クラシック歳時記in松本 (あるいはモーツァルトとともに1年を)

今春発売の内田光子/テイトのCDでようやく好きになれました・・・モーツァルト ピアノ協奏曲第9番「ジュノム」

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4月1日(金)快晴

 4月。新しい年度が始まった。今日はそれにふさわしい天気。快晴だ。残雪を頂く北アルプスの雪の白さが目にまぶしい。

 職場に向かう車から正面に見えるのは常念岳。鮮やかな鋭角のピラミッド型に残る雪の量は、この冬の寒さを反映してか、思いの外多い。その左肩にちょこんと首を出しているのが槍。今日は白馬の向こうまで、北アルプスのすべてが見渡せる。

 ところでここ信州ではまだ本格的な春到来とはいえない。東京では桜の開花が伝えられるが、こちらは
家の白梅、紅梅がようやく咲き始めたところ。

信州では4月中旬以降、桜が開花、そして散った後、その他の花が一斉に咲き始めるとき、ようやく春本番を迎える。その見事さ、ダイナミズムは毎年のことであるのに、毎年々心から感動させられる。

 日本という四季の美しい国に、とりわけ季節の変化が劇的でダイナミックな信州に生まれ育ったことへの感謝の念、喜びに、おおげさに言えば「生きていてよかった」と胸ふるえる瞬間だ。

長い冬が続く(アルプス以北の)ヨーロッパには「美しき五月」という言葉がある。それほど長く待ち望んだ春が奔流のごとく押し寄せる感激と喜びを体感できるのは、日本では北海道に住む人々とわが信州人だけかも知れない。

 そういう訳で信州はまだ本格的な春の前、強いて言えば「早春」である。(ちなみに「春は名のみの風の寒さや…」で始まる中田喜直の「早春賦」は信州安曇野をうたったもので、勤務先から程近い場所にその石碑がある。)

 そんな早春の、田畑に赤や黄色の花の色はおろか、草の緑色もない、一面白茶けた枯れ草の野の風景に似合う曲がモーツァルトのバイオリン協奏曲第5番である。

 第一楽章、序奏に続いてすーっと入ってきた独奏バイオリンが一呼吸おいて、急速に旋律を上昇させながら、力強くかつ優美に奏でる第一主題。それはまるで早春の枯れ野の中から激しく空へ舞い上がるひばりのさえずりのようだ。

しっとりとして甘美な第二楽章、「トルコ風」の愛称を持つ典雅なメヌエットの第三楽章と合わせ、ひとことで言えば「優雅」な作品である。どこか老成した感さえあり、とても19歳の青年が書いた曲とは思えない。まぁ、そこがモーツァルトの天才たる所以であるのだけれど。

とにかくちょうど230年前、遠くヨーロッパはザルツブルクの地で作られた音楽が、今こうして極東の島国で遅い信州の春を待つ心象風景にマッチしている。クラシック音楽の持つ不可思議な魅力である。

 演奏はつややかで柔らかなバイオリンの音色で知られる、ベルギーのアルテュール・グリュミオーの独奏、コリン・ディヴィス指揮ロンドン交響楽団のものを、1961年の古い録音ですがお薦めいたしします。
(PHILIPS PHCP21014)

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