイヤーのハノーヴァー音楽大学での師にあたるハンス・ダインツァーが17

90年製のクラリネットを使ったコレギウム・アウレウムの演奏(1976年)(BVCD-38051)

 特にザビーネ・マイヤーのLPは大学卒業時、田舎教師として郷里に帰る私に、後輩のG君が餞別として

新宿駅のホームで手渡してくれたレコードで懐かしい。G君はその後共同通信記者として、アラブ、フラ

ンスに長く駐在し、後年岩波新書から「シラクのフランス」を上梓するなど活躍している。


 「今日のわれわれには、モーツァルトのように美しく書けなくなってしまった。われわれにできるのは

ただ彼が書いたのと同じくらい純粋に書くように努めることだ。」(ヨハネス・ブラームス)







 

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kazuさん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。糸魚川は大雪なんじゃないでしょうか。こちらもだいぶ降りました。この雪の中、お互いドヴォルザークを聴いていたのは偶然でしたね。こちらは記事にしようとしたらエラーになってしまい、更新できません。残念!

2007/1/7(日) 午後 10:17 gustav 返信する

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グスタフさん、明けましておめでとうございます。 モーツァルトの晩年作品のアンケートでお邪魔させていただいた者です。 この曲の第2楽章はクラリネット協奏曲の第2楽章と並んで、もう奇跡の音楽というしかないですね。アンケートでは本当に迷いました。 (ちなみにこの五重奏曲は個人的には弦楽五重奏曲と書法がそっくりな気がします。) 全然関係ない曲なんですが、リタニアニ長調K195のアニュス・デイを聴きながら書いてみました。これもイイ曲ですよ〜。

2007/1/8(月) 午前 0:39 [ bun*hou**01 ] 返信する

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モーツァルト晩年の名曲ですね。「晩年」の曲だからなのかもしれませんが、いっそう『神』に近くなっているような気がします。ここでの「幸福」とは、バラ色のものではなく、困難を乗り越えた後の「幸福」だという気がします。黄昏の美しさ、幸福をうまく語れるような曲、本当に素晴らしいです。

2007/1/8(月) 午前 7:52 そにあ♪ 返信する

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bunchouさん、今年もよろしくお願いします。宗教音楽は疎くて、昨年やっと「戴冠式ミサ」の素晴らしさに開眼したばかり。リタニアK.195ですか。今度手に入れて聴いてみたいと思います。

2007/1/8(月) 午後 3:13 gustav 返信する

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たぶさん、よく言われることですが、モーツァルトのような天才が、晩年に達してさらなる進歩、進化を遂げたことに驚嘆します。Cl五重奏曲K.581、Pf協奏曲27番K.595以降のモーツァルトの作品は本当にすごいですね。そのあたりの作品について、自分でまだまだ語り足りていないような 気がします。

2007/1/8(月) 午後 3:19 gustav 返信する

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この曲は、高校時代聞いた始めての室内楽曲で(父が持っていたランスロのLPで)、室内楽を聞くようになったきっかけでありました。10年以上のちにこの曲の深みを感じた時、こんな曲がきっかけだったとはと、奇妙な驚きがありました。/今はあまり聞かなくなりました。畏敬の念みたいなものを感じてしまって、聞き流しで気軽にCDラジカセにポンとCDを入れる、というような曲ではないわけですね。でもこの記事に触発され、ちょっと聞きたくなりました!

2007/1/12(金) 午前 9:44 fal*t*ffa* 返信する

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あつさん、新装開店おめでとうございます。また登録ありがとうございました。ランスロですか。思い入れがありそうですね。僕はそのまた一つ前の世代のウラッハ/ウィーン・コンツェルトハウスSQを是非聴いてみたいと思います。CDも新しく出たようですしね。

2007/1/12(金) 午後 9:20 gustav 返信する

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曲に畏敬の念を感じるのであって、ランスロの演奏ではないですよ。長い間ランスロの演奏は聞いていません。わたしもやはり定番ながらヴラッハが好きですね。昨日触発されて聞いたのはヴラッハでした。

2007/1/13(土) 午後 2:28 fal*t*ffa* 返信する

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僕も定番のウラッハ/ウィーン・コンツェルトハウスSQの盤を買ってみようと思います。あつさんの店にあればすぐ注文するのですが。

2007/1/14(日) 午後 3:20 gustav 返信する

クラリネット協奏曲では手持ちCDにパイヤール盤、ホグウッド盤、コレギウム合奏団盤がありますが、この曲の雰囲気が好きなのか意外と多く持ってました。いずれも好きな盤です。コレギウムに関しては数少ないデジタル録音ですが、71年と80年代に入ってからと3回録音技術が変わってるのが興味深いです。

2007/1/14(日) 午後 5:44 まなべえ 返信する

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manabeeさん、お久しぶりです。この中ではコレギウム盤を持っています。クラリネットはザビーネ・マイヤーの師、ハンス・ダインツァーがバセット・クラリネットを吹いていますね。そのせいか低音が良く響きますね。録音の違いというのは、残念ながらあまりよく分かりません。

2007/1/14(日) 午後 5:57 gustav 返信する

ご無沙汰しておりましたm(__)mコレギウムは71年を境に(独)ソノプレス社から(伊)ソナルト社に録音技術者共々変更しているようで、70年までのまとまりのある渋い音質から、残響のよさは引継ぎ、特に弦楽器に関してですがクリアな音質に変わったように思います。デジタル録音はちょっと音が硬いですね。オーセンティックな楽器はアナログの方がしっくりきます。

2007/1/14(日) 午後 9:20 まなべえ 返信する

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manabeeさん、大変良く分かりました。ちなみに僕のコレギウム・アウレウムのベスト盤は1982年録音のMozartセレナード第5番K.204(特に管楽器)、弦楽器では1972年のアイネ・クライネ・ナハト・ムジークかな。共にフッガー城糸杉の間ですね。もちLPで聴いています。あぁ、α波がとめどなく流れる…。それにしてもmanabeeさんは何故そんなに録音技術関係にお詳しいんですか?(尊敬)

2007/1/15(月) 午後 8:52 gustav 返信する

いえ、とてもとても詳しいなんてもんじゃないですよ^^;元々オーディオに興味があるだけです。(たいした機材はないですが。。。)たくさんあるコレギウムのLPやCDを聴いていて、年代で録音状態が違うのに気付いたんです。どの年代も豊かな残響の良い音なんですが、(どうやらLPのカッティングはかなり技術のある有名な方らしいです)時々小鳥のさえずりが聴こえたり、癒し効果抜群ですよね^^サイコーです。

2007/1/16(火) 午後 10:23 まなべえ 返信する

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manabeeさん、ありがとうございます。私以上のコレギウム・ファンでいらっしゃるみたいで、嬉しくなります。manabeeさんの好きな演奏・録音はどの盤(LP・CDどちらでも)ですか?参考にお聞かせ下さい。未聴盤だったら是非手に入れて聴いてみたいと思いますデス。

2007/1/16(火) 午後 11:00 gustav 返信する

コレギウム合奏団のモーツァルトでは主要曲はほとんど録音してますし、GUSTAVさんも未聴盤はないのではないですか?^^どの盤も好きなんですが、自分が初めてコレギウムの演奏を聴いたP協奏曲27番は古楽器演奏の美しさを教えてもらった曲として今でも大好きです。この曲からコレギウム合奏団の演奏にはまっていきました。モーツァルト以外ではベートヴェンP協奏曲4番や交響曲7番も好きです。出来たらモーツァルトのVN協奏曲が聴いてみたかったです。

2007/1/18(木) 午後 11:49 まなべえ 返信する

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それがmanabeeさん、去年モーツァルト・イヤーで再発売された3枚組みのシリーズ、Pf協奏曲集だけはどれも他の演奏で持っているからとパスしてしまいました。そうですか、27番そんなに良いですか!じゃぁこれからまた探して手に入れたいと思います。それからベートーヴェンの7番、LPで聴いていますが、フルートなど木管のとぼけた味わいの音色がたまりませんね。最高です。こちらもPf協奏曲の4番を探して見なければ!

2007/1/19(金) 午後 9:53 gustav 返信する

正直デムスのピアノは癖があるので好きではないのですが、フォルテピアノの古風な響きとアンサンブルの渋さが好きで^^4番はLPがあるのですが、痛みが酷くて最近CDを買いました。BVCD-38040(BGMファンハウス)¥1500です。LPはなかなか見つからないです>_<

2007/1/21(日) 午後 2:09 まなべえ 返信する

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神のようなモーツァルト・・・簡潔な筆致にして深遠ですね。ヴェーグのディヴェルティメントについて記事をアップしました。宜しければ、覗いてみて下さい。(^^♪

2007/3/25(日) 午前 7:34 Kapell 返信する

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kapellさん、記事拝見しました。シャーンドル・ヴェーグは今までお正月FMの「ニュー・イヤー・モーツァルト」の番組でライヴを聴くぐらいで、正直軽視してました。このCD是非聴いてみたいですね。日経の文章も良いですね。この頃の「文化往来」はどなたがお書きになっていたのでしょうか。

2007/3/26(月) 午後 8:05 gustav 返信する

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