クラシック歳時記in松本 (あるいはモーツァルトとともに1年を)

今春発売の内田光子/テイトのCDでようやく好きになれました・・・モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

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8月8日(月)晴れ

 暦の上では昨日が立秋(秋に立(はい)る日)。とはいえ、まだまだ暑い日が…と常套句では続くのだが、やはり違う。

 まず暑さに身体が慣れたのか、それほど暑さが気にならなくなってきた。そしてここ数日蝉(ミンミンゼミ)の鳴き声がやかましくなってきて、昨夜くらいから虫の音(特にコオロギの声)が聞こえるようになった。

 そうか、蝉とかこおろぎとかは、夏の盛りが峠を越えて秋に近づいていることを、我々に教えに来てくれたのか。

 中国南宋(12世紀)の詩人、楊万里(ようばんり)に「夏夜(かや) 涼を追う」というぴったりの詩がある。

  夜熱(やねつ)依然として午熱に同じ
  門を開きて小(しばら)く立つ月明の中(うち)
  竹深く樹(き)密にして虫鳴く処(ところ)
  時に微涼有り 是れ風ならず

 昼間と変わらぬうだるような暑さの熱帯夜、微かに涼しさを感じさせてくれたのは、暗がりから聞こえた虫の音だった。今も昔も虫の音が最初に涼しさを運んでくれる、この天の恩寵は変わらないのだ。(このように中国の詩も宋の時代になると、唐詩に比べて繊細で感覚的な表現が多い。)

 ともかくも立秋を過ぎ、夏の暑さも第二ラウンドに入ったが、こおろぎの助けを借りながら乗り切っていきましょう。

 さて本題の夏の夜に聴くクラシック。第五夜はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番!

 エーッ、この暑いのにチャイコフスキー?という御仁もいらっしゃることでしょう。チャイコフスキーの音楽って、冬の寒い時に一杯ひっかけてカーッと熱くなるウォッカみたいなものじゃないの。

 一般的には私もそう思います。個人的には「チャイコフスキーは12月の作曲家」と考えています。(それはまた冬にゆっくりと。)

 でもね、このチャイコのピアノ・コンチェルトを一度聴いてみて下さい。それもできればこのマルタ・アルゲリッチのピアノ。キリル・コンドラシン指揮バイエルン放送交響楽団の1980年の記念碑的なライヴで。(LP: PHILIPS 20PC-2001)(CD: PHILIPS UCCP-7003)=\1000!

 何というスリリングで、エキサイティングな演奏だろう。音楽を聴いているのに、まるでジェットコースターに乗っているようなめくるめく爽快感!そしてそれがもたらす興奮は、胸の内をカーッと熱くしてくれるのも確かだけれど、表面的な皮膚感覚はあくまでクーーール !(It's cool!)気持ちイーィ!

 第1楽章冒頭の導入部、あのあまりにも有名な変ニ長調の旋律が2度繰り返された後、(CDでは4:08後)アルゲリッチの独壇場が始まる。スタジオよりもライヴでこそ真価を発揮する「クラシック界の類稀なるじゃじゃ馬」。(ピアノ界の女王、と差し障りのない表現にしておこうかな。)

 聴衆の期待する空気を察知し、自らのテンペラメントだけを頼りに全てを燃焼しつくすことに徹するタイプの芸術家だけに、気分が乗り切った時の彼女の演奏は鮮烈な、凄絶この上ない美しさとスピード感で聴き手の心を奪ってしまう。

 そういう意味ではアルゲリッチは、カルロス・クライバーと極めてよく似た気質の芸術家といえる。

 そんな彼女の長い演奏活動の中でも、これほど乗りに乗った会心の出来栄えの演奏は、他にただ一度1965年ワルシャワでのショパン国際コンクール本選会でのショパンのピアノ協奏曲第1番のライヴのみであろう。

 これほどまでにアルゲリッチの演奏が燃えたのは、何といっても共演者が、スラヴ魂あふれるチャイコフスキーの旋律を知り尽くしたコンドラシン指揮するところのバイエルン放送交響楽団だったということだろう。

 kalosさんも書いておられるように、コリン・デイヴィスを相手に、またラファエル・クーベリックを迎えてあのウィーン・フィル以上の名演を残す実力派オーケストラ。

 そして指揮者コンドラシンにとっても、旧ソ連から亡命し、西側で本格的に活躍するこれは最初の仕事であった。そして名門アムステルダム・コンセルトヘボウに招かれ、これからという翌年1981年客死したこの偉大な指揮者のこれはオマージュとなった。

 聞けばこの二人の組み合わせは、アルゲリッチのたっての希望で実現したという。彼女の最初のチャイコのこの曲の録音の相手は、当時夫だったシャルル・デュトワ。

 デュトワ然り、ロストロポーヴィッチ然り。彼女の共演者は常に彼女に選ばれ、彼女の情熱が注がれた者のみがその栄誉を担う。

 してみると、この第3楽章の独奏者と指揮者ががっぷり四つに組んだまま、音楽が第4コーナーを回って未曾有のスピードでゴールへと駆け抜けていく様を聴くにつけ、コンドラシンはアルゲリッチの期待に応え、見事に「じゃじゃ馬ならし」をなし遂げた、本当に男の中の男だったと彼の急死を惜しむのである。
 

 

閉じる コメント(4)

こんにちは!「エッこの暑い最中にチャイコン??」と思い・・で、あらら先んじられてしまいました。ふむ。なるほどかも。・・・12月の作曲家、なんとなくわかります。トロイカの世界かしら?晩秋から、春まだ遠い冬、、の、作曲家。/アルゲリッチ、私、昔は好きじゃなかったんです。慣れなれしい!と思って。それが今では・・素晴らしいの一言。去年ピアノデュオを聴きました。相方のフレイレが大変そうで、でも、ものすごく良かったです。

2005/8/9(火) 午前 8:29 らぷそでぃ▼*^▽^*▼

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らぶ子さん、やっぱり意外性のあるもので勝負したい気持ちはあります。でもそれだけに説得力がないといけませんよね。今度のPHILIPSのスーパー・ベスト100で\1000で発売されたので、未聴でしたら是非聴いてみて下さい。カップリングのラフマニノフの3番も名盤の1位になっています。

2005/8/10(水) 午前 8:18 gustav

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ごめんください。
この曲と言えば出だしのところが大変有名ですが、第二、三楽章も良いですね。この頃、気がつきました。
コンドラシンはベートーヴェンでチョン・キョンファの伴奏をしたの持っていますが、すばらしい演奏です。
彼の人生は壮絶だったそうですが、人間的にやさしい方だったと想像します。

2008/5/18(日) 午前 11:39 [ - ]

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kazuさん、演奏家とは巡りあわせというものがあるのか、良い演奏家だろうと思っていても、LPやCDを意外に持っていない場合があります。コンドラシンもその一人でこれ1枚だけです。「シェエラザード」や「新世界」などいろいろ聴いてみたかった演奏がたくさんあります!(バカ話で恐縮ですが、コンドラシンを打とうと自動変換したら今度裸身と出てしまいました。何やら意味ありげになってしまいました!!)

2008/5/18(日) 午前 11:55 gustav


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