クラシック歳時記in松本 (あるいはモーツァルトとともに1年を)

今春発売の内田光子/テイトのCDでようやく好きになれました・・・モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

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 秋の紅葉も、昔は抜けるような青空を背景にした白樺の黄葉が一番好きだったが、最近は桜の紅葉がお

気に入りだ。紅葉といっても桜の場合はもみじのように紅一色ではなく、紅、茶、緑、そして黄色などさ

まざまな色が同居し織り成す微妙な変化と、その背景にシュールに存在する真っ黒な幹とのコントラスト

が楽しめる。

 今日は雨。晩秋の、秋と冬との季節を分かとうかというようなそんな冷たい雨の中、既に盛りを過ぎた

松本城のお堀の桜並木の紅葉も、この雨で歩道に散り落ち、踏みしだかれながらも、雨に濡れ光り、最後

の妖しいまでの艶やかさを見せていることだろう。そんなこの時季ならではのいぶし銀のような光景には

ブラームスのこの室内楽曲が似つかわしく思う。


         (以下2006年9月5日<速報>サイトウ・キネン・フェスより再掲)

 
 ブラームスのピアノ四重奏曲第3番は僕の好きなブラームス作品のひとつ。その最大の魅力は第3楽章

アンダンテ ホ長調 4/4。深い情緒にみちた緩徐楽章である。

 ロマンティックな旋律にあふれるブラームスの全作品全楽章の中でも、1、2をあらそう甘く切なくロマ

ンに満ちた楽章だ。

 ピアノのシンコペーションのリズムにのって、チェロが朗々と浪漫と哀切にみちた旋律を歌い上げる。

 全体を通じて、ブラームスの人生を彩った数々の魅力的な女性たちの面影が浮かんでは消え、同時に彼

女たちの誰ひとりとも最終的には決して結ばれることのなかった男の悲哀(というよりはブラームスが選

べなかったのだ。人生を賭けることができなかったのだ。)と悔恨が切々とこちらに伝わってくる。

 その理由は明らかだ。

 彼は彼の生涯を決定づけた女性、クララ・シューマンとは決して結ばれることはなかった。生涯、永遠

に思慕の対象でしかなかった。その後出会った女性たち、アガーテ・フォン・ジーボルト(弦楽六重奏曲

第2番を捧げた女(ひと))、エリーザベト・フォン・ヘルツォーゲンベルク、ユーリエ・シューマン(シ

ューマン家の三女)、歌手ヘルミーネ・シュピースおよびアリーチェ・バルビたちは、いずれもクララへ

の愛の「形代(かたしろ)の恋」の対象でしかなかったのだ。

 先程、「全体を通じて、ブラームスの人生を彩った数々の魅力的な女性たちの面影が浮かんでは消え」

といったが、それは正確な表現ではなかった。日頃LPレコードで長年聴き込み、この曲の第3楽章を実演

(2006年9月5日サイトウ・キネン・フェス ふれあいコンサート3)で聴いたのは初めてだった私の前に

やがてはっきりと見えてきたのだ。ステージの演奏者の後ろに、おぼろげながらに立つクララの姿が。


 3曲あるブラームスのピアノ四重奏曲のうちの最後、すなわち彼が42歳の時に完成したこの曲は、実は1

854年ブラームス21歳の年に3楽章形式の作品として一応の完成を見ていたのだ。

 この年、その半年前にシューマン夫妻に出会った若きブラームスの眼前に起こったこと。師ローベル

ト・シューマンの突然の自殺未遂。取るものもとりあえず駆けつけた彼の前に、6人の子と更にもうひと

りを身籠ったまま憔悴しきったクララの姿。ここから約2年、彼はひたすらクララのため、シューマン家

のために夫に代わって稼がねばならなくなったクララの演奏旅行の留守の間、子どもたちの面倒を見たり

自ら演奏旅行に同行して指揮をしたり。そして急速にクララと親密の度合いを深めていく。

 しかしその関係も1856年精神病院入院中だったシューマンが没すると、ブラームスは自らデュッセルド

ルフのクララの元を去る。35歳。14歳年上の成熟した人妻であったクララは、しかし彼にとっては美しけ

れば美しいほど、魅力的であればあるほど、思慕するだけの対象であり、その先へ一歩進むことは、北国

ハンブルク出身の内気な青年にはできなかった。自分を世に出してくれた恩師ローベルトの妻であったが

ゆえに。

 いずれにせよ、この曲はシューマンの死という悲劇、クララへの複雑な愛と思慕。それらが込められ、

ブラームス自身が「ピストルを自らの頭に向けている人の姿」と称したとされる程、あの若きゲーテの傑

作「若きウェルテルの悩み」を彷彿とさせる気分に満ちている。既婚女性(ロッテ(シャルロッテ))への

思いに悩み、自殺する青年(ウェルテル)。この曲が「ウェルテル四重奏曲」といわれる所以である。

 この曲に限らない。後年のブラームスの作品はこの世では成就しなかった彼のクララへの想いが音楽作

品となったものばかりである、といっても言いすぎではあるまい。

 そんなブラームス作品の中でもとりわけ魅力的なこの作品が、実演はもちろん、CDでもなかなか出てい

ないのは残念だ。(私の聴いているのはローマ四重奏団の録音年代も分からない古いLP。HELIODOR MH503

9)
      **********************************

 改めてこの曲を聴く。

 第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ハ短調 3/4  衝撃的なピアノの強打音。憂いに沈む弦の調

べ。シューマンの突然の自殺未遂と、取り乱しそれに振り回されるクララと、若き青年ウェルテル、いや

ブラームス。まるで私小説のような音楽だ。ピアノがシューマン、チェロとヴァイオリンがブラームスと

クララのようだといってもいいかも知れない。弦楽器は互いに惹かれあいながらも、縺れ合い悲愴なメロ

ディを奏でていく。

 第2楽章 アレグロ ハ短調 6/8   常に何かに駆り立てられるような、急(せ)かせるような、ブラ

ームスらしい、短調ながらも躍動するスケルツォである。よく聴くとあの懐古的な第3楽章ばかりではな

い。この弾むような短い楽章の中でも、ブラームスは人生の中で出会った様々な女性たちとの想い出の場

面を繰り返し回想しているようだ。 

 第3楽章 アンダンテ ホ長調 4/4    先述のとおり。

 第4楽章 アレグロ・コモード ハ短調 2/2   再び1楽章の悲嘆と、2楽章の性急さが戻ってくる。

それらの表情の表出のためにブラームスが畳みかけるように用いているのが、何とあのベートーヴェンの

<運命>の動機!それは5番シンフォニーのフィナーレのように外に向かって開放され、解決をみせるよう

に聴こえながらも、最後は、内に篭(こ)もって解決されることなく終わる。この世ではブラームスのクラ

ラへの想いが決して成就されることはなかったかのように。


 全体を通していかにも「ブラームス」としかいいようのない作品である。実演されることも少なく、CD

もあまり出ていないらしい。もっともっと多くの人に聴かれていい曲だ。(P.S.2007年DENONのCREST1000

シリーズでヤン・パネンカとコチアン四重奏団で、ピアノ五重奏曲との組み合わせで待望の廉価盤のCDが

出た(COCO-70923))

 

閉じる コメント(4)

わたしも桜の紅葉スキです♪いろどりがとってもキレイですよね☆桜並木は秋も楽しめるんだと気づかされました。ところでブラームスですが、クラシック初心者の私の中ではヴァイオリンのイメージで、ピアノとはあまり結びつかないのですが、いかにもブラームス、なピアノ四重奏、とっても気になります。CDがあまり出てないとは残念ですね。

2007/11/11(日) 午前 0:27 [ mks*eet*105 ] 返信する

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mkさん、いつもありがとうございます。そうですねー、この曲、HMVで見ても3種類でした。( http://www.hmv.co.jp/search/index.asp?target=MUSIC&category=1&adv=1&keyword=%83u%83%89%81%5B%83%80%83X+%83s%83A%83m%8El%8Fd%91t%8B%C8%91%E63%94%D4 )そうだなぁ、これから発売されるコチアンSQが良いかな?是非聴いてみて下さい♪

2007/11/11(日) 午後 6:41 gustav 返信する

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私も紅葉は一色でなく色々混ざっている方がすきです、だから完全に赤く(黄色)なる前に撮影にいきます。
ブラームスですが前にラジオで皇室のお方が亡くなった時に流れていたのが六重奏曲だったとおもいます、この曲はすぐ手にいれましたが四重奏曲は聴いたことがないと思います。 削除

2007/11/21(水) 午後 11:52 [ kirikodati07 ] 返信する

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kirikodatiさん、件の皇室の方の亡くなられた日のブラームスの弦楽六重奏曲、私もラジオで聴いた覚えがあります。意外な選曲だったから。でも1番の第2楽章だったか、それとも2番だったかは判然としませんが (^_^;)

2007/11/22(木) 午後 11:19 gustav 返信する

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