クラシック歳時記in松本 (あるいはモーツァルトとともに1年を)

今春発売の内田光子/テイトのCDでようやく好きになれました・・・モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

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 7月3日(日)曇りのち雨

 雨の降っているうちに、雨に似合う音楽の3番目を紹介しよう。

 モーリス・ラヴェルの唯一の弦楽四重奏曲。(1902〜03作)

 「オーケストレーションの魔術師」で知られるラヴェルは、意外なことに室内楽作品が少ない。ピアノ三重奏曲と弦楽四重奏曲が1曲ずつ、それに七重奏の「序奏とアレグロ」があるだけ。2曲のバイオリン・ソナタを加えても極端に少ない。

 しかしそのすべてが傑作である。「まるでスイスの時計職人のようだ」と、かのストラヴィンスキーが感嘆したという彼の職人芸的な完璧さが、そうさせたのだろう。(ちなみにラヴェルの父はフランス南部、スペインとの国境に近い小村に住むスイス人技師だった。)

 その中のバイオリン・ソナタについては4月27日のブログで触れた。そのバイオリン・ソナタの魅力として指摘した特徴の殆どがこのSQにも当てはまる。

 とにかく音楽がお洒落でかっこイイ!第1楽章を開始する途方もなく美しい旋律。ピツィカートで始まるスケルツォの第2楽章。第1楽章を回想しながら、これまた美しい緩徐楽章の第3楽章。そして生気に満ちたフィナーレ第4楽章の終わり方!

これ以上フランス的で、自身大変なお洒落だったラヴェル的に、かっこよくキマッた曲はない。例えて言えば、ジェームス・ディーンがリーバイスのジーンズを履いてキメてみせたようなもの…といえば、お分かりいただけるでしょうか。江戸時代の日本に「粋(いき)」という言葉があるが、この言葉に着物を着せて歩かせたような曲だ。

 単にフランス的というだけでなく、旋律や曲調がどことなくエキゾティック、オリエンタルでもある。

ラヴェルがフランス近代音楽家の中でも屈指のかっこよさ、ダンディズムと、オリエンタリズムを併せ持った曲を書けた理由は何だろうか。

 長じてパリの音楽院で最初ピアノを、次いでフォーレに作曲を学んだ彼が、他の同時期の音楽家と違っていた点は「彼がスペインとの国境近くの小村で、スペインのバスク地方出身の女性を母として生まれた」ということがよく指摘されるが、それ以外に二つの理由を考えてみた。

 彼の音楽の屈指のかっこよさ、ダンディズムの理由は一つには、彼が当時の音楽界では異端であり、そして殆ど無名であったエリック・サティを尊敬し、その音楽の影響を受けていたことだ。

 そのサティがラヴェルについて語ったとされる言葉。「彼は会うたびにいつも、私のお蔭を大いに被っていますと私に保証する。私の方はそれでかまわない。」

 ラヴェルはサティの「ジムノペティ」や「グノシェンヌ」を、国民音楽協会の演奏会でどんなに自分自身で演奏したかったかと回想している。そして事実1911年の協会のコンサートで、ラヴェルはサティを世間に認知させるべく、彼の「サラバンド第2番」を自ら演奏したという。

 フランク、サン・サーンスから続く当時のフランス音楽の伝統である、複雑な音楽様式から全く対極にあるサティの作品の示す極端な単純さ。あえて、素っ気なくこの曲を作ったと言わんばかりのサティのやせ我慢のダンディズムを、ひとりラヴェルが受け継いでいるのも自然の道理ではないだろうか。

 (直接今日の弦楽四重奏曲とは関係ないが、ラヴェルの傑作「ボレロ」の人を食ったような単調さ、あれもサティの「ジムノペティ」や「グノシェンヌ」の執拗な繰り返しと無関係ではなさそうである。)

 もう一つのラヴェルの作品の醸し出すオリエンタリズム。これには一人の友人の影響が考えられる。

 ラヴェルがまだパリ音楽院の学生時代に「亡き王女のためのパヴァーヌ」や「水の戯れ」などの傑作で世間の注目を浴びながら、作曲家の登竜門で保守的なローマ大賞に何年も落選していた時期、彼は「アパッチ」と称する音楽仲間とパリ郊外の一軒家に共同生活をしていた。(その中にはストラヴィンスキーもいた。)

 その仲間の一人にレオン・ルクレールという詩人がいた。彼は熱狂的なワグネリアンで、ペンネームを“トリスタン・クリングゾール”といったという。

 彼は象徴派の影響を受け、東洋趣味に満ちた詩集「シェエラザード」を出版した。そのリズミックな言葉の響きや色彩で、夢幻的なペルシアのイメージを作り出そうとしたという。ラヴェルはその詩集に興味を抱き、歌曲集「シェエラザード」を書いた。

 その第1曲「アジア」はこう唄う。

 Asie,Asie…アジアよ、アジア、古くて素晴らしいお伽の国よ…
       私は船出したい、お前の許に…

  (このラヴェルの極めつけの東洋趣味の曲には、ヒルデガルト・ベーレンスのソプラノ、フランシス・トラヴィス指揮ウィーン交響楽団の演奏がある。)(LONDON L28C-1857)

 話が随分遠回りしてしまった。一日雨が降りしきる日に、ラヴェルのこの、特別お洒落でカッコよく、情熱的でありながらクールな、室内楽の逸品に耳を傾けてほしいのです。

 演奏は、マリー・ローランサンのジャケットもお洒落な、アルバン・ベルク四重奏団の1984年録音をお薦めします。(EMI 27 0356 1)(CDは EMI TOCE59062)

 ロマンティックでありながら現代的、優美にしてかつシャープな演奏に目を見張ります。カップリングもドビュッシーの弦楽四重奏曲で言うことなし!

 
      


 

閉じる コメント(6)

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ホント、GUSTAVさんとの感性の類似を感じます(僭越ながら)。大きく違うところはGUSTAVさんの文章の緻密さが、僕にはないところだな。CDのライナーノートが書けそうですね。

2005/7/4(月) 午前 1:49 zar*th*s*rafu*i

バレエで使われる曲がたくさんです。ラベル、亡き女王・・ボレロ、ラベルは振りのほうも簡素で、感性の見せ所。シェヘラザードは音が取りやすいので(^^;)踊り手としては踊りやすいですね〜☆

2005/7/6(水) 午前 9:31 cla*aa*g*laj*

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ちょうど、「水の戯れ」を聴いています。題名の通り、雨音のようできれいな音楽ですよね。

2005/7/6(水) 午後 9:13 [ うらん ]

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ふじさんに感性が近いと言っていただけて、光栄です。ブログでなければ、離れていて、こんな共感お互いに知ることできませんよね。まぁ、こんなお洒落な曲もそうは無いですよね。

2005/7/6(水) 午後 11:56 gustav

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claraさん、曲を聴くと、バレエの踊りの場面が思い浮かぶって発想が自分にはないので、新鮮です。やっぱ一度バレエの舞台を早いとこ見なきゃなぁ。(実は一度もバレエの舞台を見たことないです。)

2005/7/7(木) 午前 0:01 gustav

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うらんさんはラヴェルと聴くとやっぱりピアノの音を思い浮かべるのでしょうね。自分はまずやっぱりバイオリンの音が聞こえる。そういう違いって面白いですね。でもこのラヴェルのSQも聴いてみて下さい。

2005/7/7(木) 午前 0:06 gustav

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